授業実践リポート ICT活用&情報教育

千葉県 木更津市立金田中学校

ICT活用で効果的な実習の授業を

~技術分野提示教材の可能性~

金井 裕弥 先生

 

 

2016/12掲載
※ご所属先は取材時のものです。

 6月のある日、木更津市立金田中学校を訪れると、生徒たちがさわやかな挨拶で迎えてくれた。今回拝見したのは、技術・家庭科、技術分野の生物育成と材料加工の2つ授業である。

3年A組 生物育成 「夏野菜の管理をしよう~追肥と手入れ~」

 生物育成の授業では、ジャガイモと夏野菜を育てる。ジャガイモは、前回の授業で収穫を終えた。金井先生が、生徒たちにどんな料理にして食べたかを聞くと、「味噌汁」、「じゃがバター」、「カレー」と次々に料理名が挙がった。
 今回の授業は、「夏野菜の管理をしよう」だ。ジャガイモで行った手入れを、復習としてジャガイモと並行して育てていた夏野菜にも施す。また、追肥も同時に行う。生徒たちが育てている夏野菜は、トマト、なす、きゅうり、ピーマンだ。

教科書とディジタル提示教材、実物を組み合わせた導入

生徒のコンピュータ画面に表示された生育の違いを示すスライド

 生徒たちは、まずコンピュータ教室に集まった。それぞれの生徒の前には、1人1台のコンピュータが置いてあり、先生のコンピュータの画面を生徒のコンピュータの画面に転送できる仕組みだ。生徒たちは、授業が始まる前に電源を入れた。
 金井先生は、生徒たちに教科書を開いておくよう指示。加えて、コンピュータの画面に注目させた。コンピュータの画面には、3枚の写真が映し出されている。ディジタル提示教材「カンタン!生物育成」の「基礎・習得編『肥料を与える技術』」のスライドである。スライドには、3枚の写真が映されている。それぞれ「元気な作物」「葉が黄色くなった作物」「葉が縮れた作物」の写真だ。これらの写真を見ながら、生育が違う原因は何かを全員で考えていく。生徒たちからは、「水」「肥料」「環境」と予想があがる。スライドでは、答えがふせんで隠されており、クリックすると答えが表示される。「葉が黄色くなった作物」は「肥料が少なすぎた」ことが原因、「葉が縮れた作物」は「肥料が多すぎた」ことが原因ということがわかった。金井先生は、肥料が多すぎても少なすぎても植物にとってよくない影響を与えることを説明した。「皆の育てている夏野菜も、下の方の葉が黄色くなってきているのに気付いたかな」。生徒たちが育てている植物の様子と学習内容をつなげ、「追肥」の必要性に気付かせた。

肥料の実物を見せながら説明する金井先生

 次に、肥料のやり方について学習する。以前、ジャガイモを育てたときのことを振り返りながら、植え付けをする前に肥料を与える「元肥」と生育の途中で肥料を与える「追肥」の違いを確認。「追肥」では、速攻性のある肥料を与えることとなっている。金井先生が「『有機質肥料』と『無機質肥料』のどちらを与えればいいかな」と質問をなげかけると、すぐに「無機質肥料」と答えが返ってきた。「無機質肥料」である「化成肥料」と「液体肥料」の実物を見せながら、その特徴について説明した。生徒たちが育てている夏野菜について、追肥の適量を計算したあと、再び、ディジタル提示教材での学習に戻る。

スライドの写真から作業のイメージをつかむ

 金井先生は、生徒のコンピュータに、追肥の様子を撮影した写真を表示させた。「根や茎に当たらないように、根元の土を少し掘ったところに化成肥料を与えているのがわかりますか」。金井先生は、スライドの写真を見せながら説明し、生徒たちに追肥の仕方のイメージをつかませていく。また、教科書にも説明が載っていることを示した。

 あわせて、実習では摘芽・摘しん※1、増し土、誘引※2も同時に行うため、ディジタル提示教材の動画で、摘しんの位置ややり方も確認する。確認後、実際に外に出て作業を行う。

※1 栄養分を果実に集中させるために、不要な芽を取ることを「摘芽」、主茎の茎頂部を取ることを「摘しん」という。
※2 作物が倒れないように、支柱に沿わせて固定すること。
参考 安東茂樹ほか(2016年)『技術・家庭[技術分野]』開隆堂出版

