平成27年11月2日(月)、東北大学大学院堀田龍也先生を迎えて「都城市・三股町合同視聴覚・情報教育部会」が開催され、5年担任の渡邉光浩先生が、社会科、算数科、総合的な学習の時間でICTを活用した授業をされた。今回は、算数科と総合的な学習の時間の授業を取材し、お話を伺った。
ICTは、より「わかる」「できる」ようになる時や、より効率的になる時に活用する
渡邉先生が授業で重んじていることは、「子どもたちが『わかる』『できる』ようになること」。そして、「教師から指示された通りに活動したり、尋ねられたことを答えたりするだけでなく、どんな方法で活動すれば良いのか、自分たちで考えて話し合いをするなど主体的に授業を進められること」と話す。ICTは、使えばより「わかる」「できる」ようになる時や、より効率的になる時に活用するように心がけているそうだ。
自分の考えを説明することで、数学的な思考力・表現力が高まる
教科 5年 算数科 単元 面積 目標 平行四辺形の面積の求め方を説明できる
教室横にある掲示物は振り返る時に使う。当日は、壁を外してオープン教室にしてあった。
『QB説明 算数』で平行四辺形の面積の求め方を隣の子に説明する。画面上のハサミで図形を切り、指で移動して長方形にして面積を求めている。
平行四辺形を三角形に分けて面積を求める児童。
手元のiPadの画面をデジタルテレビに提示し、考えを説明する。この後、先生が補足し、長方形にした。
子どもたちから出された考え方を板書する。
授業はフラッシュ型教材の活用から始まった。前時の振り返りで、子どもたちは三角形の面積の求め方を元気よく答えていく。底辺が上になっている三角形など"レベルアップ"の問題にも惑わされることはない。フラッシュ型教材を用いることで復習になるだけでなく、子どもたちの学習への集中が高まっている。次に、四角形の面積の求め方を振り返る時、先生は教室横に貼り出されている掲示物を使った。「どうやって求めますか?」と先生は掲示物を指さし、問いかける。いっせいに、「わける!」と声があがった。掲示物なら、習ったことを簡単に振り返ることができ便利だ。「どうやってわける?」と、対角線を底辺にして面積を求める学習を思い起こさせた。「でも、いつもそうだとは限りませんよ。じゃあ前を見て」と先生。デジタルテレビには、2つの対角が直角で各辺の長さが分かっている四角形が映し出されている。対角線を底辺にしなくても面積が求められる場合があることを教える。
本時の学習課題は、「平行四辺形の面積の求め方を考え、説明できるようになろう」。「どうすれば良いですか」という先生の問いかけに、子どもたちからは、三角形にわけて求める方法や、長方形にして求める方法などが出された。見通しがたったところで、先生は2人に1台ずつのiPadを使うよう指示した。使うアプリは、画面上の図形を切ったり、動かしたりできるiPad用学習支援ツール『QB説明 算数 5年 面積1』。先生は、「QB説明で面積の求め方を隣の人に説明します。説明できることが学習課題ですよ」と指導する。自分の考えを説明することで「わかったつもり」にならず言語活動にもなる。しばらく画面の図形を操作し、ペアの子に考えを説明する活動が続く。一通り説明が終わったことを確認した後、様々な方法が発表され教室で共有された。発表する時は、Apple TVで自席から無線LAN経由で前方のデジタルテレビに表示できる。「平行四辺形を切って、長方形にして計算しました」という子どもに、「どこを切って、どんな風に動かしたか、やってみて」と促す。その子は、自分がどう考えたか、操作を再現して説明した。渡邉先生は、三角形にして面積を求める方法など次々に考え方を引き出す。テンポ良く進み、子どもたちは"のっている"。とても楽しそうだ。2つの三角形と正方形にしてそれぞれの面積を合算する発表には、「もっと合わせられないかな」と長方形にして求める答えを導く。先生は、「は・か・せ(速く・簡単に・正確に)でなくてはダメですよ」と複雑にし過ぎないことも意識させる。
さらに、『QB説明』にある別の平行四辺形を操作、説明させることで学習内容の定着を図った。ペアで説明しあう様子を見ても、同じ方法でやすやすとクリアしている。「頭のなかでは考えづらい平行四辺形の面積の求め方も、切って動かせるので分かりやすく、すらすらできた」と子どもたちの感想。
自分の考えを相手に説明することで「わかったつもり」にならず、数学的な考え方も高める授業がICTの効果的な活用で進行した。
宿泊学習で学んだことが伝わる写真を選んで、発表プレゼンを作る
教科 5年 総合的な学習の時間(西っ子タイム) テーマ 実りある宿泊学習にしよう
ねらい プレゼンテーション資料を作成するために、自分たちの主張が伝わる写真を選ぶことができる
「この写真の方が『奉仕』の様子がよくわかるよ」。話しあいながら写真を選び、『QBプレゼン』でまとめていく。
「みんなが協力しあって作っているのが写っているので選びました」と説明する児童。
「ICTを特別視せず、とにかく使ってみることが大事。なかでも実物投影機やタブレットPCは、手軽に活用できるのでオススメです」と話す渡邉先生。
