IT活用
1997年7月、文部科学省の審議会である「情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の推進等に関する調査研究協力者会議」は、「情報化に対応した教育」を、次の3つに整理しました。
1.情報教育
子どもたちに情報活用能力をつける
教科および「総合的な学習の時間」で行う
2.学習指導における情報手段の活用
よくわかる授業のために利用する
教科の学力をつけるための教育方法
3.校務の情報化
学校関係事務の効率化
教員間の情報の共有化
本日のテーマである「情報教育のポイント」について触れる前に、まず、「2.学習指導における情報手段の活用」についてお話します。
これは、教育方法の改善を意味するものです。例えば、これまで黒板だけでは教えにくかったことをホワイトボードや大型スクリーン、プロジェクターなどを活用して、つまり、視聴覚機器の延長として、授業を少しでもわかりやすくするために教科学習の中で活用していくものです。
文部科学省の教育用コンテンツ開発事業によって進められた定点観測サイト「teITen2000」は、全国の気象観測などに役立ちます。教室にコンピュータがあり、インターネットに接続され、大型プロジェクターやスクリーンが整備されていれば、これを授業に活用することができます。
しかし、これらは、「学習指導における情報手段の活用」であり,厳密には「情報教育」ではありません。もちろん、ITをうまく活用して子どもたちに教えることは、とても大事なことですが、情報教育とは明確に区別する必要があります。
都田ダッシュ村Webサイト
都田ダッシュ村ライブカメラより活動の様子
「都田ダッシュ村」プロジェクト
それでは、こちらはどうでしょうか。これは、静岡県浜松市立都田小学校と私の研究所、さらにはスズキ教育ソフトの3者による「都田ダッシュ村」
プロジェクトのホームページです。
これは、5年生の「米作り体験学習」をベースにしたもので、田んぼの様子を2台のライブカメラで撮影し、温度・湿度・水温などをセンサー(キューブセンサーNet)によって測定しています。そして、ノートパソコンをLANで接続すると同時に、デスクトップパソコンからPHSでデータをサーバに送信しています。5分ごとに送られてくるデータは、逐一ホームページ上に掲載され、公開される仕組みになっています。
先ほどの「teITen2000」は、行くことが困難な場所の情報を得ることができるメリットがありました。しかし、この「都田ダッシュ村」の情報は、子どもたちが実際に行くことができる場所での実験なのです。(学校から田んぼまでは歩いて約10分)。つまり、子どもたちに積極的に行って欲しいと考えたのです。
やがて子どもたちは、気になって田んぼに行くようになりました。夏休みの間も、何人もの子どもが田んぼに足を運んでいます。そして、自分なりに気温を測定したり、稲の観察記録を残したりしています。
こうした経験は、子どもたちの活動に変化を起こさせました。「川調べ」の活動で出かける際に、子どもたちは、メジャーやPDA(携帯情報端末)、センサーなどを持っていくようになったのです。いろいろなものを使ってみようという、「道具」を意識した活動が行われるようになりました。そして、同時に深く観察する力が身についていきました。
このように、都田小学校の子どもたちは、情報ツールを活用することによって、体験学習をより促進させることになったのです。
政策の動向/2005年の教室・先生・学校
教育の情報化は、文部科学省の政策です。しかし、それは日本だけの課題ではなく、世界的な課題なのです。日本が今、力を入れているのは、先進国の中では、この教育の情報化が最も遅れている国のひとつだからなのです。
日本には、まだまだITを活用しなくても教科内容を充分に教えることがでる先生が多くいます。しかし、世の中(社会)は変化・発展しています。やがて適切な教材や情報を得るためにIT活用がもっと必要になってくるでしょう。
教育の情報化のためのひとつの目安(時期)は、2005年です。2005年に向けて、予算化はすでに施されているわけですから、そのイメージを明確に持ち、取り組むことが大切になります。
それでは、「2005年の教室・先生・学校」のイメージを掲げてみます。
