インタビュー&コラム

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NSプロジェクトのねらいと活動

聖心女子大学 文学部教育学科 教授
永野 和男

(2004/01掲載)

NSプロジェクトは、総合的な学習の時間の学習カリキュラムの開発を目的とする研究プロジェクトです。理科、社会などの教科の学習内容と情報教育の目標の双方を達成する、総合的な学習の教材パッケージ(Web教材、教師テキスト、ワークシート、支援ツール)の研究開発に取り組んでいます。
NSプロジェクトのプロジェクト・リーダーであり、情報教育の第一人者である聖心女子大学・永野和男先生に、NSプロジェクトのねらいと活動についてご寄稿いただきました。

 

 

総合的な学習の時間では、単なる体験活動を中心とした展開ではなく、教科の学習内容を深めたり、関連付けたりする学習展開が望まれています。私たちは、スズキ教育ソフトの協力をえて、2002年4月から、情報教育の研究者、教育現場の実践研究者とNSプロジェクト を組織し、 カリキュラム開発とその実践を支援する活動を始めました。初めの1年間は、カリキュラムのキーコンセプトや学習活動の洗い出し、支援システムの開発などの準備に費やしました。そして、これまで10年以上進めてきた遠隔共同学習の成果を検討し、つぎの5つのテーマを開発することになりました。

 

インターネットで交流

外国の子ども達とのインターネットでの交流学習の入門編。テレビ会議や電子メール、Webを通して、お互いの国の情報を交換する。

学習のねらい

●オーストラリアの小学校と初めて交流をする単元。オーストラリアについて調べたり、英語で日本の様子を知らせるページを作ったり、テレビ会議で交流したりする。

●国際交流を通して相手に伝えるべき情報を選び、集め、英語でまとめて発信する力を養うと共に、テレビ会議などの実際の交流によって異なる文化の理解を深める。

 

食べ物はどこから

食材の原産地を調べる活動から、それぞれの国や地域の気候や風土などの地理的条件、輸送手段などの社会的な問題へ発展する総合的な学習。

学習のねらい

●給食の食材を調べる中から、これらの食材はどこから来たのだろうという疑問を提示する。

●興味を持った食材について、インタビューや書物、インターネットなどを駆使して、食材の産地、適した気候、生産の工夫、流通の仕組み、問題点等を知り、日本でもその食材を清算できるのかを検証していく。
調べた内容を他校と交流する中で、食についての理解を深めるとともに、日本の置かれている現状について考えていく。

●食べ物に関する課題解決を通して、探求活動に主体的、創造的に取り組む態度を育てる。

 ●食べ物の生産や流通の特徴、問題点等について調べ、工夫して発表する。

●食べ物に関する情報交換を通して、自分の考えを深めていく。

 

気候と気象

天気の変化の観測、定点2000の気象データ、定置写真の観察などをもとに、気候や気象の変化の特徴の理解を事実に基づき迫る。

学習のねらい

●インターネットで提供される気象データから、台風の気象的な特徴を発見し、その理由を考え、発表したりする授業である。

●台風の変化に興味を持ち、進んで資料などを調べることができる。

●台風の特徴や、移動に伴う連続的な気象の変化について考えることができる。

 

きれいな水(water for life)

水の大切さを、さまざまな角度から検討する環境学習。生命と水、水の汚染と浄化、水不足を補う工夫、酸性雨と大気汚染、森林の役割などを学習する。

学習のねらい

●日本は飲める水が水道から出てくる。しかしながら、水道水を直接飲むことが敬遠されかけている。それに反比例するように、最近コンビニエンスストア等で多くのミネラルウォーターが売られて、売り上げもうなぎ登りである。水道水とミネラルウォーターはどう違うのか。またなぜ水道水を飲むことは敬遠されかけているのかをきっかけにして、他の地域や外国の水について交流しながら、水を調べたり、おいしい水にする方法を考えたりする。そしてこれからの自分の水事情について意見をもつようにする。

 

バリアフリーからユニバーサルデザインへ

ユニバーサルデザインの考え方を、実際の観察や体験をとおして、気づき、提言したり、ものごとを考える視点を育てる。

学習のねらい

●ユニバーサルデザインについて考え方を体験を通して知る。

●ユニバーサルデザインについて調べたことをもとに自分たちの生活を見直す。

●様々な人たちが共に生きていくことについて考える。
ユニバーサルデザインは、単なる共用デザインでなく、考え方であることを知る。

●この学習を通して、自分自身がマイノリティの立場になる場合もあるということから、視点を変えて物事を見つめる学習をする。

 

これらのカリキュラムに共通するコンセプトや活動は次のとおりです。

◆キーコンセプト
Think Globally, Act locally
調べて、まとめて、発信する
Project Based Curriculum
教科の内容と連動 (理科や社会科の目標)
10-20時間のテーマ学習
インターネットを使った遠隔共同学習

◆学習活動の基本
・身の回りの事柄から、始める
・データにもとづいて考える
・討論することで、自分の考えの限界に気づく
・違った環境との比較
・情報の収集・分析・判断
・全体的な視点でものごとを捉える
・問題解決の提案をする

 

プロジェクトは、すでに、今年で2年目を迎え、実践校の参加によるトライアルも進んでいます。現在、詳しい内容を、プロジェクトのホームページにまとめているので、 それを是非ご覧いただきたいと思います。そこにはシラバス(指導計画)やWebへのリンク先のほか、カリキュラムで使われた教材や学習ノートがPDFファイルとしてみることができるようにアップされています。2004年度には、新しく実践校を募集して、さらに発展させる予定です。参加したい学校があれば、ぜひ申し出てください。

 

関連Web

新しい学習指導要領のねらいと情報教育
/永野和男

これからの“教育”と“IT”
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