【 略 歴 】
横浜市の小学校教諭、横浜市教育委員会情報教育課勤務、金沢大学教育学部実践総合センター助教授を経て、メディア教育開発センター教授(金沢大学教育学部・客員教授を併任)、2009年4月より放送大学教授。
基調講演
子どもたちの伝えるチカラを育む
講 師 | 中川 一史 |
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放送大学ICT活用・遠隔教育センター教授 |
習得型・活用型・探究型バランス良く身につける
中川先生の基調講演では、「伝えるチカラ」を育成することについてお話がありました。
授業でICTを活用することによって、学力がどう上がるかという議論がよく聞かれるようになった。それ自体はけっして悪いことではない。現に、ICT環境を充実させるために、議会などの説得で「ICTで学力が確かに上がったデータ」のほしい教育委員会担当者は、後をたたない。
しかし、ここで取り上げられる学力というのが、どうも「学力=狭い意味での基礎・基本」ととられ、この部分ばかりが目立っている。しかし、学力というものは、いわゆる「習得型」の側面ばかりの話ではないし、そこだけがICT活用効果を語れるすべてではないはずだ。
ICT活用に限らず、また、国語科に限らず、全教科横断的に表現する力が求められている。学習指導要領においても「習得型」「活用型」「探究型」学力が盛り込まれている。「習得型」は基礎基本であり「活用型」は応用力であるという固定観念から脱却し、これからは、「習得型」「活用型」「探究型」の新たなるバランスを探り、協働学習の手法を通して伝えるチカラを育成していかなければならない。
子どもたちの伝える活動を充実させることが、今こそ重要であると考え、伝えるチカラプロジェクトを発足した。プロジェクトでは、子どもたちの伝える活動を充実させるための研究を行っている。この中で意識していることは、先生自身が子どもたちに対して本当に伝えるチカラを身につけさせるための授業をしているかどうかという点である。子どもたちが主張したいことを、言葉や文章と映像・図表を伴って表現するような「活用型」学習を広げていけるような授業デザインが必要である。それらを提案し、学習目的を果たしやすい教材の提供を行うことがプロジェクトの目的であり、今後も研究を続けていく。
ワークショップ
コース1 プレゼンテーションを体験! |
講 師 山本 直樹(京都市立桂徳小学校 教諭) |
コース2 プレゼンテーションを体験! |
講 師 小林 祐紀(金沢市立小坂小学校 教諭) |
コース3 プレゼンテーションを体験! |
講 師 佐藤 幸江(横浜市立高田小学校 主幹教諭) |
ワークショップでは、「プレゼンテーション」「新聞」「リーフレット」3種類の表現活動を、参加者の先生方が体験されました。作品を完成するだけの活動にならないよう、子どもたちに身につけさせたい力を明確にし、「練りあう」活動が意識的に盛り込まれたワークショップでした。
各活動における子どもたちへの指導について講師と参加されている先生方が一緒に考えることから始まり、学習の課題や活動の目的、子どもたちへの指導におけるポイントやコツを共有していました。
また、実際に参加された先生方がグループに分かれ協働で作品を作成・発表をし相互に評価を行いました。ワークショップの最後には、講師の先生方が全体のまとめをされました。
中橋 雄 教授
佐藤 幸江 教諭
山本 直樹 教諭
小林 祐紀 教諭
総括パネルディスカッション
伝えるチカラの育成、相手意識と目的意識を
おさえた授業デザイン
コーディネーター |
中橋 雄(武蔵大学社会学部 教授) |
パネリスト |
佐藤 幸江(横浜市立高田小学校 主幹教諭) |
山本 直樹(京都市立桂徳小学校 教諭) |
小林 祐紀(金沢市立小坂小学校 教諭) |
総括パネルディスカッションでは、パネリストの先生方からそれぞれの実践報告がなされた後、伝えるチカラをつける授業のポイントについてディスカッションが行われました。
まず、中橋先生は小林先生に「協働学習の場面において、子どもたちが建設的に議論できるようにする工夫は?」と質問されました。それに対して小林先生は「教師が協働学習を行う意義を子どもたちに語ることが重要だと思います。また自分の考えを持たせる事前の個別学習も重要であり、それが協働学習の場面でも活かされると思います。また、教師自身も協働学習を行うことの意義を意識することが大切です。」と回答されました。
次に、中橋先生は山本先生に「子どもたちの成長を実感する評価の視点について、作品を自己評価する基準は?」と質問されました。それに対して山本先生は「細かなポイントは様々あるけれど、総合的な評価としては、相手に伝わったかどうかフィードバックさせることが重要だと考えます。自分が作成した作品や行いが、相手にどのように伝わったのか、その子が感じることができる仕組みを用意してあげることが重要だと思います。」と回答されました。
最後に、中橋先生は佐藤先生に「子どもたちが説明する力と読むことや聞くことの学習とのつながりを意識できるようになる工夫は?」と質問されました。それに対して佐藤先生は「単元を貫く言語活動を位置づけ、学習全体が問題解決の過程になるようにすることによって、話すこと・聞くこと、書くこと、読むことに対する子どもの主体的な意識を育てることができると考えます。」と回答されました。
まとめとして、中橋先生は「伝えるチカラを育むには相手意識と目的意識をおさえた授業デザインが重要で、根拠を示しながら話し合う活動から得られるものは大きい。」ということを強調されました。