授業実践リポート ICT活用&情報教育

長崎県 佐世保市立宮小学校

できるところから始めたICTの活用、

今では"自然な風景"に

 

2015/12掲載

 長崎県佐世保市立宮小学校は、「長崎県ICT教育推進事業」のモデル校として3年目を迎え、11月に成果発表を行った。日々の授業の中で、すべての先生がICTを活用して授業を行うなど、ICT機器が日常に溶け込んでいる。この3年間の成果を宮小学校の先生方に、市としてのサポートについて教育委員会の先生方に伺った。

長崎県 佐世保市立宮小学校

ICTは、"ここぞ"という時に使う

研究主任 岡村 康典 先生

 「ICTの活用と聞くと、ノートとか黒板などがなくなって、すべてICTになるものと誤解されることがありますが、私は授業のほんのわずか、"ここぞ"という時に使います。」と語る研究主任の岡村康典先生。

 「いろいろなツールがあるなかにICTという選択肢が加わっただけ。授業のねらい・ゴールを明確化して、使った方が良い場面があれば使います。大切なのは、ICTありきの考え方ではなく、ICTの持つ特性を知り、有効活用できるように授業に組み込むことです。」と続ける。

ICTのワンポイント活用ですすむ4年生 情報モラル授業

アンケートの結果は即座にグラフとなって表示され、クラスの友だちがどう考えているのかわかる。

情報モラル教材のアニメーションを見て、パスワードの大切さを考える。

スムーズな授業展開には、ICT支援員の役割も大きい。

アニメーションを見て、考えたことを班で話し合う。

学んで分かったことをワークシートに記入する。

 取材当日、岡村先生の情報モラルの授業が行われた。宮小学校では「情報モラル指導カリキュラム」を独自に作成し、系統性をもって指導している。今日は、4年生の授業で、学習目標として「パスワードを使うときに気をつけることを考えよう。」を設定していた。

 冒頭、岡村先生は、パスワードを使う場面を問いかけ、「ゲームをする時」や「ログインする時」などの回答をひきだす。子どもたちも、普段からよくパスワードを使っているようだ。さらに先生は「パスワードは他の誰かに教えてもよいでしょうか?」と問いかける。ノートパソコンにはアンケートが表示されており、回答を入力すると即座に結果が電子黒板に表示される。「教えてはいけない」が一番多いが、「家族には教えてもよい」という回答が続き、「友だちに教えてもよい」と「誰に教えてもよい」と回答した子もいる。続いて同じように「パスワードは、どんなものがよいでしょうか?」と問う。「誕生日」「おぼえやすいもの」「電話番号」「おぼえにくいもの」の4択の回答は、思いのほか分散した。実際に自分が使っているパスワードが、結果に反映しているようだ。

 みんながどのように考えているのか確認できたところで、情報モラル教材<あんしん・あんぜん情報モラル オンライン>を起動する。情報モラルの様々な事例を分かりやすいアニメーションで学ぶことができる。今日のストーリーは「パスワードはひみつの合言葉。」

 アニメーションは、母が子にキャッシュカードの暗証番号の大切さについて話す冒頭シーンから始まり、泥棒に財布ごとカードをすられてしまうシーンに続く。しかし、泥棒は電話番号や誕生日などの知り得た情報で試してみるが番号違いでお金をおろすことができない。ここでアニメーションは、「ここまでのストーリーを見て、あなたはどんなことを考えましたか?」と投げかける。ここまでわずか3分ほど、子どもたちは画面に見入り、集中している様子が伺えた。

 「パスワードが、悪い人に知られてしまうと、どうなるでしょうか?」という問いに対して、アニメーションを見て考えたことを、班ごとに話し合ってワークシートに記入していく。発表では、「お金がぬすまれる」「パソコンがのっとられる」「大事なことが知られてしまう」などの意見が次々に出された。最後に「パスワードを守るためのきまり」として「他人に教えない」「かんたんにわかるものにしない」というまとめを確認して授業は終わった。アンケート集計機能と情報モラル教材をワンポイントで活用することにより、子どもたちのパスワードに対する理解は一挙にすすんだようだ。

 「授業のねらい・ゴールを明確化してシンプルな授業、分かりやすい授業をやっていこうと思っています。」と語る岡村先生は、ICTを"ここぞ"という時に使うことでそれを実現している。

「長崎県ICT教育推進事業」モデル校として

校長 吉本 哲也 先生

教頭 金子 敏之 先生

 宮小学校は、ICT教育推進事業モデル校として、各教室に短焦点プロジェクター型電子黒板、教材提示装置を設置している。"モデル校"と言っても、宮小学校のICT活用に気負いはない。

 「ICTの活用は、今では自然な風景です。先生方は、毎朝15分の"スキルタイム"の時間で、フラッシュ型教材と電子黒板の組み合わせで活用していますし、普段の授業でも電子黒板や実物投影機は欠かせません。」と校長の吉本哲也先生は言う。公開授業では、ICT操作に慣れた先生の授業ではなく、4月に着任してICTを使い始めた先生の授業を見てもらうことにした。

 「使い慣れた先生だけが使いこなせるICTであってはだめだと思います。あくまで授業そのものを見てもらう。その中でICTが有効に活用されていたかどうか、そこを見てもらい、ご意見をいただきたいと思っています。」と吉本校長の言葉は力強い。

