6年2組担任 谷口 真也 先生
新学習指導要領には「社会に開かれた教育課程」という文言が加わった。これは、「よりよい学校教育を通してよりよい社会を創る」という理念を学校と社会とが共有し、連携・協働して子どもたちの学習や資質・能力の育成に携わっていくことを指している。このような教育を実現した授業を取材するべく、七尾市立小丸山小学校を訪ねた。
今回拝見したのは、6年生の国語「学校のよさを伝えるパンフレットを作ろう!」の授業だ。iPadを4人グループにつき1台渡し、1人1ぺージを担当し4ページ構成の学校紹介パンフレットを制作する。iPad用表現活動支援ツール<E-REPORT COMP>を使用し、デジタルでのパンフレット制作を行った。指導をされた6年2組担任の谷口真也先生は、今回の授業のねらいについて「相手のニーズに合わせた情報を選び取り、適切に表現する力をつけて欲しいと思い課題を設定しました」と語る。また、「国語」の授業としてデジタルパンフレットを制作するにあたり、図と文章の整合性にも着目して取り組んだという。
授業の流れとポイント
Point 1
子どもたちに「相手意識・目的意識」を持たせる
子どもたちが相手のニーズに合わせた情報を選び取り、主体的に課題に向き合っていけるよう、導入の段階で具体的な課題設定をした。
Point 2
3つの「壁」を設け、振り返りと改善のきっかけをつくる
単元の中で、何度も他者の視点からチェックしてもらう機会を設け、自分の作ったパンフレットが相手に伝わる内容になっているかどうかを客観的に振り返ることができるようにした。
完成したパンフレット
自分たちの保護者に行った「入学の際どのようなことが知りたかったか」というアンケートで回答が多かった、「安全面」「給食」「学習」に関することを中心に内容を構成した
何度もチェックと修正を重ねたパンフレットは、読みやすくする工夫や言葉遣い等、隅々まで配慮が行き届いたものとなった。
チェックポイント
- 見出しは大きくわかりやすく、引き付ける内容になっているか
- 言いたいことを端的に表現しているか
- 改行するときは言葉の意味の切れ目を意識しているか
- 事実を正確に書き、誤解を与えない表現になっているか
- 伝えたいことを的確に表す写真を使用しているか
- 吹き出しや飾り文字等を効果的に使ってポイントを目立たせているか
- 文字のフォントがそろっているか
パンフレットの発表当日の様子をレポート
6名の説明員たち
丁寧に操作方法を説明する
興味深そうにパンフレットを読む保護者
入念に取材をしてきたからこそ、しっかりと質問に答えることができる
次年度に入学する児童の保護者が集まる就学時検診の日、待ち時間を利用して学校紹介パンフレットを読んでもらった。
当日は、各クラスから代表して6名の子どもたちが説明員として参加した。「言葉遣いが合っているか」という不安から緊張しながらも、パンフレットを読んでもらえるよう積極的に声をかけていた。
保護者はあまり触れたことのないiPadの操作に最初こそ戸惑っていたが、子どもたちから丁寧な説明を受けると、iPadを受け取って読んでくれた。
説明員の子どもたちは「保護者の反応を知りたい」と会場にアンケートを設置していた。パンフレットを読んだある保護者からのアンケートには「学校のことを知ることができて安心した」という感想が書いてあった。まさに子どもたちが目指してきた「読んだ保護者が安心して子どもを入学させられるようなパンフレット」が実現できていた証だ。これまでに様々な工夫を凝らしてきた子どもたちにとって、これほど嬉しい感想はないだろう。
指導をされた谷口先生は、「あえて児童の保護者や校長先生といった大人の厳しい意見を聞く機会を設けました。友達、保護者、校長先生と3つの壁を経験した子どもたちのパンフレットは段階を踏むごとに完成度が高く、わかりやすいものになっていきました。約1ケ月間大変だったと思いますが、それだけ得られた学びも多かったと思います。社会に出て同じような状況にぶつかったとき、ここでの学習が活きてくると思います」と子どもたちの成長を語った。
インタビュー
校長 八崎 和美 先生
校長の八崎和美先生にICT活用への思いを伺った。
ICTを使う授業の特徴は、子どもたち同士で話し合いが起こることです。例えばタブレットPCをグループで1台使った場合、成果物を完成させるために必ず話し合いが起こります。今回の授業でも、iPadで作成する学校紹介パンフレットをより良いものにしようと、推敲のための話し合いが活発にされていました。また、完成した作品を電子黒板に投影すればクラス全体での話し合いを促すこともできます。「ああでもない、こうでもない」と子どもたち同士で話し合いをすることによって、理解は深まっていくものです。ICTは「話し合いのプラットフォーム」だと言えると思います。
