指導する情報教育部 井元重文 指導主事
"表現活動支援"のブースで受講する先生方。
電子黒板で、「ニュース番組制作」の手順を説明する。
見本に倣って制作に取り組む。
視聴した完成見本
「けんばんハーモニカができるまで」のオープニング画面。
鍵盤ハーモニカの材料となるロール状の金属板。
成形されたケースが並ぶ。
リードの作製は、動画で紹介。
体験したステップ
使用する画像・動画を選択し、配置する。
画像・動画の長さを決める。
枠や画面の切替え効果をつける。
文字(テロップ)を入れる。
21世紀に生きる子どもたちには、「思考力・判断力・表現力」が求められる力とされている。その育成には"伝える"という言語活動が重要である。
2015年12月25日、岡山県総合教育センターにおいて、「知っておきたいICT機器・ソフト研修講座」が行われ、この中でニュース番組制作体験を通して、子どもたちの「伝える力」を育む授業づくりについて紹介された。
子どもたちに求められる「伝える力」
当日の研修講座では、"表現活動支援"ソフトを使うブースの他、"授業支援"システムの活用について学ぶブース、"情報モラル"教材を活用するブース、センターに導入された"最新機器・ソフト"を体験するブースの四つのブースが設けられた。県内から集まった小・中学校を始めとする様々な校種の先生方が、4グループに分かれて順に各ブースを体験する仕組みだ。
"表現活動支援"のブースでは、表現活動支援ソフト『伝えるチカラPRESS』のアプリの一つ「ニュース」を体験した。このアプリは、動画や静止画の編集、ナレーションやテロップの入力など、文字通りニュース番組の制作を通して「伝える」活動を学べる機能を有している。
同ブースで指導する情報教育部の井元重文指導主事は、最初になぜ「伝える力」の育成が必要なのか、先生方に訴える。学習指導要領に示されている「習得」と「探究」の間をつなぐ「活用」型学習をしっかり充実させていくことが「思考力・判断力・表現力」の育成につながる、ということに続いて、中央教育審議会の答申で示された育成のための六つのポイントを挙げ、注目すべき点を示す(下図)。
「表現する、伝達する、説明する、論述する、伝え合う、とあります。すべて"伝える"という活動が重視されています。『思考力・判断力・表現力』を育成するためには、とくに"伝える"という言語活動がとても重要なのです。」と力を込めた。
中央教育審議会答申※から
① | 体験から感じ取ったことを表現する |
② | 事実を正確に理解し伝達する |
③ | 概念・法則・意図などを解釈し、説明したり活用したりする |
④ | 情報を分析・評価し、論述する |
⑤ | 課題について、構想を立て実践し、評価・改善する |
⑥ | お互いの考えを伝え合い、自らの考えや集団の考えを発展させる |
※ | 中央教育審議会「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)」(平成20年1月17日) |
図「思考力・判断力・表現力」育成のポイント
ニュース番組制作を体験
ニュース番組制作体験は、「けんばんハーモニカができるまで」という完成見本を視聴するところから始まった。「みなさんが使っている鍵盤ハーモニカがどのようにつくられているのか、詳しくみてみましょう。」というナレーションから始まり、ケースの作製・成型から出荷までの一連のストーリーを動画と静止画で紹介する内容だ。
視聴後、映像とナレーションについてどのような工夫がされていたか、3分ほどグループで話し合いをした。先生からは、「それぞれのシーンの長さが適切だった。」、「ナレーションの読む速さと映像の整合性がとれていた。」などの意見が出された。
いよいよ、視聴した完成見本をまねてニュース番組を作る。
今日は、次の4ステップに挑戦する。
①使用する画像・動画を選択し、配置する。
②画像・動画の長さを決める。
③枠や画面の切替え効果をつける。
④文字(テロップ)を入れる。
