授業実践リポート ICT活用&情報教育

愛媛県 松山市立道後中学校

情報化社会で通用するリテラシーを育む

~「スマホ」世代の生徒たちに~

仙波 正彦 先生

 

 

2016/12掲載
※ご所属先は取材時のものです。

中学2年 技術・家庭科 技術分野 『オリジナルカレンダー』をつくろう

 今回授業を拝見したのは、中学2年生34名のクラス。実は、このうちパソコンでのキーボード入力体験がある生徒は、4名のみである。仙波先生によると、家にデスクトップパソコンはないが、スマートフォンやタブレット端末はある生徒が増えてきているという。いまや生徒たちにとっては、スマートフォンやタブレット端末で行うタッチやフリックでの操作の方が身近であり、パソコンのようにキーボードやマウスで操作するような機器には触れる機会が少ないのが現状だという。
 係の合図とともに、全員が目を閉じ、心を落ち着ける。号令がかかり、授業のはじめのあいさつを終えると、先生は課題をホワイトボードに書く。今回の課題は「『オリジナルカレンダー』をつくろう」だ。上半分に画像、下半分に曜日と日にちがあるカレンダーをパソコンで作る。進級を間近に控えた2年生の生徒が作るのは、新年度4月のカレンダーだ。

目的に合わせて使うソフトを選ぶ

センターモニターに表示されたワークシート

 2名の生徒が共有して見られるように机上に設置されたセンターモニターにはワークシートが表示されていた。ソフトの名前が機能ごとに分類されて書かれている。仙波先生は、画像の部分とカレンダーの日にち部分の作成にはどのソフトを使うのが良いか、生徒たちに問いかける。生徒たちは、ワークシートを参考にして目的に合ったソフトを選ぶ。生徒たちはしばらく考えたあと、画像の部分には図形処理ソフト(ペイント等)、カレンダーの日にち部分は表計算ソフトを使うのが良いと判断した。

 生徒自らが自分の目的に合わせ、最適なソフトを選択できるようになることが重要。そのためには、最適なソフトを選択する基準として、どのようなソフトが存在し、それぞれどのような機能があるのか知っている必要がある。授業の中で、図形処理ソフトと表計算ソフトの機能を知っていく。

ソフトを実際に使ってみる

曜日と日にちを入力し、文字の大きさやフォントを調整していく

センターモニターに映る先生のお手本を見ながら打ち込んでいく

キューブペイントに貼りつけ

難しい作業は先生が補助する

 はじめに、曜日と日にちの部分を作成する。作成には<キューブNext>の表計算アプリケーション<キューブカルク>を使う。センターモニターに仙波先生による操作のお手本が映し出され、生徒がそれを真似しながら作成していく。まず、キーボードで曜日や日付を入力。それから、文字の大きさやフォント、セルの大きさを整え、徐々にカレンダーらしく整形していく。

 曜日と日にちの部分が完成すると、データをコピーし、<キューブNext>の図形処理アプリケーション<キューブペイント>に貼り付けた。選択や拡大・縮小、色の変更等、図形処理ソフトが得意とする処理を駆使しながら、より本物のカレンダーらしく作り込んでいく。

 授業は一つひとつの操作について、詳しく解説しながら進められた。こうした指導は、「スマートフォン」世代の子どもたちへの配慮である。生徒たちが日ごろ慣れ親しんでいる「スマートフォン」は「パソコン」とは全く異なる操作感だ。操作に慣れていないので、「ウィンドウの最大化」や「ファイルの保存をするときの注意」といった細かい部分でミスをしてしまうことがあるという。そこまで教員が意識させることが重要。

オリジナリティを出す

行事のある日の文字の色を自分で自由に変える

センターモニターに映る先生のお手本にも興味津々

 <キューブペイント>上のデータがすっかりカレンダーらしくなったところで、仙波先生は生徒たちにもう一工夫加えるように指示した。始業式や修学旅行等、実際に4月に行われる行事をカレンダーに追加するというものだ。学校生活に関連した課題を設けることで、生徒たちの意欲も高まる。生徒たちは、これまでに得たスキルを駆使し、「オリジナル」の表現を目指す。文字の色を変更する生徒もいれば、日にちの横に新しく文字を追加する生徒もおり、これまでの授業の内容がしっかりと身に付いている様子であった。

 これまで学習したソフトの機能を活かして、生徒自身で工夫をしていく。「自分の想像通りにカレンダーを作っていくには、どの機能をどう使っていけばよいのか」という生徒たちの試行錯誤は、これまでの授業内容の復習につながる。この過程で、生徒自身のリテラシーが育まれていく。

「授業についていけない」をなくす工夫

 「小学校でも、授業時間の関係でローマ字でのキーボード入力をはじめとするパソコンのスキルの指導がなかなか行き届かないと聞いています。中学校の技術分野でしっかりと指導しないと、社会で必要とされる十分なパソコンのスキルが身に付かないまま卒業を迎えてしまう子どもたちも出てきてしまいます」と語る仙波先生。どの生徒にも同じようにスキルを身に付けてもらえるよう、工夫もされている。
 たとえば、生徒2人に一つ設置されたセンターモニターだ。松山市立道後中学校では、パソコン教室にタブレット端末が導入されている。1クラスの授業であれば1人1台のタブレット端末が使える環境だ。さらに、2台のタブレット端末の間に先生機で操作した画面がリアルタイムで映し出されるセンターモニターを配置している。先生の操作のお手本を見ながら、自分のパソコンの操作をすることができる。
 さらに授業の中では、生徒がお互いに分からない操作を教え合う雰囲気が出来上がっている。クラス内にパソコン操作が得意でない生徒がいても、生徒同士で補えるので授業についていけない生徒はいない。

インタビュー

仙波 正彦 先生

「パソコンが使える」とはどういうことか?生徒たちと大人の間にある「ギャップ」を埋める授業を

 大人は、『パソコンが使える』といえば当然、表計算ソフトや文書作成ソフトを使えるものだと考えると思います。しかし、生徒たち自身の認識はそうではありません。生徒たちにとっての『パソコンが使える』は写真が撮れること・SNSや動画サイトに画像・動画をアップロードすることが主なのです。大人はパソコンを『実務』として捉えていますが、生徒たちにとっては、『個人で楽しむための道具』といった意味合いが強いのでしょう。
 実際、生徒たちが触れるディジタル作品はTVのCMなどの動画や音声などが中心で、自分たちが簡単に作り出せない高度なものです。家庭での情報機器の使用場面といえば、保護者がスマートホンを操作したり、テレビの録画をしているのを見るくらいでしょう。実際の仕事の場面で、情報機器がどのように使われているのかを見る機会は非常に少ないのです。だから、授業の中では、なるべく『大人のパソコンの使い方』に触れてもらいたいのです。そして生徒たちには、自ら工夫してディジタル作品をつくる喜びを感じられるようになってほしいと思っています。

ページのトップへ戻る

スズキ教育ソフト