インタビュー&コラム

Interview

情報教育の実施と定着に向けたその“準備”

富山大学 人間発達科学部 助教授
高橋 純

(2007/02掲載)

総務省が発表した「通信利用動向調査」の平成17年末時点での世帯、企業及び事業所におけるインターネット普及率調査によると、世帯普及率は87%、約8,500万もの人がなんらかの形でインターネットを利用している状況である。ますます発展を続ける情報社会にあって、今後もそれを上回る普及率・利用状況が容易に予想される。
このような状況下、学校教育における対応「教育の情報化」推進において、子どもたちの情報活用能力を伸ばす“情報教育”の必要性がますますクローズアップされてきている。
必要性が叫ばれる“情報教育”であるが、一体「何を」「どのように」、実施していけばよいのか。その“準備”のポイントを中心に、富山大学助教授・高橋純先生に伺った。

 

―――今、子どもたちを取り巻く社会情勢において、情報教育の実施がますます重要になっていると思いますが、いかがでしょうか?

高橋 ITという言葉も目新しいものではなくなるほど、情報通信技術が普及した社会になりました。最近では、パソコンや携帯電話のみならず、携帯ゲーム端末までもがインターネットに接続するようになり、ITの利用手段や利用状況がより多様になってきています。
 ITに無縁と思っている大人でさえ、情報社会と無縁ではいられません。当然、今の時代を生きる子どもたちも同様です。子どもたちの個々の生活環境に関わらず、情報社会との関わりは数多く存在します。
 情報教育では、情報社会や情報機器との上手な付き合い方を学びます。今、情報モラル教育も大きくクローズアップされていますが、それも “情報教育”の体系の1つです。したがって、“情報教育”は“今の社会”を生きる上でとても重要です。


―――文部科学省の「初等中等教育における教育の情報化に関する検討会」から発表された「初等中等教育における情報教育に係る学習活動一覧」によって、具体的な“情報教育”の指導内容が示されました。学校現場において、どのようなメリットがあるとお考えでしょうか?

高橋 学習目標や指導内容が具体的に示されたことにより、情報教育の指導イメージが、よりわかるようになったと思います。また、各教科との連携についても具体的に触れられており、情報教育にも対応した各教科での指導計画づくりが容易になりました。ただ、ずいぶん指導はしやすくなったと思いますが、まだ、読んだらすぐに指導できるほどには、かみ砕かれていません。教師はいろいろと準備すべきことがあると思います。

 

 

―――まず、授業時間の確保をどのように考えればよいのでしょうか?

高橋 小学校の場合、“情報教育”のための特別な教科がありません。学習指導要領では総合的な学習の時間において例示されているので、ここでまず実施可能です。例えば情報モラルの学習は、総合的な学習の時間であれば、実施しやすいでしょう。
 また、各教科においても当該教科の目標は押さえつつも、情報教育を意識して指導することが可能な内容があります。これらは報告書にある学習活動一覧に書かれていますね。各教科で出来そうなことは各教科で行うとよいでしょう。
 どの教科で情報教育の何が指導出来そうか、教科書の単元名レベルで整理することが必要ですね。

 

―――そして、教材や教具といった準備も必要ですね。

高橋 一般に、各教科では、学習目標や内容だけではなく、どのように指導したら良いかの手順や教材・教具が用意されていますよね。つまり、指導書、教科書、副読本などです。各教科での学習指導には、本当に欠かせないものです。
 同じように情報教育においても、それらに相当するものを準備することで、多くの先生方が実践しやすくなるでしょう。しかし、いわゆる情報の教科書はありません。例示された目標や学習活動を良く検討した上で、指導書や教科書に相当する具体的な教材・教具等の準備が必要です。情報教育ですから、書籍の形式だけではなく、ツールやコンテンツなど、ソフトウエアの形式で用意するのも良いですね。

 

 

―――各先生方が教科書等に相当するものを準備することは難しいと思いますが。

高橋 多忙な先生方、そして専門でない先生方に、それらの準備を要求するのは無理なことです。また、非効率な方法です。情報教育も他教科と同じように、教育センター等が準備しているものを使うとか、販売されているものを購入することが現実的だと思います。情報教育を効果的に進めるための支援ツールやテキストも徐々に市販されるようになってきました。
 それらを選ぶ際には、まず、「初等中等教育における情報教育に係る学習活動」を踏まえ、体系的な内容になっているかがポイントになると思います。そして、専門でない先生方でも、何をどう教えれば良いのか、何を押さえれば良いのか、時間はどれくらいかかるのかといったことを、すぐに把握し指導できることもポイントになります。

 

 

―――準備する教材、特にソフトウエアに求められる要件とは何でしょうか?

高橋 情報教育の授業では、子どもたちがコンピュータを活用する場面が数多くあります。教材・教具としてのソフトウエアが必要といえます。この時ソフトウエアは、学習目標への到達を意識した作りになっていること、教育的な配慮があることが大事だと思います。例えばコンピュータを使って新聞、ポスターやチラシを作ろうと思うとき、大人向けの汎用ソフトウエアでは複雑な操作が必要なことがあります。これではソフトウエアの操作を覚えているのか、ポスターを作っているのか分からなくなります。
 逆に、複雑な操作もなしに、図や色、文字の大きさやレイアウトを試行錯誤しながら工夫できる、そういう学習に配慮されたソフトウエアがあると、情報教育の目標に迫りやすくなると思います。
「情報教育に係る学習活動」を参考に、先生方の情報教育の指導を適切に支援し、実践しやすくするための教材・教具等の準備を検討してみては如何でしょうか?

 

(資料)

情報教育に係る学習活動 : 教育情報ナショナルセンター(NICER)

初等中等教育における教育の情報化に関する検討会  文部科学省サイト内

情報教育の目標で分類した学習活動一覧(小学校段階・中学校段階・高等学校段階)

 

高橋 純 先生 プロフィール

富山大学 人間発達科学部 助教授

1972年生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、横浜国立大学大学院教育学研究科修了、富山大学大学院理工学研究科修了。博士(工学)。園田学園女子大学情報教育センター・助手を経て、現在に至る。専門は教育工学、情報教育。教育の情報化に関する研究に従事。第17回日本教育工学会研究奨励賞受賞。文部科学省委託事業「e-Japan実現型教育情報化推進事業」推進会議委員、「教育の情報化の推進に資する研究(ICTを活用した指導の効果の調査)」委員など。著書に「映せばわかる プロジェクタ活用50の授業場面」など

 

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