 教頭の金子敏之先生も、3年前にモデル校の指定を受けてからのことを、「ICTというと気負いがちですが、私たちは、『できるところからやっていこう』とすすめてきました。最初からあれもこれもではなく、少しずつ使って便利だなと思ったら自然に使う流れになりました。」と振り返る。

 ICTの活用促進は、教材提示装置からはじめて電子黒板、さらにタブレットを活用というように段階的にすすむことが大事、という考えは、宮小学校に流れる共通の認識だ。

大きなICT支援員の役割

 宮小学校では、さぞかしICTの研修会をまめに行っているだろうと思いきや、岡村先生によれば年に2回やる程度とのことだ。そのかわりICTの活用促進には、ICT支援員の存在が大きい。宮小学校でのICT支援員は、"機器操作に困った時に助けてくれるSE的な人"ではなく、"ICTを活用した授業の展開を相談できる"存在。自分自身もいっしょに勉強していこうという感覚を持ったICT支援員で、詳細な打合せをしなくても「こんな授業をするので、こんなことをしてほしい。」と話せば、授業中に呼吸を合わせて即座に対応してくれる柔軟性も持ち合わせている。機器の整備だけでなく、ICT支援員の適切なサポートがあれば先生のICTスキルも上がっていく。

 「ICTの有効活用は、相談できるICT支援員がいるからこそ。」と先生方は口を揃える。

「ICT教育推進事業」の成果を引き継いでいくのが大事

 宮小学校の3年に及ぶモデル校指定は、今年度で終了する。吉本校長は「この後が大事」と言う。指定が終了すれば、今まで同様の機器や人の支援はできなくなってくるだろう。

 「次年度につないでいくことが必要です。子どもの教育のために動くように耕し種まきして4月を迎える、そういうイメージを学校全体で持たなくてはなりません。」

 「できるところから」少しずつはじめたICT活用が、今では"自然の風景"になって学校に溶け込んでいる。ICTは「あくまでいろいろなツールの一つ」という自然体の姿勢は、今後も宮小学校で引き継がれていくことだろう。

長崎県 佐世保市教育委員会

佐世保市教育委員会 学校教育課  副主幹 木下 和弥 先生
佐世保市教育センター 副主幹 内川 尚浩 先生
副主幹 髙橋 浩一 先生

「すぐにでも使えそう」という思いを持ってもらう研修会を目指して

 佐世保市教育センターでは、研修会の開催などを市内の学校向けに実施している。

 ICTの研修会は、年に10回ほど。スモールステップが基本で、タイトルは「ここから始めるICT。」知識のある先生をさらに上に導く研修ではなく、活用のすそ野を広げる研修が主。機器の接続が不慣れな先生にも、「やってみると『案外かんたんだった』と言っていただけるのが私たちのゴールです。」と研修担当の髙橋浩一先生は語る。研修は自分で考えてもらうことを一番にして、機器の接続でも、あえて違う種類のケーブルも混在させておき、端子の形状で判断し接続してもらう。教えてもらうのではなく、実際の学校現場に近い状況で、自分でやってもらうことで自信がつく。

 受講生の声として、「今回の研修は、どんな穴(端子形状)があるか、の観察から始まり、実際に線をつないでみたり、と非常に分かりやすく、また、ゆっくりと少人数のグループで行ったので、大変ありがたい講座でした。これを機会に、実際に授業でも使ってみたいという気持ちになりました。」といった反応もあり、確実に活用のすそ野が広がっている様子が伺える。

 佐世保市の本格的なICT整備はこれからで、決して周辺市町村に比べて進んでいるとは言えない。しかし、"もの"の整備からではなく、現場の先生といっしょに活用について考えていくことを大事にしていきたいとのことだった。

 内川尚浩先生は、「あれがない、これがないから出来ないではなく、今あるICTで何が出来るかを考えるのが楽しいのです。」と一歩一歩、歩を進めることの大切さを話してくれた。

 佐世保市としては、むやみにICT整備率を誇るのではなく、ICT支援員や基本に徹した研修会など"人"のサポートを大切にしていきたいと考えている。宮小学校の研究を佐世保市教育委員会としてサポートしている学校教育課の木下和弥先生も「機器が入っても宝の持ち腐れになってはいけません。"人"のサポートは、先生方から大変喜ばれていると聞いています。」と話してくれた。

 ICT活用が"自然な風景"になっている姿は、宮小学校だけでなく、おそらく佐世保市の全学校で見られる姿なのだろう。

無窮洞の入口から正面の教卓を望む。奥行きは20m、天井までの高さは8mほどもあるという。

「 佐世保市宮地区 」ひとくちメモ

宮小学校の近くには「無窮洞(むきゅうどう)」と呼ばれる防空壕が一般公開されている。戦時中に、先生と子どもたちの手掘によって掘られたもので、中には石の教卓や炊事場、トイレもあり、全校生600名が入れるような広い地下壕である。今は平和を語り継ぐ施設として、地元の人に大切に守られている。

著作・制作:聖心女子大学 教授 永野和男

文部科学省が策定した「情報モラル指導モデルカリキュラム表」に対応した情報モラル教材

①「授業ガイド」で指導するポイントを確認。

②情報モラルの事例をアニメーションで問題提起。

③問題を考え、ワークシートに、分かったことを記入。

④情報モラルは、家庭と連携することが大事。家庭に配布する「家庭通信」も用意。

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