インタビュー&コラム

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これからの“教育”と“IT”

聖心女子大学 教授
永野 和男

(2006/06掲載)

 2005年度末までに達成しようと考えていたわが国の教育の情報化計画はどこまで進んだのでしょうか。高速インターネットの接続率が100%に近い市町村があるかと思うと、 まだISDNしかつながっていない地域もあります。教育現場の学校環境の情報格差はむしろ大きくなっているようにも見えます。
 このように格差が生じるのは、従来と違い、三位一体の改革の流れに従って、施設設備の予算執行権が徐々に地方の自治体に移行してきているからです。これまでのよう に「国の政策で決まれば自動的に予算化され、(必要であろうがそうでなかろうが)整備されていく」という時代は終わりました。規制緩和では、しっかりした目的と意志をもって行動しなければ、いい方向には向かいません。しっかり勉強して時代の流れを読み取ると同時に、自らの行動で道を切り開いていきたいものです。

 

IT新改革戦略-いつでもどこでも誰でもITの恩恵を実感できる社会の実現-

 2006年1月19日に、ポスト2005のIT戦略として、「IT新改革戦略-いつでもどこでも誰でもITの恩恵を実感できる社会の実現-」が、政府のIT戦略本部から発表されました。
 そこには次のようなことが書いてあります。

1.教員一人に一台のコンピュータ及びネットワーク環境の整備並びにIT基盤のサポート体制の整備等を通じ、学校のIT化を行う。

2.教員のIT指導力の評価等により教員のIT活用能力を向上させる。

3.自ら学ぶ意欲に応えるような、ITを活用した学習機会を提供する。

4.教科指導におけるITの活用、小学校における情報モラル教育等を通じ、児童生徒の情報モラルを含む情報活用能力を向上させる。

 そして、その具体的な方策として、

(1)2010年度までに全ての公立小中高等学校等の教員に一人一台のコンピュータを配備し、学校と家庭や教育委員会との情報交換の手段としてのITの効果的な活用その他様々な校務のIT化を積極的に推進する。また、校内LANや普通教室のコンピュータ等のIT環境整備について早急に計画を作成し、実施するとともに、学校における光ファイバによる超高速インターネット接続等を実現する。

(2)小中高等学校等において情報システム担当外部専門家(学校CIO)の設置を推進し、2008年度までに各学校においてIT環境整備計画を作成するなど、IT化のサポートを強化する。

(3)2006年度までに教員のIT指導力の評価の基準の具体化・明確化を行い、それに基づき、ITを活用した教育に関する指導的教員の配置や、教員のIT活用能力に関する評価をその処遇へ反映すること等を促進することにより、全ての教員のIT活用能力を向上させる。

(4)2006年度までにITを活用した分かりやすい授業方法や、児童生徒の習熟度に応じた効果的な自習用コンテンツの開発・活用の推進等により、教科指導における学力の向上等のためのITを活用した教育を充実させる。

(5)IT社会で適正に行動するための基となる考え方と態度を育成するため、情報モラル教育を積極的に推進するとともに、小学校段階からの情報モラル教育のあり方を見直す。

 とあります。

 

これからは、学校の主体性や教員自身の努力がますます求められてくる時代

 基本的な方向性は、これまでのIT改革戦略と大きく違ってはいません。すなわち、情報社会を生き抜く「生きる力」を育成するために、「ITを活用した分かりやすい授業方法や、児童生徒の習熟度に応じた効果的な自習用コンテンツの開発・活用」「教科指導における学力の向上等のためのITを活用」と同時に「自ら学ぶ意欲に応えるような、ITを活用した学習機会を提供する」ということは、これまでどおりに続けていけばいいわけです。
 しかし、ここには今までにない表現が使われています。それは、制度化と評価への踏み込みこんだ記述です。これまでは「積極的に進める」「充実させる」など、願いや思いだけが記述されていました。しかし、今回は、
「IT環境整備計画を早急に作成し実施する」「IT指導力の評価の基準を具体化し」「指導的な教員の配置や教員の評価を処遇に反映する」と明示されています。また、評価指標を明確にして出しているのも具体的です。
 このような踏み込んだ記述にしているのは、先ほどの三位一体の改革に関連して、それぞれの都道府県に実施の主体を任せる代わりに、外部からの評価を導入して国民に公開する、新しい方式に移行しようとしているからです。これからは、学校の主体性や教員自身の努力がますます求められてくる時代になるでしょう。またその努力が報われてくる時代にもなります。

 

 

キーワードは、「主体的な学習」の実現

 情報教育に関して、小学校での実践は「総合的な学習の時間」などでいい実践が行われるようになって来ました。まだ十分でないと考えられる先生は、いろいろな学校での実践報告や子どもたちの活動の記録をWebページで検索してみることをお奨めします。いろいろ学ぶべき点が見つかるでしょう。キーワードは、「主体的な学習」の実現です。
 そのためには、先生方も子どもの関心の持ちそうな情報を集めておいて、いつでも活用できるように準備しておく必要があります。また、情報機器やネットワークも、教科の学習や課題解決学習で活用できる機会を増やしていく必要もあります。どんな学習でも、本人がやる気になり、主体的に取り組めなければ、実際に活用できる「生きる力」として身につくことはないのです。


もっとも重要になるのは、情報モラル教育の内容と方法

 さて、今後の情報教育の展開で、今年度もっとも重要になるのは、情報モラル教育の内容と方法です。先のIT新改革戦略でも、「(5)情報モラル教育を積極的に推進するとともに、小学校段階からの情報モラル教育のあり方を見直す」と明示されています。
 しかし、その方法についてはよく吟味しておくことが必要でしょう。わが国の情報モラル教育には、いわゆるモラル教育の観点とは別に危険回避(情報安全教育)の側面があります。そして、その危険回避(情報安全教育)が強調され実践されています。確かに今の情報環境は子どもには危険な側面が多いことは否定できません。しかし、これから情報社会に育っていく子どもたちに、「ネットワークは危険だ」という負のメッセージを先におくることは、健全な発展の妨げになることを危惧します。もっと学校や家庭の中で安全な環境をしっかり作って、のびのびとこのすばらしい環境の利点を理解させたうえで、危険なところもあるということを知らせたいものです。
 私たちのグループでは、このような観点から、目標の再整理の作業や教材開発など、さまざまな仕事をしています。「情報モラルの17条」に加えて、アニメーション教材を20以上企画・制作し、スズキ教育ソフトから学校と家庭で学ぶ情報モラル教材「あんしん・あんぜん情報モラル」を市販しました。是非、本年度の実践に役立ててください。

 

永野 和男 先生 プロフィール

聖心女子大学 文学部 教育学科 教授

【略歴】

昭和51年 京都教育大学 教育工学(後に教育実践研究指導)センター助手、講師、助教授
昭和60年 鳴門教育大学 学校教育研究センター助教授
平成5年 鳴門教育大学 学校教育研究センター教授
平成7年 静岡大学 情報学部教授
平成12年 聖心女子大学 文学部教授

【主な研究内容】

教育工学を基盤とした開発研究。教師支援システム、遠隔共同学習、学習支援ネットワークシステムなどのコンピュータシステムの開発、情報教育カリキュラム開発と教材開発・授業研究など、コンピュータの学校教育における利用に関する多方面な研究活動を行っている。
1990年代より、文部科学省における情報教育関連の多くの協力者会議の委員を歴任しており、我が国の情報教育のグランドデザインを担当した。その他、インターネットの教育利用のプロジェクトの推進、NHKなどの情報教育番組の企画にも積極的な活動をしている。

関連Web

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