2005年の教室
-全教室にコンピュータ
-全教室に高速インターネット
-プロジェクタや大型モニター
2005年の教師
-わかる授業のためにIT使う
-教師の個性とTeam Working
2005年の学校
-情報公開、説明責任
-学力保証、外部評価
ここで、「2005年の学校」について補足すると、公立学校においては、市役所などと同じように市民の「目」が届く時代になり、情報公開が迫られることになるでしょう。その時、学校のホームページには、閲覧者が望む情報が掲載されていることが大切です。
また、学校が目指している教育目標がどのように達成されているかなどを市民に伝える責任が発生してくることを意味しています。
さて、平成15年3月時点における文部科学省のふたつのデータをご紹介します。
ひとつめは、「コンピュータ1台あたりの児童生徒数」の県別比較です。全国平均が9.7人に一台。最も少ない神奈川県では、14.5人に一台となっています。一般的に、情報機器整備が遅れている地域では、情報教育に対する先生の意識も低いと言われています。整備が遅れていれば、情報機器に接する機会も必然的に低いわけです。残念ながらデータを見る限り、自治体間の格差は大きいと言わざるを得ません。
もうひとつは、「普通教室のLAN整備率」です。全国平均は29.7%。しかし、第一位の富山県のように71.2%という高い整備率を示している地域もあるのです。政策では、2005年には100%整備が完了することが示されています。
情報社会を生き抜く力
それでは、ここから情報教育に関する話題に移ります。まず考えたいのは、「情報社会を生き抜く力とは」どのようなものか、という点です。
私たちの生活は、インフラ(社会基盤)が整っていることが前提になっています。例えば、冷蔵庫や炊飯器、電気などです。すでに、マッチを使って火を付けて・・・という行為は行われなくなりつつあります。つまり、生活がとても便利になっているわけです。
このように、社会が変われば求められる能力も変わってきます。そこで、情報社会における「仕組み」と「つきあい方」を理解することが大切になるのです。
情報社会における「仕組み」と「つきあい方」
●道具は生活の中で機能する 例/冷蔵庫
パソコンも、仕組みはわからなくても使えるようになる。それは、能力ではなく経験です。子どもたちに早く経験させて道具にさせることが大事なのです。
●道具が生活の様式を変えている 例/携帯電話
携帯電話の普及によって電話の仕方や待ち合わせの方法が変わってきました。つまりそれは、マナーやモラルの変化を意味しています。
●道具が社会を変えている 例/新聞 書籍流通
インターネットなどを通じて新聞を読むことで、配達コストの削減にもなり、新聞配達のニーズが減ってきます。
●操作そのものは学校では教えない 例/テレビ
学校でテレビの操作を教えるということありません。それは、家庭で覚えることであり、すでに社会常識になっているからです。今、コンピュータの操作が人よりできる子は、自宅にもコンピュータがあるケースが多いのです。つまり、やがて学校では操作を教えなくなり、操作そのものが社会常識になる日が来ると考えられます。
では、「情報社会で必要な力」とは、どのようなものなのでしょうか。
ひとつめは、ITを使って仕事を上手に行う、つまり「スキル」を身に付けること。それは、ITを道具としてとらえることです。
ふたつめは、私たちの社会がITによって支えられているという、その「知識」を身に付けること。そして三番目に、情報の読み書き能力を身に付ける、すなわち「総合力」を備えることです。
これらの力は、自然に身につくものではありません。だから、鍛えて身に付ける必要があるのです。
情報教育の授業イメージ
「情報社会で必要な力」は、鍛えて身に付ける必要があります。では、どのように、何を鍛えればいいのでしょうか。それを提示する前に、情報教育の授業のイメージを考えてみましょう。
まず、情報教育の授業では、いろいろなITを使っています。そして、情報を集めたり、整理したりしています。さらに、情報をうまく伝えようとしています。では、これらの授業が行われるためには、どのような基礎基本が必要なのでしょうか。