外での作業もスムーズ

 生徒たちは校舎の外に集まった。自分の育てている夏野菜のプランターを移動させ、それぞれに作業を開始する。すでに花のついているものや、実がなっているものも見受けられた。それぞれの夏野菜の生育状態に合わせて、生徒たちは追肥、摘芽・摘しん、増し土、誘引…と、スムーズに作業を進めていく。先ほど、コンピュータ教室で学習した効果が表れているようだ。金井先生は、生徒の中に入って、作業のアドバイスをする。生徒同士で声を掛け合ったり、必要な道具は貸し借りしながら、作業を進めた。生徒たちは、20分ほどで作業を終えた。
 1学期の授業はここまで。あとは、各自が夏野菜の手入れを自主的に行い、収穫を迎える。後に聞いた話によると、夏休み中も生徒たちは水やりや追肥を適切に行い、無事に収穫へとこぎつけたようである。

1年A組 材料加工 「つけます※3製作~けがきをしよう~」

これから製作する海苔すきの道具を見せる金井先生

 材料加工の授業は、木更津市ならではの題材であった。「今回製作するのは、これです」。金井先生が取り出したのは、四角いますのような木箱と、木枠のような道具。昔ながらの、海苔すきの道具だ。木更津市は、海苔の名産地で、家族が実際にこの道具を使っていたという生徒も多い。海苔すきの道具を作り、年明けに海苔すき体験をする。そこで作った海苔は、技術・家庭科の家庭分野の授業の太巻き作りに活用する。

※3 海苔すきの道具の呼称のひとつ。

基礎題材・つけますを作る

スクリーンには、ディジタル提示教材「カンタン!材料加工」のスライドを投影

 今回の授業では、「つけます」と呼ばれる四角いますを作る。生徒たちは材料として配られたシナベニヤの板から、側板の材料取りをする作業を行う。
 金井先生は、作業の前に、作業のルール、作業で使う道具、その使い方、作業のポイントや注意点を指導した。生徒たちは実際に工具を見て確かめながら説明を聞いていた。

作業の指導

 言葉の説明だけではわかりにくい作業も、スクリーンに映し出された「カンタン!材料加工」の動画やアニメーション、加えて先生の実演によって、作業のイメージが浮かび上がっていく。イメージができあがることで、生徒たちもためらうことなく作業にむかうことができた。

 作業を説明する際、金井先生は、理論的な内容は教科書を使い、作業のやり方についてはディジタル提示教材を使っていた。教科書やディジタル提示教材、実物から複合的に学ぶことで、生徒は、理論と実際の作業のイメージを結び付けて考え、より理解を深める学習につなげることができたのではないだろうか。材料加工の授業では、短い授業時間の中で、ほとんどの生徒が切断作業まで終えることができた。

インタビュー

金井 裕弥 先生

短時間で基礎を学び、作業の時間を長くとりたい

 1年生の材料加工の授業は、実は生徒たちにとって初めての実習の授業だったんです。だからまずは、「基礎の習得」を大切にしたいと思い、丁寧に指導しました。一方で、「材料をしっかり切れた」という「成功体験」をしてもらいたいと考えていたので、作業の時間を長めにとりたいと思っていました。導入で写真や動画を使うことにより、これまで教科書と言葉で説明していた部分が、短時間でよりリアリティをもって生徒に伝えることができるようになり、思い描いていた授業が実現できたと思います。そして、これまでよりも余裕をもって授業を進めることができ、生徒にも十分な作業時間を確保することができました。

全員が作業を理解することで、充実した実習につながる

 材料加工でも生物育成でも、実習では作業のやり方を見せることが生徒にとって一番理解しやすいと考えています。だから、これまでの授業では、生徒たちを集めて作業を実演して見せていたのですが、この方法だと後ろの生徒はよく見えないのです。そういった生徒は作業の理解が不十分ですので、作業にはとても時間がかかっていました。
 カンタン!シリーズなら、プロジェクターを使えば大きな画面で提示できるので、全員が作業のやり方を自分の目で見て理解することができます。あわせて、映し出された動画等に教師が補足説明をすることも容易にできるため、生徒たちは自分の席でしっかりとイメージをつかんでから、作業に向かうことができるのです。生徒が作業をしっかりと理解すると、とてもスムーズに実習がすすみます。こんなに時間にゆとりをもって実習ができたのは初めてでした。

大河原敏雄校長は、「一生懸命掃除をして、あいさつも素晴らしい。どこに出しても恥ずかしくない自慢の生徒たちです」と語る。

木更津市立金田中学校 「ひとくちメモ」

 金田中学校では、地域と連携して生徒を育てていく気風がある。地域清掃や着物の着付け体験、地域の産業である海苔すき体験といった地域の人との交流の機会が多いのが特徴である。小学校との連携で、中学生が小学生の勉強を教える取り組みもされている。

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