三百余年いにしえの 郷土の歴史物語る-
登米小学校の校歌は、「荒城の月」の作詞者として有名な詩人・土井晩翠の作詞である。
登米小学校がある登米市登米町には古くからの建造物が数多く残っている。そんな歴史情緒あふれる町の学校で、ICTを活用した授業が行われた。iPadや大型テレビがあるからといって、これまで行ってきた授業の流れを大きく変えるようなことはせず、ポイントを絞ったICT活用で効果的な授業を展開していた。
5年生 算数 「分数のかけ算」
授業者 5年1組担任 皆川 寛 先生
今回のポイント
①授業のベースはアナログで!
今までの授業の流れをそのまま活かす
②ICTを使う時間は最小限!効果的な場面に絞って使う
紙で自分の考えをかためる
今回、子どもたちが取り組むのは、「1dLで板を2/5m²ぬれるペンキが2dLでは、何m²の板をぬることができるか」という問題である。子どもたちは先生の板書をノートに写していく。「すぐに計算の考え方を書いてと言っても難しいね。そこで、便利な図があるんです」と言って先生が大型テレビに映し出したのは、問題文を図示したものだ。図が式のどの数字を表しているかを全員で確認する。その後、紙でも同じ図が配られ、子どもたちは自分の考えを書き込むことで思考を整理し、自分の考えを明確にしていく。
iPadで説明の仕方を考える
QB説明算数 分数のかけ算 きほん1の画面
先生の指示があると、子どもたちはiPadを机の上に準備した。2人で1台のiPadを使う。大型テレビに映し出されているのは、iPad用学習支援ツール「QB説明算数 5年 分数のかけ算・わり算」の画面である。〈分数のかけ算 きほん1〉には、子どもたちが取り組んでいる例題に沿った図が用意されている。先生が板を「ぬる」、ぬった面積を「動かす」、説明を「書く」といったアプリの操作を簡単に示した後、子どもたちは2/5×2の解き方をどう説明するか考え始めた。QB説明の画面を動かしながら、お互いの考えを伝え合う。アナログの教材とは違い、すぐに動かす前の状態に戻すことができるため、子どもたちは何度もやり直しながらお互いに納得できる説明を練っていった。
大型テレビで子どもたちが発表している様子
「それでは考えたことを紹介してもらいましょうか」。先生が教室を見渡すと、いたるところで手が挙がった。教室には無線LANが設置されており、指名された児童が自分のiPadの画面を大型テレビに転送できるようになっている。考えを書き込んだ画面が映し出され、それを指示棒で示しながら2/5×2の解き方について、自分たちの考えを説明する。先生は、3つのグループの考えをひとつひとつ丁寧に聞き出し黒板にまとめながら、教室にいる全員で共有させた。
電子黒板に別の問題を提示し、全員で計算が成り立つことを確認
黒板を見れば授業の流れがわかる
発表を聞き、解き方を共有したところで式の計算の仕方を考える。「分母の5はそのままで、分子の2と整数の2をかけて4にする。答えは4/5」。子どもたちはすらすらと計算の仕方を導き出した。そこで、先生はさらに揺さぶりをかける。「このやり方は、2/5×2のときにだけ、特別に当てはまるやり方なのではないですか。他の問題だったらどうでしょう」。そう言って「QB説明算数 5年 分数のかけ算・わり算」の〈分数のかけ算 きほん2〉の画面を提示した。最初に取り組んだ問題と同じやり方で解くことができる「3/5×4」の問題である。先程と同じ手順で、ペンキをぬり、ぬった部分を動かして見せ、全員で計算が成り立つことを確認する。
先生が黒板に計算式をまとめると、子どもたちもノートに戻り、授業のまとめを書き込んだ。
ノートに戻って、適用問題を解く
最後は全員で適用問題を解く。ポイントを絞ってICTを使うことで、子どもたちの活動を活性化させるだけでなく、適用問題に取り組む時間も捻出できるのである。まさに一石二鳥である。
インタビュー
「1人の100歩より 100人の1歩」
お互いの良いところを取り入れて学校全体の指導力をあげる研究授業を!