また、視覚に訴えやすいのもICTの特徴です。今の子どもたちは特にデジタル表現が身近にある生活をしていますから、画像や動画等視覚に訴えるものから導入することで、内容への理解度はぐっと上がると思います。内容が分かれば、学習はさらに楽しいものになります。例えば、国語の授業の導入として、電子黒板を使って文章と関連のある動画を提示し、子どもたちが興味を持ったところで文章を読んでいくようにします。そこで文章の面白さに気付くところまで持っていけたら、その学習はとても効果的なものになります。ICTを使って実現できる「わかる、楽しい授業」が子どもたちの学習をより深いものにするのです。実際、本校で電子黒板を使い始めてから、子どもたちの関心意欲は高まっていると感じています。
これからの教育現場を支えていく教員には、将来的に当たり前のように授業でICTを活用し、その有効性を自ら検証できるような教員になってもらえたらと思います。まずは校内研修等で提案されたICT活用法を、少し無理をしてでも自分の授業で使ってみてICT活用の面白さに気付くことが第一歩だと思います。
そのために校長の私ができることは、教員がICTを使いたいときにすぐに使えるよう機材環境を整えることだと考えました。市に整備の交渉をしたり、学校予算や地域の方からの寄付を充てたりして、4年ほどかけて学年に1台の電子黒板を整備しました。
しかし、電子黒板を導入したからといってすぐに校内で活用が進む訳ではありません。あまりICT機器に触れたことのない教員は、どのように電子黒板を授業で使ったら良いかわからないからです。そこで、そのような教員のICT活用のきっかけになればと、電子黒板と同時に国語のデジタル教科書も導入しました。デジタル教科書であれば、基本的には提示するだけの活用なので迷うことなく使えます。今では、若い世代を含めほぼ全員の教員が電子黒板を活用するようになってきました。デジタル教科書の提示だけでなく、自作の教材やiPadで撮影した子どもの様子を提示する教員も出てきており、校内でのICT活用が進んできたと実感しています。とくに若い世代の教員には、授業がより分かりやすくなったり、子どもたちの話し合いが活性化したりするようなICTの活用法をこれから模索して行って欲しいと考えています。
<E-REPORT COMP>は、iPad上で閲覧するレポートやリーフレット、パンフレットを作成することができるアプリです。デジタルレポートは電子書籍のようにiPad上でページをめくって閲覧をすることができます。動画や音声、BGMや写真のスライドなど、印刷物ではできない表現が可能になります。
<E-REPORT COMP>は、撮影・編集・閲覧がすべて1つのアプリ内で行えます。取材から編集、発表まで、まとめ学習をトータルサポートします。
活用紹介
小丸山小学校の6年生の国語では、毎年学校紹介パンフレットの制作を行っている。様々なコンテンツが挿入できる<E-REPORT COMP>を使ったパンフレット作成を指導する際、どのようなことがポイントとなってくるのだろうか。前年に6年生の担任をされた駒井拓蔵先生にお話を伺った
駒井 拓蔵 先生
<E-REPORT COMP>の特徴は、動画を挿入できるところだと思いますが、子どもたちはどんどん動画を使いたがりますから、動画を撮影しただけで学習が終わってしまうことになりかねません。それでは国語の授業とは言えないので、まずはしっかりと文章で表現することに重点を置き、動画を使う場合は文章の補助として使うよう指導しました。さらに「パンフレットに入れる動画は1つだけ」という制限を設けました。このことにより、子どもたちは伝えたいことのうち、どの内容を動画で表したら一番効果的に伝わるかを考えるようになります。結局子どもたちが選んだのは、「運動場で遊んでいる場面」や「静かに清掃をしている場面」でした。どれも「動き」や「音声」といった動画のもつ特性を介して表現されることで、より臨場感をもって伝わる内容です。使用の範囲に制限を設けることで、「動画」の特性に気付いてもらえたと思います。
八崎校長が語る<E-REPORT COMP>の魅力!
<E-REPORT COMP>は撮影から編集まですべて一つのアプリケーションの中で行うことができるため、スピーディな編集が可能です。子どもたちはアイデアを思い付いたとき、すぐにiPadを持ち出して撮影に向かい、撮影したその場で写真をパンフレットに組み込んでいました。イメージと違えばその場で撮り直すこともできるのです。従来のデジタルカメラでは、データをPCに移すために必ず一度コンピューター教室に戻らなければならず、その間に子どもたちのやる気も下がっていってしまいました。鉄は熱いうちに打てというように、アイデアや感動をいつでもどこでも簡単に、成果物まで反映させられることが、子どもたちの意欲の向上に繋がります。