インタビュー&コラム

Column

アジアIT教育事情(2)
シンガポールのIT教育

東京工業大学 教授
赤堀 侃司

(2006/10掲載)

東京工業大学にて教育工学・情報教育の研究、また多方面にてご活躍されている赤堀先生に、全3回にわたり、わが国近隣のアジア各国のIT教育事情について語っていただきます。


写真1/普通教室での学習風景 

生徒1人に1台のコンピュータ

 写真1をご覧いただきたい。これはシンガポールのベストスクールと言われる女子中学校である。この学校の普通教室における数学の授業風景であるが、黒板にスクリーンがあり、同時に生徒の机にも1人1台のノートパソコンがある。シンガポールの暑い日差しを避けるために、窓には日よけのカーテンをし、クーラーを効かせて、授業に集中できるように環境を整えている。教員が指導する時には、黒板とスクリーンを用いるが、生徒が自分で問題を解く場合は、ノートパソコンを出して解答する。つまり、ノートパソコンは、教科書、ワークブック、ノートが一体となったメディアで、自分で問題を解くときに利用する。世界で最もICTを活用し、理科数学の国際学力比較でトップの成績を示すシンガポールの教育事情は、世界が注目している。その取組は、生きるためのリテラシーとしての国際学力比較でトップになったフィンランドと比較される。シンガポールは、なによりも教科の学力を向上させるために、効率的にICTを使うという姿勢である。そこが、フィンランドの教育と異なるところであるが、どちらも意味がある。シンガポールという国土が狭く、競争が激しい社会では、受験、成績、競争は、キーワードになっている。受験を賛美することはないが、日本の子どもは、何か目標を失っているような気がする。暑くても、頑張っている姿は、受験と関係なく、目標を持つ大切さを教えてくれる。

 


写真2/算数の学習風景

手書き入力

 写真2は、小学校の算数で、輪ゴムでできた教材で、三角形の性質について協同作業しながら調べ、その調べた結果をPDAに文字入力している授業であった。受験の厳しいシンガポールでは、異なったイメージであるが、小学校では、やはり基礎をしっかりと学習させるねらいと思われる。ICTは道具であり、それ以上でもそれ以下でもない。小学校では、手で書く、言葉で話す、手足を動かすなど、活動が中心で、その活動を通して理解することは、教科教育で言われたことであった。したがって、ICTが導入されても、ICTだけで学習するのではなく、いかに手書きなどの活動を組み込むかが、重要になる。世界でICTを最も活用するシンガポールでも、小学校では、手書きに配慮している。このことから、黒板、ノート、教科書、ワークシート、実験、作業、グループ活動など、アナログとの組み合わせが、実践的に重要である。

 

赤堀 侃司  先生 プロフィール

東京工業大学 教授

略歴

昭和19年7月21日,広島県呉市生まれ,
静岡県高等学校教諭、東京学芸大学講師,助教授,
東京工業大学助教授を経て,平成3年3月から現職,
平成6年,カリフォルニア大学アーバイン校コンピュータ科学部客員教授
東京工業大学・教育工学開発センターおよび大学院社会理工学研究科
人間行動システム専攻教育工学講座に在籍,
国連大学高等研究所客員教授・放送大学客員教授・文部省メディア教育開発センター客員教授の兼任
各種委員等は、文部省、青少年を取り巻く有害情報環境対策に関する調査研究協力者,
研究開発学校企画調査協力者会議の協力者,など

 

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