校長 須藤 勝子 先生
― 学校の研究授業についてお話をいただけますでしょうか。
本校では、学校全体の指導力の向上を目的とした研究授業を月1~2回行っています。先生方が授業を見る際は、授業設計上の課題だけでなく、自分の授業にどう生かせるかといった視点で見るようにしています。とくにICTの活用は、操作慣れしている若い教員と高い指導技術のあるベテラン教員がお互いに良いところを学び合うことで、質を高めていける部分だと思います。
― 評価はどのように行っているのでしょうか。
授業の評価の方法としては、「ICTの活用場面」や「板書・ノート指導の工夫」といった観点を設定し、4段階で評価をすることにしています。授業評価を数値化することで、授業のどこが良いか悪いかがはっきり出て、次の授業の改善につなげやすくなります。評価や感想・意見は、校務支援システム〈スズキ校務〉のアンケート機能を使っています。研究授業があった日の13時までに入力し、15時の会議の際には出力して提示できるようにしています。
― 最後に一言お願いします。
皆川先生は「1人の100歩より100人の1歩」といいます。その通りです。少しずつ、皆で前に進んでいく方がより大きな力になると思います。研究授業がその足がかりになればと、力を入れて取り組んでいます。
インタビュー
アナログの授業に+α!
活用場面を絞って子どもたちの活動の効果アップ!
皆川 寛 先生
― 授業を設計する際にこだわっていることはありますか。
授業の基本は「板書+ノート」だと考えています。まずは子どもたちの思考をノートに書かせることで整理させ、自分の意見をもたせることから始めています。その上で+αの要素としてICTを使うことで、より効果があがるのではないでしょうか。
― 授業の中では、具体的にはどのようにICTを活用するのがよいのでしょうか。
ICTを長い時間活用すれば効果があがるというものではありません。ICTを使うことで子どもたちの活動がより活性化されると予想される場面に絞って、活用するのがよいと思います。iPadはノートやプリントと違って、動く「過程」を見せられるため、考えを共有しやすくなるというメリットがあります。ですから、「話し合い」や「考えの共有」といった場面でiPadを使うようにしています。今回の授業でも、2人1組で計算のやり方を説明し合う場面で、iPadを使いました。子どもたちに十分に考えを練らせた上で、的確な時間の制約とタイミングでICTを使えば、子どもたちの思考はより深まりますし、効果的な授業が展開できると思います。
皆川 寛 先生に聞きました!
「QB説明算数シリーズ」ここがポイント!
動きの過程を友だちにも見せながら説明できるというのは一番のメリットだと思います。ノートに書くと、矢印で表すしかなくて結果しか見られません。QB説明算数を使えば動かす過程が見えるので、子どもたちも考えの共有がしやすいと思います。
また、アプリケーションの中に子どもたちの集中を高める仕掛けをしてあるのも魅力です。iPadに触れている時間を長くとれば思考できているか、と言えばそうではありません。無駄なものがあればそちらの操作に気を取られて子どもたちが授業に集中できないこともあります。そういった面で、図を動かした時に置きたい場所にスポッとはまったり、もう使わなくてもよい操作のボタンがグレーアウトして選択できなくなったりといった仕組みは助かります。子どもたちの思考をある程度、今日のゴールに向かって収斂させていくような仕組みと教師の指示の合わせ技で、子どもたちの学習を前に進めることができます。
QB説明算数は子どもたちのモチベーションアップにもなっていると思います。iPad上で動かして考えるというのはやはり、iPadに慣れているとはいえ、子どもたちが授業を楽しいと感じるポイントであると思います。楽しさが次の時間への意欲にも繋がっています。
授業準備の面でも、効率的になりました。とくに教材づくりです。一瞬の提示のためだけに多くの時間を割いて教材づくりをしたこともありました。模造紙2枚くらい使うような大きなものもつくりました。ところが、この教材はその後しばらく使われることはないんですね。それがQB説明算数なら、大型テレビにiPadの画面を転送するだけで提示教材として使えるのですから、大変助かっています。これまで教材づくりに費やしていた時間を、全て授業設計に使えるようになりました。本来の教師の仕事になってきたなあ、という感じがします。
iPad用学習支援ツール QB説明算数 5年「分数のかけ算・わり算」
〈QB説明 算数〉シリーズは、小学校の算数における子どもたちの学習を支援するアプリです。子どもたちは、学習目的にそって用意された様々な〈道具〉をiPad上で操作しながら、自分で考えたり友だちに説明したりすることができます。学年別・領域別にアプリケーションをご用意しています。
きほん1「2/5×2」
きほん2 「3/5×4」
コラム「宮城県登米市」
登米市には、多くの歴史的建造物が残っており、当時の町並みの面影がうかがえる。写真は登米小学校の近くにある、旧登米高等尋常小学校(教育資料館)で、明治時代の建築である。