今回グランプリを獲得したのは、杉並区立桃井第三小学校。平成25年度には、杉並区の教育課題研究指定を受け、ICT活用のパイロット校としての役割を担っている。
今回は、3年、5年、6年、理科委員会の5人の先生から様々な学年、教科、活動で活用された作品をご応募いただいた。
グランプリ受賞の知らせに倉澤昭校長先生は、「本当に驚きました。学校全体で普段使いで活用しているので、それが受賞に結び付いて本当にありがたいです」と、その時の思いを語ってくれた。
応募いただいた作品は、明確なテーマ設定がされ、調べたことをまとめただけでなく、自分たちのアイデア、考え、感想がもりこまれ、創意工夫や学びが読みとれる。
校長
倉澤 昭 先生
3年1組
石原 朋之 先生
3年3組
田中 あかね 先生
5年1組
浦野 裕司 先生
6年1組
山里 英範 先生
理科委員会
上野 真喜子 先生
※ご所属先は取材時のものです。
5年1組・学級通信「げんきのもと」
「みんなの中から、将来、日本の工業を支える道に進む人が現れるきっかけになったかもしれません」と結ばれている。
活用アプリ:プレゼン
浦野裕司先生が指導する5年1組では、社会科で大田区の工場について調べ、班ごとにコマーシャル風に紹介する活動をした。浦野先生は「子どもたちが興味を持って取り組めるように、自分がそこの社員になったつもりで工場のコマーシャルを作ることにしました」とポイントを挙げる。配慮したのは、プレゼンのスライドを4枚、時間を2分以内とした制限の工夫。重要な情報を絞って考えることを意識させた。
発表の後は、グループで話し合った内容をインタラクティブボードに提示し、共通点や相違点などを話し合うことで「思考の可視化」にもポイントを置いた。
大田区の工場を調べる活動にあたって、浦野先生は、協力を依頼する手紙を7社に送るところからスタートした。突然の依頼にも関わらず、すぐに資料や見本を送ってくれたという。「中には、社長から『何が必要ですか?すぐに送ります』と直々に電話をいただいたり、『工場見学にも来て下さい』とうれしいお誘いをいただいたりと、子どもたちへの温かな気持ちを感じました。お忙しいなかでご対応いただいたことに改めて感謝しています」と振り返る。
5年1組の学級通信「げんきのもと」(第20歩)では、この時の活動の様子が載っている。発表会を終えての感想として、「知らなかった物が、すごく大切な役割をしていておどろきました。他の班の発表を見て、ここはこうしたら分かりやすいんだなと学びました」、「大田区の工場は、あまり気づかれていないものがあるけど生活にはかかせないということがわかった」などがあり、子どもたちは多くのものを学んだようだ。
活用アプリ:プレゼン
田中あかね先生が指導する3年3組では、商品の流通や生産者など、スーパーマーケットを取り巻く状況やお店の工夫を班ごとに調べた。
学習のスタートは、家の人がどのようなものを買って、どのような思いを持って買い物をしているのかを理解することから。「その思いを理解したうえで、スーパーマーケットに見学に行き、その後に農家にも見学に行きました。生産者と販売者の両方の思いを学び、そのうえでお店の人になったつもりで、あったら良いと思う『コーナー』を考え発表しました。自分たちが、どんな『コーナー』を作りたいかという視点を持って取り組むことで、何を見たら良いか、何を聞いたらよいか、はっきりしますし、自分たちの地域がどんな場所なのか、ということも深く考えるようになりました」と子どもたちの変化を語る。
コーナーは、手描きで作成し、地元産を集めた「杉並区の野菜コーナー」、くじびきで地元の野菜があたる「ラッキーコーナー」、買い物中に子どもを預けられる「お子様ワイワイコーナー」などいずれも個性豊かである。
「どんな『コーナー』にしたら、自分たちが好きだという気持ちが伝わるか、すごく考えていました」と田中先生は、その時の様子を振り返る。子どもたちが夢中になって取り込んでいる様子が見えるようだ。
活用アプリ:プレゼン
石原朋之先生が指導する3年1組では、班ごとに「音楽会」、「運動会」、「虹色フェスティバル」、「高尾山」、「ふれあいの家との交流」をプレゼンにした。
石原先生は、今年度、同校に赴任されたため「私も知らない行事がありました」とのこと。「子どもたちは校長先生のところにある資料なども参考にしながら、先生にもインタビューしてまとめあげました。プレゼンの流れは各班で話し合わせ、私は、伝えたいことと、写真や言葉があっているかを指導しました」と振り返る。この活動のプレゼンは、多くの写真が効果的に使われている。そこには一昔前の写真も使われ、今との違いも比較できる対比が図られている。
活用アプリ:プレゼン
山里英範先生が指導する6年1組では、班ごとに「衣服」、「人々の生活」、「食べ物」などについて調べた。いずれも自分たちに身近なことで、調査方法も、「インターネットや本の他に、実際に戦争を体験した祖父や祖母などに聞いたりしてまとめあげました」と山里先生。題材が身近なことだけに、自分たちを写した写真と戦時中を対比させるプレゼンもあり、今の平和な生活に心から感謝している様子がうかがえる。
活用アプリ:新聞、リーフレット
上野真喜子先生は、委員会活動で「伝えるチカラPRESS」の「新聞」と「リーフレット」を活用している。「理科新聞」の発行は、月に2回。テーマは、みんなで考えた科学的な話題。連載の「校庭たより」では、季節により、移ろう校庭の様子を記事にしている。「理科新聞やポスターなど、ソフトを使えば写真も使えて、とてもきれいに仕上がります。それが子どもたちには大きな達成感になっています」。
自分たちが企画し、調べて、学校のお友だちに向けて新聞を発行する。理科委員会の子どもたちには大きな誇りになっているようだ。
杉並区立桃井第三小学校は、杉並区の教育課題研究校としてICT活用のパイロット校の役割を担っている。同校でICT機器を活用し、その有用性を検証してから区全体に展開される。ICTの「普段使い」は、そのような環境からうまれていく。
倉澤校長先生は、「当校では、ベテランの先生方がICT活用の先頭に立ってくださっています。授業のノウハウを持っている熟練した先生方が一番最初に研究授業をするわけです。教育の本質を熟知したうえで、便利なツールを積極的に取り入れているので、若手の先生方にとっても頼もしい指針になっていますし、当然、他校でも取り入れやすいと思います」と語る。
ICTの活用は、ICTを活用すること自体が目的ではない。教育の本質の部分を大切にして、あくまで活用できるところで活用する。ともすれば忘れがちなICT活用の重要なポイントが同校では押さえられている。