今回、見事グランプリを受賞されたのは、金沢市立小坂小学校4年1組のみなさんと担任の山口眞希先生。同校は、第15回キューコンでもグランプリを受賞(キューブランド52号)されたほか、ほぼ毎回のように賞を受賞されている。特定の先生だけでなく様々な先生が応募されるのが特徴だ。
「子どもたちのがんばりを認めていただけたと思い、本当にうれしかったです」と受賞の喜びを語る山口先生に、受賞された活動についてお話を伺った。
テーマは、子どもたちの思いを入れて
「5、6年生の委員会活動をクラスのみんなに知らせる新聞」
「4年1組のよさを家の人に伝えるリーフレット」
応募いただいた作品は、新聞とリーフレット。新聞は、テーマを「5、6年生の委員会活動をクラスのみんなに知らせる新聞」として、音楽委員会や図書委員会などの8つの委員会活動についてまとめたもの。委員の子に活動内容や苦労している点などを聞き、4人のグループで協力して記事を書いた。写真と文章の整合とバランスや、見出しも思わず読みたくなるように考えられている。リーフレットは、家の人に自分たちのクラスの良いところを伝える内容で、テーマは子どもたちと相談して決めたと言う。
「教科書では、『クラブ活動リーフレットを作ろう』という活動になっているのですが、子どもたちが『自分たちのクラスのすばらしさを家の人に伝えたい』と言うのでこのテーマにしました」と山口先生は経緯を話してくれた。表紙に、「メリハリがあってすばらしい4年1組」や「がんばれることとやさしくできるクラス」など思い思いのタイトル、中面は上半分にクラスの紹介文に相応しい写真を配置するレイアウトにしてある。前の単元でアップとルーズで伝えることを学んでいるので、写真と文章を整合させることも良く意識されている。休み時間にみんなで楽しく遊んでいる様子や、真剣に授業に取り組む姿が伝わってくるリーフレットだ。
見た目に懲りすぎず内容を重視する
山口先生が示した“悪い”見本
山口先生は、どちらの活動でも"誰に読んでもらうのか"という相手意識の軸をしっかり押さえている。
「伝える相手がいるので、相手やテーマに合わせた書き方や写真、見出しなどを工夫していきます。そういう活動を通して表現力を向上させるのがねらいでした」と山口先生。その場合にもICTは威力を発揮する。写真を撮るにしてもタブレットPCならその場ですぐに大きな画面で確認でき、見比べながら最適な写真を選択する時に便利だと言う。また手書きと違い、修正が簡単なことも大きい。「修正が簡単なので試行錯誤することができ、よりよい作品にしていくことができます」と山口先生は言う。
確かにとても便利なICTであるが、山口先生が気をつけているのが、そのICTの持つ便利さだ。
「新聞作成も、パソコンならきれいに仕上がるので子どもたちも満足します。でも色や字体を簡単に変えられるので、見た目に懲りすぎてしまいます。そうすると内容がぼやけてしまうことになりかねません。そこで、背景は白、本文は黒、字体も揃えるなど制限をつけて、見た目より内容が大事だということを意識させることにしました」と指導のポイントを話す。その際、先生は自分で作った悪い見本を提示して「これで本当に内容が伝わるかな?」と投げかけていると言う。応募していただいたリーフレットがどれもシンプルな作品になっているのも、先生の指導があってのことだ。"見た目より内容"はプレゼンでも同じ。過剰な装飾を省き、言葉も伝えたいキーワードに絞るように指導しているとのことだ。
ICTは、協働的な学びを引き出すツールとして
知恵を出し合って編集会議
「この写真の方がよく伝わるね」。制作はみんなの力を合わせて。
委員の子にインタビューする。上級生へのインタビューで少し緊張ぎみ。でも、やさしく丁寧に答えてくれる。
山口先生は、授業をするうえで大切にしていることがある。それは"学校で学ぶ良さ"を常に意識することだと言う。
「学校で学ぶ良さというのは、みんなで知恵を出し合ってお互いが高め合っていくことだと思います。そこで、“関わって学ぶ力”をつけるために協働的な学習を多くとり入れて、みんなで知恵を出し合うような場面を設定するようにしています」
