インタビュー&コラム

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新しい学習指導要領のねらいと情報教育

聖心女子大学 教授
永野 和男

(2010/04掲載)

文部科学省が推進する「教育の情報化」

 平成21年の春、文部科学省は小・中学校等の新学習指導要領に対応した「教育の情報化に関する手引」を作成して公表しました。そこでは、「学習指導要領における教育の情報化」「教科の指導におけるICTの活用」「情報教育と情報モラル教育」「校務の情報化」など、教育の情報化をとりまく内容が章立てされ解説されています。
 「教育の情報化」とは、 (1)情報教育の推進 (2)教科指導におけるICT活用 (3)校務の情報化 の3つを指します。このうち (3)の校務の情報化 の目的や方法については、教師の業務や学校での情報管理をシステム化するということで、その目的や方法は比較的わかりやすいと言えます。

 しかし、 (1)と(2)の関連がクリアな人は少ないのではないでしょうか。ここでは、コンピュータは「道具」として機能しているので、それを使う人間が誰(教師か児童・生徒)かで活用の成果が異なります。
 例えば、教科の学習内容を理解するために、デジタルコンテンツ(映像や動画教材など)を活用することは、黒板とチョークだけの授業より有効であり、“授業でのICT活用”は大いに推奨されます。また、適切な教材ソフトを活用すれば、繰り返しの練習や動画の提示での知識の確認が可能となり学習内容の理解と定着に大きく貢献します。このような場面においてICTは教師の道具として機能しています。
 しかし、教師が授業でインターネットにアクセスして動画教材を見せたからといって、児童・生徒自身に“情報活用能力”が身につくわけではありません。“情報教育の推進”を求めるのであれば、学習者自身にコンピュータを道具のように使わせ、問題解決に取り組ませる必要があります。

 

 

新学習指導要領の礎となる“情報教育”

 新しい学習指導要領において“情報教育”の目標は、教科の学習内容や学習方法の部分に発展的に組み込まれることになりました。全教科の学習で、表現や伝えること、主体的な学習が強調されているのはその表れです。
 例えば、国語における情報の読み取りと発信、情報を批判的に読み取りメディアを活用して表現する活動(メディアリテラシー的な内容)、社会・理科などにおける観察調査研究(事実の調査や実験などを通し、データに基づいて判断したり、結果をまとめる)、メディアによる創作活動などは、「課題や目的に応じて情報手段を適切に活用することを含めて、必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造し、受け手の状況などを踏まえて発信・伝達する」という“情報教育”の目標そのものと重なっています。この点を図式化すると図1のようになります。

図1 教科の指導と情報教育との関連

 重要なのは、教科の授業展開において、子どもたちが自ら情報を収集し咀嚼したり、自分の考えをまとめ発表したりする活動が中心の“課題解決型学習”にすることであり、それが直接、教科の学力を身につけることになり、「情報活用の実践力」を身につけることにも繋がるという点です。 

 

機器操作の機会の確保と習熟

 小学校学習指導要領解説第1章 総則 に、~コンピュータについては「慣れ親しませることから始め」~とあり、小学校の低学年の段階からコンピュータなどの情報手段を身近な道具の一つとして、操作を体験したり、楽しさを味わわせたりすることが求められています。そこでは、キーボードなどによる文字の入力、電子ファイルの保存・整理、インターネットの閲覧や電子メールの送受信などの基本的な操作を体験し、結果として確実に身に付けさせることが求められます。これは「情報手段を適切に活用できるようにするための学習活動」を行うための必要最小限のスキルでもあります。さらに情報を活用する学習活動の中で、情報手段の活用の利便性を学ぶとともに、「情報モラルを身に付ける」ことも示されています。
 例えば、教科の指導の中の「児童が情報機器を活用する機会を設けるなどして、指導の効果を高める」「コンピュータなどを活用して、資料収集・活用・整理などを行うようにする」と解説されている部分では、必要な情報を収集・判断・表現・処理・創造・発信する機会が教科の授業に埋め込まれていなければなりません。
 そのためには、知識内容を単に詰め込むのではなく、できる限り問題解決的な学習のスタイル(答えが1つではなく、子どもたちが情報を集めなければ問題解決にならないような学習課題を考える)に授業を切り替え、主体的な学習を促す必要があります。そこでは自然と情報が必要になり、道具としてのコンピュータやネットワークが必要となります。
 スキルの習得といっても、単に使い方の練習の授業を組み立てるのではなく、利用の必然性を作ることと、習得させる機会(自主的練習時間)を与えることが効果的でしょう。

 

総合的な学習の時間での“情報教育”

 総合的な学習の時間での活動は、教科を超えた総合的な学習活動と位置づけられています。“情報活用の実践力”は基盤的能力であり、それが高まることは、国語、社会、理科、技術、家庭など、あらゆる教科の学習の目標をより確実に達成することにつながります。横断的・総合的な学習や探究的な学習に児童生徒が意欲的に取り組み、そこでの学習を深めていくためには、学習環境が適切に整えられていなければなりません。
 学校全体で整備しておかなければならない施設・設備等の物的な環境整備として、学習空間の確保、学校図書館の整備と併せて、「情報環境の整備」が挙げられており、「コンピュータ等の情報機器は、その有効な活用によって、総合的な学習の時間における児童生徒の情報検索や情報活用、情報発信の可能性を広げ、学習意欲や学習効果の向上に役立つ。」とされています。
 総合的な学習の時間は、「問題の解決や探究活動に主体的、創造的、協同的に取り組む態度を育てる」ことをねらいとしていますが、今回は、その目標に「探究的な学習」が明確に位置づけられました。
 「探究的な学習」では、学習過程が、 (1)課題の設定 (2)情報の収集 (3)整理・分析 (4)まとめ・表現、の4つのプロセスにより展開されることが重要であることが示されています。
 (1)~(4)の学習過程をバラバラに扱うのではなく、ひとつの課題解決のプロセスとして扱う十分な時間を確保できるのは、(教科の指導では実施しにくい)総合的な学習の時間の特徴でもあります。
 こうしたプロセスを何度も繰り返しながら学習活動を展開すること、また、この一連の学習活動にコンピュータやインターネット、その他各種の情報機器などを積極的に活用していくことが、“情報教育”の実践にとって不可欠になります。

 

永野 和男 先生 プロフィール

聖心女子大学 文学部 教育学科 教授

【略 歴】

昭和51年 京都教育大学 教育工学(後に教育実践研究指導)センター助手、講師、助教授
昭和60年 鳴門教育大学 学校教育研究センター助教授
平成5年 鳴門教育大学 学校教育研究センター教授
平成7年 静岡大学 情報学部教授
平成12年 聖心女子大学 文学部 教授

【主な研究内容】

教育工学を基盤とした開発研究。教師支援システム、遠隔共同学習、学習支援ネットワークシステムなどのコンピュータシステムの開発、情報教育カリキュラム開発と教材開発・授業研究など、コンピュータの学校教育における利用に関する多方面な研究活動を行っている。
1990年代より、文部科学省における情報教育関連の多くの協力者会議の委員を歴任しており、我が国の情報教育のグランドデザインを担当した。その他、インターネットの教育利用のプロジェクトの推進、NHKなどの情報教育番組の企画にも積極的な活動をしている。

永野研究室

関連Web

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