まず、井元指導主事が電子黒板でやり方を説明した。用意されている素材の中から最初の画像を編集エリアに指でドラッグして配置し、同じように2番目、3番目の画像を配置する。最後の素材は動画だが、操作方法に変わりはない。画像を配置できたら、次は長さを決める。今日は一律10秒に設定。長さを決めた後は、画像の表示枠と次画面に移る時の視覚的な効果も決めていく。最後にテロップをいれる作業。テロップも画面に相応しい枠を選択できるので本当のニュース番組のような出来栄えに仕上がる。「それでは始めてください。」という井元指導主事の声で、先生方は作業を始めた。
ニュース番組を制作する本当の目的
20分ほどの操作体験の後、井元指導主事は、改めて「ニュース番組制作」の目的とするところを話し、研修を締めくくった。
「この活動で大事なのは、ニュースを作ること自体ではありません。ニュース制作を通して子どもたちが、映像とナレーションをどうすれば相手にしっかり伝わるのか話し合いをしたり、作ったニュースを相互に評価し合ったりするという活動が大事なのです。ニュースの制作はあくまでも『伝える力』を身に付けるための活動なのです。何のためにこの活動をしているのか、その目的をしっかり意識して先生が指導すると、子どもたちの活動も豊かになると思います。」
活動に終始し完成したら終わり、ではなく「伝える力の育成」という本来の目的を見失わずに指導することの大切さを学ぶ研修であった。
岡山県総合教育センターの研修
情報教育部 | 土肥 直樹 部長 | 岡山市立西小学校 | 明樂(みょうらく) 五月 教諭 |
槙野 英一 指導主事 | |||
井元 重文 指導主事 |
土肥 直樹 部長
槙野 英一 指導主事
井元 重文 指導主事
明樂 五月 教諭
さまざまな校種の先生方の参加で、違う立場の視点が分かる
今回の研修には、県内の幼稚園、小・中・高等学校、特別支援学校の教職員80名ほどが参加された。午前中には、鳴門教育大学大学院学校教育研究科 准教授 藤村裕一先生の「教育の情報化と情報モラル教育の必要性」と題された講演があり、続いてソフトウェアと最新の機器を体験する研修に続いた。講座を主催した情報教育部の槙野英一指導主事は、「受講者にICTの活用場面を具体的に考えていただき、自らの指導方法の工夫・改善につなげていってもらいたいと思います。」と話す。
同センターでは、今回のように異なる校種の先生方でグループを組み研修することも多いという。情報教育部の土肥直樹部長によれば、「違う立場の視点で、いろいろな意見を知ることができ、受講者にもたいへん好評です。」とのことだ。
本来の目的に集中できるソフトが必要
"表現活動支援ブース"で使われた『伝えるチカラPRESS』の「ニュース」。指導された井元重文指導主事は、「マニュアルがなくても、直感的に操作がわかります。ニュースを作ること自体ではなく、"伝えたいことをいかにして伝えるか"という本来の目的に意識を集中できるソフトです。」とブースで取り上げた理由を話してくれた。
小学校の現場で『伝えるチカラPRESS』の「新聞」を使用している明樂五月教諭によれば、「学校では、新聞をつくる活動が多く行われます。手書きは手書きの良さがありますが、活字になると子どもたちの満足度も高くなり熱心に取り組みます。写真の貼り付けなども、写真欄に収まるように自動的にリサイズしてくれるので、操作のストレスもなく本来の目的に集中できるところがとても良いですね。」と評価が高い。「今日体験した『ニュース』も、ぜひ挑戦したいです。」と続けた。
学校のニーズに合わせた"出前"の研修「サポートキャラバン」も実施
同センターでは、ICT活用に関する講座、情報教育に関する講座、校務の情報化に関する講座などを開き、県内の先生方を迎えているが、学校に出向き要望に合わせたプログラムで実施する"出前"の研修「サポートキャラバン」も実施している。「ICTの活用でも、例えば『タブレットPCの効果的な活用について教えてほしい。』といった細かなニーズに応える研修をしています。」と槙野指導主事。6名の指導主事で対応しているが、夏季の繁忙期には「毎日のように出向くときもありました。」と土肥部長は、確かな手ごたえを感じている。
岡山県内の学校での熱心なICT活用促進は、それぞれの学校の高い意識と岡山県総合教育センターによる惜しみないサポートによるものであった。