グループで制作する時はもちろん、一人一人で作品を作る場合でも、グループでアドバイスしあう場面を必ず入れるようにしている。
「一人一人の学びがみんなの学びにつながり、みんなの力が一人一人の力を引き延ばす、そういう授業になるように心がけています」と力をこめた。
ICTも「協働的な学びを引き出す時のツールとして」使うようにしているとのことだ。
ICTの活用は、特別な人だけのものではない
指導された4年1組担任
山口 眞希 先生
小坂小学校でのICT活用は、特別な人だけのものではない。山口先生が研究主任を務める学習指導部では、月に1回ミニ研修会(小坂学ぼう会)を実施している。実際に授業で作った子どもたちの作品を参考にしながら先生方に体験してもらい、自身の活用につなげる。1回30分ほどで自由参加にも関わらずほぼ全員が参加すると言う。「紹介したことを、すぐに自分のクラスで試してくれます」と山口先生は手ごたえを感じている。先生方の積極的な姿は、子どもたちにも委員会活動のお知らせポスターや、廊下を走らないように啓発する動画をタブレットPCで制作して校内放送でながすなどの活動につながっている。
“「誰かが」ではなく「誰でも」使っているICT活用” (キューブランド53号)は、脈々と小坂小学校に受け継がれているようだ。
応募作品の一部をご紹介
① | 生活委員会の「生活なぞ解き新聞」。朝、玄関に立って明るく大きな声でみんなを迎えている活動を記事にした。 |
② | 「みんなの体育委員会新聞」の見出しは、「ふだんは見られない体育委員会の秘密」。体育委員の活動と体育委員にとったアンケートが記事になっている。 |
③ | 音楽委員会の活動を紹介した「楽しい音楽新聞」。活動をしていてうれしいことが、グラフにしてある。全校朝会で拍手をもらえることが一番。 |
④ | 図書委員会の活動を紹介した「図書委員会新聞」。図書室を利用してもらうために、スタンプラリーを企画している。"手作りしおり"などをもらえるのがうれしい。 |
⑤ | 休み時間に流行っているコマ遊びと授業を対比させたリーフレット。「4年1組は、休み時間には思いきり遊ぶけど、授業では人の話をきちんと聞いて、たくさん発表します」。 |
⑥ | 「みんなで協力しあっている証」を紹介したリーフレット。「自学」の宿題をみんなで協力して集めたり、「みんなにとっての宝の日」をビー玉で表している様子が紹介されている。ビンに一杯になると「お楽しみ会」が開かれる! |
子どもたちにインタビュー
クラスを代表してインタビューに答えてくれた、右から菊地さん、笠木さん、東山さん
「たくさん応募があるなかで、私たちの作品が選ばれたので信じられないくらいうれしくて、興奮しました」と口を揃えて答えてくれた菊地さん、笠木さん、東山さん。
リーフレットや新聞を制作する時に工夫したところは?
菊地さん | 文字だけで分かりにくい部分は、写真の横に文字をいれて分かりやすくしました。 |
笠木さん | 色はあまり付けずにイラストなども少なめにしてシンプルに作りました。 |
東山さん | 写真は何度も撮って、その中で一番良いものを選びました。 |
新聞とリーフレットのソフトを使ってみてどうでしたか?
東山さん | 簡単に文字や写真を大きくできるので、強調したいところが分かりやすくできました。 |
笠木さん | 写真や文字の入力や修正も簡単なので何度もやりなおしができ、より良いものにできました。 |
菊地さん | 写真や文字だけではわかりにくいものも、表とかグラフで表せたのでとても便利でした。 |
誰に読んでもらうのか、どうすれば読み手に分かりやすく伝えられるか。子どもたちは、常にこの意識を持ち、ICTを分かりやすく伝えるための"便利なツール"の一つとして活用しているようだ。
金沢市立小坂小学校 「ひとくちメモ」
小坂小学校がある金沢市小坂地区は、加賀レンコンの産地として知られている。校歌にも「白蓮におう野辺はるか」と歌われ、中庭には小ぶりだがレンコン畑がある。そこで収穫されたレンコンはバザーで販売し、地域の方に食べていただいているという。