先ほどの都田小学校の「総合的な学習の時間『おこめ』」の体験学習を振り返って見ましょう。「おこめ」の体験学習で、子どもたちが学んだものは、次の3つです。ひとつめは、おこめに関する知識です。これは題材であるのでいうまでもありません。
次に、学ぶスキルを学んでいます。これは、インタビュー技能や論点の整理、あるいは伝え方などです。デジタルカメラなどのITを活用することで達成されています。
そして3つめが、生き方を考える、ということです。これは、「総合的な学習の時間」の目指す内容そのものにあたります。
情報教育の基礎基本とは
このような授業イメージを踏まえて考えた時、「情報教育の基礎基本」とは、次の5つではないかと、私はとらえています。
1.情報を読み取る
2.情報を見抜く
3.情報を集める
4.情報を表す
5.道具としてITを使う
「1.情報を読み取る」とは、説明的文章やグラフなどを理解できる力です。情報として提示されている内容は、説明的文章で書かれています。したがって、これを理解する力がなければ、情報を読み取ることができないということになります。
「2.情報を見抜く」とは、まず、情報とは人が人に伝えるものであることを理解し、新聞に載っている内容などは、わかってもらうために、人によって編集されていることを知らなければなりません。つまり、情報には編集される性質があり、強調されているものや捨てられているものを、比べ見抜くことです。
「3.情報を集める」とは、情報を選ぶために、探しに行くことです。必要ならば現地まで足を運ぶことが大切なのです。
「4.情報を表す」とは、発信側に立ち、情報を伝えるために、通達文を正確に書くことです。
「5.道具としてITを使う」とは、これらの活動にあたり、ITを道具として適切に活用することです。
キーボー島アドベンチャー
情報教育の「九九」
情報教育は「鍛える」ことが大事である、とここまでお話してきました。情報教育の基礎基本を学習するためには、日頃から各教室で意識させることが大切になります。
そこで、もうひとつ、「情報教育の『九九』」というお話をします。
これは、算数の「九九」に相当するものです。算数の「九九」は、覚えさせ、暗記させ、訓練させることでマスターし、その後それを使って物事を解決する力になるわけです。同様に、情報教育でも、この「九九」の役割を果たすものが必要であると考え、産学協同で開発を進めてきたものがあります。それが、全国小学生キーボード検定サイト「キーボー島アドベンチャー」です。
この全国小学生キーボード検定サイト「キーボー島アドベンチャー」は、2003年5月から、全国19校において約1900人の子どもたちによって体験されてきました。
プロジェクトの趣旨と指導原理は、次のようにまとめることができます。
プロジェクト趣旨
●情報教育の現状から
子どもたちが発信する学習活動を成立させるためにキーボード入力がボトルネックとなり学習活動が停滞する
●これまでのキーボード指導から
能力ではなく経験値が大切である
楽しみながら繰り返し練習できる
在校だけでなく在宅でも学習できる
指導原理
●日本語入力に関する学習
ローマ字「入力」の学習である
タッチタイピング指向
●30ものステップへの分解
モニター校の実践やスズキ教育ソフトの開発のノウハウが活かされている
●「検定」という方式
漢字、計算、なわとびのように
基礎基本の訓練としてとらえる
全国小学生キーボード検定サイト「キーボー島アドベンチャー」は、全国19のモニター校とスズキ教育ソフト、そして私ども静岡大学情報学部堀田研究室による産学協同プロジェクトです。 これまでの研究結果では、キーボード入力の上達は、取り組んだ「回数」よりも、取り組んだ「日数」に関連が強いという知見がわかっています。したがって、毎日継続して取り組むことが大切であるということが示されています。
最後に、今後、教育の情報化はさらに進んでいきます。その時、情報教育の基礎学力は学校の責任になっていきます。しかし、それと同時に、学校だけで教育する時代ではなくなってきているのも事実です。さまざまなコンテンツを利用することが、これからの学校には、一層求められてくるでしょう。
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