授業実践リポート ICT活用&情報教育

Column

保護者にも知っていただく“情報モラル”
~子どもを見守る大人への啓発活動を~
〈後 編〉

静岡県 菊川市立岳洋中学校 教諭
宮下 敦史

(2009/10掲載)

〈〈前編はこちら

前号に続いて本校で取り組んでいる、情報モラルに関しての保護者向けの啓発活動の手順等をお伝え します。

 

保護者向け講習会実施時のポイント 

(7) 学校での指導には限界があり、家庭の協力が必要であることを伝え、「ここまでが学校で指導できること・すべきこと」、「ここからは家庭での保護者の指導・支援が必要なこと」と、情報モラルの問題について指導や啓発すべき点に関する役割分担の範囲を伝えています。例えば、携帯電話の持ち込みを本校では禁止しているので「学校では生徒指導上、携帯電話を学校へ持ってくることを禁止しています。」ということを(生徒や)保護者に伝えながら、「生徒は、まだ十分な判断力を持っていないので、保護者のみなさんには『携帯電話を子どもに持たせる必要があるのか。』からお子さんといっしょにしっかり考え、検討し、お子さんへの指導を行ってほしい。」ということも伝えています。

(8) 実際に国内であった小中学生による「威力業務妨害」などの事件を挙げ、その言葉の意味を示し、状況によってはいたずら半分の掲示板等への書き込みであっても生徒が補導・逮捕されてしまう場合がある事も伝えています。

(9)生徒に携帯電話やコンピュータでインターネットを使用させる前に、保護者が生徒に伝えるべき事を「転ばぬ先の杖」の発想で考えていただいています。

(10) そのような手だてを講じていてもトラブルに巻き込まれた場合、どのような対応を保護者がとればいいか、生徒がどう対応すればいいかの具体例を提示し「我が家のルール」を考えていただく上での参考にしていただいています。

(11) さらにそのトラブルが、大きなダメージになった場合についての対応をいくつかの例を示しながら考えていただくようにしています。

 (7)~(11)の内容は、本校では私が伝えているものの、実際にはネットトラブル等に詳しい教員がいないと学校側から伝えるということはなかなか難しいことだと思います。そこでネットトラブルを紹介している冊子を購入してそれを基に伝えたり、学校関係者とは違う立場の専門家の方に講演していただくのもひとつの手段です。

 

 

講習会のまとめとその後の対応 

 講習会後は、小グループ(学級懇談会など)に分かれて、意見交換の場を設け、意識をさらに高めてもらうことが必要であると考え、実施しています。
 また、講習会の感想を書いていただき、学校便り等で知らせていくことも行い、参加しなかった保護者の方にも学校の姿勢を伝えています。
 さらに保護者の方から、ネット利用によって起こるトラブルやその対策を教えていただきたいという依頼があり、スズキ教育ソフトの「あんしん・あんぜん情報モラル」にある「家庭通信」を学校からの説明文書とともに保護者に配布しています。 

 

実践を行って

 事前にアンケートをとることにより、学校が把握できていない、生徒の家庭での携帯電話やコンピュータ、ゲーム機によるネット利用の実態がわかってきました。この実態を保護者会で示すと、保護者の方の多くがとても驚かれていました。さらには、例えば「家庭のコンピュータでインターネットへつなぐ時の約束を親子でしていますか?」という質問内容で、生徒と保護者にアンケートに答えてもらうと、生徒の認識と保護者の認識にズレがあることもわかりました。そのことも保護者に伝えると、多くの保護者の方が困惑の表情になりました。
 こうした活動の中で保護者の中から

・親が伝えたかったことを子どもが真剣に受け止めてくれたか不安。

・この保護者会で出た内容を、家庭で子どもと話し合いたい。

・ネットトラブルについて、あまりにも知らなかった。

・トラブルにあわないようにするにはどうすればよいか、あったときにどうしたらよいか知りたい。

 などの感想がありました。  保護者の方に「危機感を持ってもらうこと」「親子の認識にズレがないようにしなくてはならないこと」を理解していただくことが、とても重要なことであると考えます。

 