「西っ子タイム」の活動として、宿泊学習に行った時の写真をプレゼンにまとめ、オープンスクールで保護者や地域の方に向けて発表するというゴールが設定されている。写真は「規律」、「協同」、「友愛」、「奉仕」の4つの視点ごとに「宿泊学習で学んだこと」が伝わるものを選ばせた。子どもたちには、事前に4つの視点でどのような写真を撮れば良いか考えさせたうえで宿泊学習に行かせている。
渡邉先生は、前時にタイトル用の写真を選んだ時のことを聞く。「難しかったです」と子どもたちは一様に答えた。思いが伝わるかどうか心配だという。先生は「どんな写真」「何をつたえるか」と板書し、一枚の写真をデジタルテレビに提示した。写真は、海岸の日の出を写したもので遠くに人影が見えている。子どもたちから思わず「きれい」という声があがった。先生は問いかける。「きれいですが、海岸清掃を一生懸命やっていることが伝わりますか?」。思いを伝えるには、それに相応しい撮り方がある。国語科で学習した新聞記事における写真の役割やアップとルーズの効果を振り返り、班ごとに1つの視点につき2枚以内に限定して写真を選ぶことにとりかからせた。選んだ写真は、iPad用プレゼンアプリ『QBプレゼン』でまとめることで紹介しやすくするとともに、そのまま発表資料としても使えるようにする。早速、子どもたちはiPadを囲んで作業を始めた。プレゼンにする時には、写真をドラッグして、ストーリーバーにドロップするだけ。『QBプレゼン』の使用は今回で2回目というが、操作で戸惑う様子は見られない。作成したら班内で説明しあいながら、より良いプレゼンに仕上げていく。
10分ほどたったところで、班ごとに発表。「協同」の視点では、みんなが協力してカレーを調理している写真、「規律」の視点では、きちんと整列して先生の話を聞いている写真など、写真とそれを選んだ理由が発表された。全体で共有することで、他のグループの写真や選んだ理由の良さに気づく。
渡邉先生は、「『情報活用の実践力は、この教科で育成する』と決まりがあるわけではありません。だからこそ、私たち教師が意識してやっていかなくてはいけないし、意識的にやることで、子どもたちの情報活用能力が育っていくのだと思います」と力をこめた。
堀田 龍也 先生 講演
東北大学大学院
情報科学研究科 教授、博士(工学)
堀田 龍也 先生
渡邉先生の公開授業の後、堀田龍也先生から「教育の情報化の意義と動向」と題する講演会がありました。
先生のきちんとした指導が、ICTの効果的な活用につながる
今日の授業で、渡邉先生は実物投影機で資料を映しています。そのような活動を繰り返しすると、タブレットPCを使う時も、どこを拡大して何と発問すれば良いかわかるようになります。実物投影機で提示するということはICT活用の基本ですが、効果的に活用されるのは学習規律、学級経営、板書などに気配りしているからです。
今日の算数の学習課題は「平行四辺形の面積の求め方を考え、説明できるようになろう」でした。今は、適切な情報を相手にしっかりわかるように、伝えられるようにならなくてはいけない時代です。渡邉先生のクラスでは、子どもたちが教科書や資料を良く見ます。これは、多くの適切な情報にあたってから「私はこう思います」と発言をするということですし、渡邉先生がきちんと指導しているということです。これらのことは、ICTがあっても変わらない部分です。
「ICTを使う授業」は「ICTも使う授業」にしかすぎない
今では普通教室でもICTが活用されていますが、この意味を考えてください。現行学習指導要領では「基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させる」、「これらを活用して思考力・判断力・表現力を育む」、「児童の学習習慣が確立するように」とあります。これを実現するための環境整備がICTの整備なのです。ICTを特別視するのではなく管理職が主導して、"誰もがICTを使える授業"を普及啓発していくことが必要です。ICTが普及した地区では、使い方ではなく授業力をどう上げるかが話題になります。「ICTを使う授業」は「ICTも使う授業」にしかすぎません。今までやってきたことが、例えば実物投影機を使えば"よりわかりやすくなる"ということです。
リスクマネジメントにも必要な校務支援システム
校務支援システムが導入されていれば、児童の欠席状況が毎朝把握できます。管理職は、担任が授業中でも、すぐに確認の電話ができます。インフルエンザが流行ってきた時にも、保健だよりで注意を喚起しようという準備ができます。このようなことは非常に大事で、何かを未然に防ぐことができるということです。これはリスクマネジメントなのです。
校務支援システムには、様々な機能がありますが職制によって必要としているものが違います。全員で情報を共有し、職制にあった情報で判断するという学校の基盤になるシステムです。校務の情報化は、学校経営の改善に他なりません。ぜひ導入されることをお勧めします。
iPad用学習支援ツール QB説明 算数
監修:堀田龍也 東北大学大学院情報科学研究科 教授、博士(工学)
小学校の算数で、子どもたちの学習を支援するアプリ。用意されているさまざまな<道具>を操作しながら、自分で考えたり、友だちに説明できる。
iPad用学習支援ツール QBプレゼン
監修:堀田龍也 東北大学大学院情報科学研究科 教授、博士(工学)
iPadで撮った写真を並べるだけで、簡単にプレゼンストーリーを作成することができる。