「言語活動を充実」させるための実践
佐藤 現場は「言語活動を通して、どのような授業づくりをしていくか」ということに対しての混乱の時期にあります。言語活動を通して、何を身につけさせたら良いのかが難しいところです。
昭和22年の学習指導要領を読んでいると、今の時期と似ているように思います。子どもたちに総合的な力をつけさせるために、「話す、聞く、読む、書く」をもっと有機的に関連付けてみなさい、ということが書かれています。昔ありましたが「這いまわる経験主義」、ただやらせれば良いという方向に言語活動がいかないように教科書と現場がうまく関連していくと良いなと思います。
黒川 そうした意味では、教科書の位置づけが非常に重要になると思います。先ほどお話ししたように、今回の教科書は単元の導入に活動の目的を明示しています。
例えば、4年の「アップとルーズで伝える」という説明文教材の冒頭には、「説明の仕方について考えよう」という単元名があり、そのあとにリード文で「段落どうしの関係に注意して読み、筆者が、何を、どのように説明しているのか考えましょう」という具体的な活動の目標が示されています。ここを先生方にお伝えすると「ああ、そうですか」と、はじめてお気づきになる方もいらっしゃる(笑)。しかし、指導書などを通して、教科書の仕掛けを伝えるのは私たちの役目なんです。そうしないと、活動がバラバラになって落としどころのないものになってしまいかねません。
中川 ねらうべきものと活動そのものと、うまくリンクしてほしいというメッセージをくりかえし教科書のなかで示していくのが大事だということですね。菊池先生、いかがですか?
菊地 デジタル教科書を使って、単元のねらいを最初に子どもに示し、身に付ける力を示しています。それから、5年生の教科書の最初の「学習の見通しをもとう」のところで、どこでどんな力を付けるのか、次にどうつながるのかという意識づけはしています。とりあえず新聞を作ったよ、ということのないようにしています。
中川 日々の実践の中には、とりあえず新聞を作った、というものも少なくないように思われます。言語活動の充実の話とあいまって、何をおさえるのか、というのが教科書にも教師にも問われるのかなと思います。
鈴木 私が子どもの頃は、教科書はただ物語だとしか思っていませんでしたが、習得とか活用というのが意識されて、そういう力をつけさせるために作られているのだと感じました。
単元のねらいがなかなか先生に伝わらないようですが、私たちがお手伝いできるのは、そういうところにあるのかなと思いました。
佐藤 今まで、教科書に載っているからやる、ということが多かったのですが、言語活動を充実させるためには、教科書通りではいけないと思います。
例えば、「アップとルーズで伝える」の後に「仕事リーフレット」が載っているから仕事のことをやらなくてはいけない。そうではなくて、子どもたちの生活のなかで、子どもたちが今、何に関心を持っているのか、それなら何を調べてリーフレットにするのが良いのかなと、相手意識と目的意識を持たせていかないと、ただ作れば良いということになってしまうのだと思います。
中川 先ほどの話もからめると、あるときは型にはめることが大事だと、いうことですよね。問題はいつ補助輪をとるような促しをいれていくのか、先輩の先生ならそこは助言してくれるのかもしれないが、教科書ではどのように教師が解釈してくれるのか、ということに苦慮されているのだろうなと思います。題材設定の意図をしっかりと考える。大事なことですね。
黒川 6年生に「推薦する」という言語活動があります。推薦には、目的があって、推薦する物や人物について、相手を説得できなくては目的を達成できないわけですね。
そのためには、推薦内容を考えることと、もうひとつ、その内容をどのような順序で組み立て、どこを強調し、どんな言葉で推薦するかという表現方法を考えることの、両面を明確化することがポイントです。そこをどう先生方に読み取っていただくか、というところが、今後の指導書などの課題なのかもしれません。
中川 そうですね。バランスですよね。どのようにバランスをとり、言語活動を充実させるための実践をどうやっているかについて、話をお聞きしたいと思います。
