授業実践リポート ICT活用&情報教育

鹿児島県 志布志市教育委員会

"志布志スタイル"の確立に向けて

実状に合った段階的な整備と細やかな支援で活用度アップ

2018/03掲載
※記載の情報は取材当時のものです。

 志布志市は鹿児島県東部の人口3万人ほどの市である。市の南部にある志布志港は、南九州地区における諸外国との交易の玄関口だ。現在、志布志市では「志布志市情報化実施計画」のもと、平成26年度から平成30年度の5年間をかけて市全体の情報化に取り組んでいる。教育の情報化も推進し、市内全21校の全教室に大型テレビ・無線LANが整備されているのに加え、平成28年度には全教室への実物投影機整備と全校へのタブレットPC整備が行われた。
 市内の学校では、近年着々とICT機器の活用が浸透してきているという。若手からベテランまで様々な年代の先生方がいる中、どのような工夫をしているのだろうか。志布志市教育委員会の梶原指導主事とICT支援員の池田氏にお話を伺った。

"志布志スタイル"の整備

 志布志市の整備の特徴は、各学校の実状やニーズに合わせつつ、予算的にも無理のない整備・支援を行っている点である。志布志市教育委員会・参事兼指導主事の梶原淳先生は、自ら学校に出向いて学校のICT機器の現状を調査し、限られた予算内で最大限の効果がある整備を行うため工夫を凝らしてきた。その結果、志布志市独自の整備・活用が生まれている。

①今あるICT機器を生かす「段階的な整備」

 志布志市では、タブレットPCに先行して全教室に整備されている大型テレビと数を合わせる形で実物投影機を整備した。今あるICT機器を生かす整備をしたことにより、授業でのICT活用の事例も増えたという。タブレットPCよりも活用のイメージがしやすいであろう実物投影機の先行整備が、現場の先生方のICT活用へのハードルを低くした。

②「学校の規模」で導入数を変える

 志布志市は児童生徒の在籍数300人を超える学校から完全複式学級の小規模校まで実に様々な規模の学校を抱えており、タブレットPCの整備も、全校同一の整備では効果が上がらないと考えた。そこで、学校の規模等に合わせて整備の形態を3つのパターンに分けることとした(右図参照)。学校の規模によって違う課題や指導面でのニーズを解消しながら、費用も抑えた導入を実現した。

③ICT支援員設置

 タブレットPCの導入にあたり、総務省の「地域おこし協力隊」という制度を活用して、ICT支援員を配置した。市内全校を月1回程度訪問しながら、機器やソフトの使い方のレクチャー、ICT機器を使った授業への立ち合い、ICT機器に関する校内研修等の支援を行う。気軽に質問できる専門家としてのICT支援員の存在は、現場の先生方にとって欠かせないものとなっている。
 教育委員会としても、メリットは大きいという。指導主事の代わりにICT支援員が市内の学校を定期的に訪問し、現場の先生方と密に話をすることで、以前より現場の実態やニーズの把握ができるようになったそうだ。また、学校でトラブルが起きても、専門知識のあるICT支援員がその場で対応できる。これまでより安定感とスピード感のあるサポートができるようになったという。

※地域おこし協力隊 人口減少や高齢化の進行が著しい地域の地方自治体が、地域外の人材を地域おこし協力隊員として委嘱し、一定期間以上地域協力活動に従事してもらいながらその定住・定着を図る取り組み。2009年より開始。

大学との連携

 志布志市は鹿児島大学と包括連携協定を結び、幅広い分野において相互協力し地域課題の解決及び活性化、人材育成に取り組んでいる。教育現場でのICT活用の分野でも、鹿児島大学大学院教育学研究科・山本朋弘准教授の研究室と連携をとり始めた。市の計画から各校の研究授業に至るまで、長年教育現場でのICT活用の研究に携わる山本准教授の専門的な知見から助言・指導がされる。授業でのICT活用がさらに効果的なものになることが期待される。

鹿児島大学・山本研究室との連携内容

  • 市の計画へのアドバイス
  • 研修会の開催(情報教育担当者対象・年2回)
  • 各校の研究授業での助言・指導
  • ICT機器の貸し出し

参事兼指導主事 梶原 淳 先生

 整備と合わせて、ICT機器の活用の促進について、何か工夫していることはあるのだろうか。梶原先生にお話を伺った。

まずはできる活用からチャレンジすることが大切

 ICT機器が整備されただけでは、スムーズな活用には至りません。教育委員会側から、どのような活用方法があるか例示することもしました。特に、活用の初期の段階では、まず「提示」の活用から始めるよう勧めました。授業の中で撮った写真や動画を見せるといったシンプルな活用です。活用のイメージを持っていただけるよう、私自身が研究授業等で学校で話をする際に、提示用に使うこともしました。子どもがタブレットPCを壊してしまうことを心配する先生もいたのですが、「壊しても大丈夫です」と伝えて、気張らず怖がらずとにかくICT機器の活用にチャレンジすることを後押ししていきました。
 その結果、現在ではタブレットPCで子どもたちのノートを撮影し大型テレビに投影するといった活用であれば、ほとんどの学校の授業で見られるようになりました。一番嬉しかった変化は、ICT機器があまり得意ではないベテランの先生が活用にチャレンジしてくれていることです。今では研究授業として発表できるレベルの活用をされていて、学校の中心となって動いてくださっています。

学び続ける中で「志布志だったらどうするか」を考える

 これからの技術の発展を考えると、今までの自分の経験だけでは語れなくなってくると思います。1年後は全く違う環境になっているということもあるかもしれませんから、常に最新のICT機器やその活用法を学んでおくことが大切だと考えています。機会があれば県外の研究発表会へも積極的に参加し、ICT活用の先進校の授業を見学します。そこで志布志市として参考にしたい事例を見つけることもあります。ICT機器の整備環境も違うので、全く同じことはできませんが、そこであきらめてしまうことなく「志布志だったらどうするか」を考えることこそ重要だと思います。今の志布志市の環境でいかに参考事例に近づけていくかが工夫のしどころであり、それを子ども一人ひとりの学力向上につなげたいと考えています。

ICT支援員 池田 大樹 氏

 2016年5月からICT支援員として赴任されたのが池田大樹氏だ。
ICT支援員と先生方との関わり方について、池田氏にお話を伺った。

ハードルが高すぎない活用の提案

 授業を中心となって考えるのは先生方です。ICT支援員である私は、授業の実現を技術的な面から支援しています。例えば、ICT機器に関して先生方からいただく質問や要望に対し、そのような活用や使い方が実際に可能かどうかを判断したり、具体的な使用方法を提案したりしています。
 その際、質問してきてくださる先生方にとってハードルが高すぎない活用の提案を心掛けています。また、数あるソフトウェアの中から、授業に一番合ったものを紹介することもあります。学校のICT環境も考慮しつつ、とにかく先生方が授業で使いやすいものを探すようにしています。

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