安全なネット利用の第一歩

よりよい親子関係が築かれていることが、家庭での子どもの安全なネット利用の第一歩

 小中学校関係なく、ネットトラブルから児童生徒を守るために、最も必要なのは「よりよい親子関係の構築」です。「家庭が児童生徒にとって安心できる場所」であることや、「困ったことが起きた時に児童生徒が親にいつでも話すことができる関係ができている。」ことが、トラブルを最小限に食い止め、児童生徒が被害者あるいは加害者になる前に食い止めることになります。これは「私の主観」という意味だけでなく、今年5月に文部科学省から出された「子どもの携帯電話等の利用に関する調査結果について」にもポイントとして書かれています。
 保護者がインターネットのセキュリティのことを初めから詳しく知っている必要はありません。児童生徒のSOSを受け止め、一緒に善後策を考えることができることが大切です。
 このことを保護者向け啓発活動を通じて、保護者に再認識していただくことで、児童生徒の健全育成ができると考え、まとめの場面で必ずこのことを伝えています。

 

最後に

 私が、地元の先生方にICT関係の研修でいつも伝えているのは、「授業でICT機器を使ったり、子どもたちにコンピュータやデジタルカメラを使わせたりする以上は、つまり、『子どもが情報と向かい合う場面を持つ』以上は、情報モラルを指導することも当然必要となる。」ということです。子どもが「情報」に向かい合った際に、その情報を的確に判断し、それを有効に活用できる能力を身につけていくことが、子どもたちがこれから生きていく情報社会では必要となるためです。  もし仮に、子どもたちが学校のコンピュータ室にあるフィルタリングをかけた状態の、しかも教師の管理下にある中でのコンピュータの使用や、学校所有のデジタルカメラを使っているだけであるなら、情報モラル指導は、「これからの未来の情報社会を生きていく子どもたち」という視点で考え授業するだけで十分でしょう。
 しかし、よく考えなければならないのは、今の子どもたちが使用するネットツールは学校のものだけではないということです。そして、その学校以外の場所(家庭など)で使うネットツールで事件が起きているのです。(その中には、学校で学んだことを悪用している場合もあります。)
 保護者向けの啓発活動を行うにあたっても、「その前にまず子どもへの情報モラル指導ありき」なのです。
 「我が子を守りたい。」という思いはどんな保護者も持っています。当然「何とかしたい。」という思いも持っています。「子どものネットトラブル」が話題として様々な報道等で出てくる度に、「学校と家庭と地域が協力して子どもたちが[ネットトラブル]にあわないようにしなくてはならない。」という文言が必ずと言っていいほど書かれています。その協力の第一歩として「学校が一斉指導の中で行っている情報モラルの指導」を保護者にアピールすべきでしょう。そして、「学校でできる限界までの指導は行っている。」と保護者に示すべきでしょう。そうすれば「学校がここまでやってくれているのだから、子ども一人ひとりへの指導は家庭でもがんばらなくてはならない。」と思っていただける保護者も少なくないはずです。
 昨年出た新学習指導要領、並びにそれにそって3月に出された「教育の情報化に関する手引き」、2月の文部科学省からの子どもの携帯電話利用に関しての通達、リーフレットと5月の携帯電話利用に関しての集計結果とポイントなど、児童生徒に対しての情報モラル指導や保護者向け啓発活動を行うために必要な資料が相次いで出されています。こうしたものが出てきたタイミングをきっかけにして、どの学校でもこうした活動を行ってみてはいかがでしょうか。その際、前後編に渡って紹介させていただいたこの実践資料が少しでもお役に立てば幸いです。 


参考資料 (平成21年9月現在)

文部科学省、『新しい学習指導要領
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/index.htm、
文部科学省、2009年9月1日。

文部科学省、『教育の情報化に関する手引き』http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/1259413.htm、
文部科学省、2009年9月1日。

文部科学省、『「子どもの携帯電話等の利用に関する調査」の結果(速報)について』http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/21/02/1246177.htm、
文部科学省、2009年9月1日。

文部科学省、『「子どもの携帯電話等の利用に関する調査」の結果について』http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/21/05/1266484.htm、
文部科学省、2009年9月1日。

文部科学省「情報モラル教育」指導手法検討委員会(含む普及啓発作業部会)編、『すべての先生のための情報モラ指導実践キックオフガイド』、
社団法人 日本教育工学振興会(JAPET)、2007年。

文部科学省「情報モラル教育」指導手法検討委員会(含む普及啓発作業部会)編、『やってみよう情報モラル教育
http://kayoo.info/moral-guidebook-2007/、
JNK4.org、2009年9月1日。

石原一彦(岐阜聖徳学園大学教授)著、『現場からのレポート 考える子どもを育てる情報教育―「総合的な学習の時間」と教科の情報化のために』、
オデッセウス、2001年。

長谷川元洋(金城学院大学准教授)著、『子どたちのインターネット事件、親子で学ぶ情報モラル』、
東京書籍、2006年。

下田博次(群馬大学特任教授)著、『学校裏サイト』、
東洋経済新報社、2008年。

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