佐藤 2年の「どうぶつ園のじゅうい」の話をやった時ですが、自分たちのまわりの人の紹介文を書こう、という学習をしました。ちょうどその時、技術員さんにご迷惑おかけした事件がおき、それがきっかけで技術員さんの仕事を調べて、紹介文を書くということになりました。身近な人に取材したことで、こんなに知らないことがあったのだということに気づいていく活動ができました。
ぜひ紹介したい、推薦したい、そこをどう教師が仕掛けるのかが大切だと思っています。
中川 確かに国語科では、相手や目的に応じてということがよくでています。そのような着眼点をどうやって持たせられるのでしょうか。
佐藤 子どもたちの学びになるようなことがないかな、と常に意識しています。
菊地 国語は、苦手と思う子どもが多いので、教科書通りでなく、なるべく学習していて面白いと思わせたり、のめり込めたりできるようにしたいと意識しています。
中川 先ほど、「仕事リーフレット」の話がありましたが、教科書に「仕事リーフレット」と書いてあると、それを「学校紹介リーフレット」に変換しようとなかなかできない、そこをどういう風に、うちの学校だったら、うちのクラスだったら、子どもたちの関心からすると、と、教師はアレンジできるようになるのでしょうか。
黒川 「仕事リーフレット」は、写真と文章で説明することが目的なので、仕事でなくてもかまわないんです。そこを先生方にご理解いただけるかどうか。ですから、言語活動が主体的な学習であるために、単元の連続性、学びの連続性やストーリー性が、大きく問われているところです。そこは、先生方の判断が問われるところだろうと思います。
子どもたちがやりたいテーマを引き出していくのは教科書では難しく、あくまでもきっかけにすぎません。
中川 そういう題材を見つけたうえで、話の順序を自分なりに構成するというところは、個別に指導するということですか。
佐藤 今回の場合は、技術員さんのところに行って仕事のことを聞いたり、技術員さんに一日の生活をデジタルカメラで撮っていただいたりして、みんなで確認をしていきました。技術員さんの仕事を理解し、どんなことを技術員さんに伝えたいか、子どもたちは、技術員さんが読んでくれるという気持ちがあるので一生懸命にできたのだと思います。
中川 リアクションが感じられるという、そういうダイナミックなところと、先ほどの、本文の構成にもどってその型をきちんとおさえていく、そのバランスのとりかたが、子どもたちの力になるかならないか、重要なところだと思います。
佐藤 いろんな単元でそういう仕掛けをしています。読んでもらえる、聞いてもらえる、そこがすごく大事だと思います。
子どもたちは、2年の「あったらいいな、こんなもの」の学習が心に残っていると言うのです。「僕が考えた車を友達がいろんな質問をしてくれて、もっとおもしろいものになった。」お友達が聞いてくれたことで、自分の考えが深まったということを体験しているわけですね。
書いたときに読んでもらえる、言ったときに聞いてもらえる、もらえるからよりわかりやすく話そうとか、そういうところが言語活動の充実では、すごく大事なところだと思います。
菊地 私は、5年生の「天気を予想する」で表とグラフの読み取り方を学習した後、後半の言語活動の「グラフや表を引用して書こう」のところで、教師が用意した資料をもとに文を書かせました。最後に交流した時に、子どもたちは、同じ資料なのに人によってとらえ方が違うことに新鮮な感じを受けていました。
佐藤 お互いに、同じところと違うところに気づけるのは、大事な学習ですね。
中川 自分の考えを人に聞いてもらってコミュニケーションをとるというのは、二つベクトルがあると思うのです。一つ目は「多様性の理解」です。友だちの考えが自分と違うな、というようにいろいろな考え方があると感じるようなコミュニケーションのとりかたです。もう一つは、「最適化の追究」です。いくつかの考えの中でどの考えが良いのか、なぜそれが良いのかを議論するようなコミュニケーションのとりかたです。
今の話は前者で、そういうことをいろいろと言語活動を通しながら、進めていくことが重要だと考えます。