(財)民間放送教育協会「小学校授業支援事業」実践校
(財)民間放送教育協会は、教育に奉仕することを目的に設立され、平成21年度から「小学校授業支援事業」を全国的に推進している。静岡県では、静岡放送が翌年から実施に名乗りを挙げるなど活動も積極的だ。
平成23年度、静岡市立清水高部小学校への支援が実現した。高部小学校では、5年生が翌年入学してくる新1年生のために学校紹介ビデオを制作する計画があり、静岡放送のスタッフがアドバイザーとして授業に参加することになった。
5年1組の担任であり、また、清水高部小学校で情報教育を担当する西川先生を中心に授業設計が組まれ、11月28日(月)と30日(水)の2日間にわたり、実際に静岡放送の制作スタッフを招いて授業が実施された。今回は、その授業の様子を取材した。
1 テレビ局スタッフの登場に目を輝かせる子どもたち
TV局スタッフが撮影のアドバイス
子どもたちが撮影
西川先生によれば、「子どもたちの目の輝きは、それまでに見たことがないほど活き活きとしていました。報道用の大型カメラのまわりにみんなが集まり、実際に肩にかついだりファインダーを覗く体験を通して、ニュース制作への興味を一層高めていくのがわかりましたね。」と振り返る。その後、すでにでき上がっていた画コンテ(シナリオ)を元に校内の撮影がはじまった。静岡放送のスタッフも子どもたちと一緒に校内を歩き、撮影のアドバイスを行う。カメラアングルや撮影時間など、ヒントを与えると、自分達で工夫する姿も見られた。西川先生は、より良いものをつくりたいという意欲が子どもたちの中で高まっていったのを感じたという。
2 わずか45分でムービー完成!
作業時間の目安を考えて編集作業
日程2日目は編集作業。4人前後のグループごとに撮影した映像を選び並べていく。この時、西川先生は、子どもたちの作業がスムーズに進むように作業時間の目安を提示していた。最初の5分で「長さを決める」、次の5分で「オープニングとエンディングを加える」、次の5分で「音声を録音する」、そして最後の8分間で「文字を入れる」という工程だ。こうして、45分の授業時間の中で作品が完成していった。
3 達成感が次の学習への意欲を生む
TV局スタッフが編集のアドバイス
教室で作品発表。子どもたちからは
積極的に意見が出ました。
続いて行われた作品発表では、子どもたちが感想や意見を言いやすいように「振り返り」のポイントが3点示されていた。
子どもたちの感想発表も積極的で次々と手が挙がっていく。
西川先生によれば、「子どもたちの達成感が感想発表にもつながったのだと思います。手軽に楽しくムービー制作ができ、高い満足感を得たのでしょう。」とのこと。
P O I N T !
「振り返り」の
3つのポイントを示す西川先生
①写真や映像が1年生のためになっている
②写真とナレーションが合っている
③1年生にとって聞きとりやすいナレーションに
なっている
静岡市立清水高部小学校
教諭 西川 正一 先生 インタビュー
「本物」に触れた喜びが
将来の仕事のイメージへつながる。
ムービー制作でさまざまなことを
学んだ子どもたち。
――― 子どもたちは積極的に活動していましたね。
西川 役割分担は決めていなかったのですが、お互いに協力し合いながら行動していました。真面目に取り組む生徒が多いので、方向性だけを与えれば、あとは子どもたちが自分達の力で解決するだろうと考えました。
――― 事前に「ニュース番組制作」ツールの使い方を教えたのでしょうか。
西川 この学習に先立って1時間ほどツールの操作方法を体験しました。直接指導したというよりは、子どもたちが機能を見つけ出して習得していったという感じですね。時間内にムービーが完成したのは、ソフトの使い勝手の良さが大きかったと思います。授業活用のための充分な機能があり、感覚的に操作できることで、子どもたちは即座に使いこなしていました。
――― 45分間でムービーが完成したという達成感は、子どもたちにとって大きな経験なのでしょうね。
西川 テレビ局の方が「僕たちも時間に追われながらニュースをつくってるんだよ」という話しを子どもたちにしてくれました。時間の大切さを言葉にしてくれたことで、子どもたちが授業時間内で完成を目指す力を与えてくれたと思います。
――― テレビは、子どもたちにとって憧れの存在ですからね。
西川 普段テレビで観ているようなことが自分達にもできたという点で、大きな満足感を得たと思います。また、テレビ・ニュース・報道に携わっている人達やカメラ機材などを実際に見ることができ、その「本物」の素晴らしさを目の当たりにしたのが大きかったですね。大人の仕事を見る機会はとても貴重で大切です。将来の仕事をイメージするきっかけになったのではないでしょうか。
静岡放送株式会社 編成業務局 編成制作部
柴 和宏 さん インタビュー
「ニュース番組制作」ツールがあれば、
学校教育の中で、映像メディアに
触れる授業がもっと多くなる。
――― 静岡放送は、静岡新聞というメディアもお持ちですから、会社見学などの依頼が多く寄せられるのではないですか。
柴 はい。新聞編集現場や放送スタジオ見学などは常時行っています。しかし、今回の(財)民間放送教育協会のような活動は、自ら外に出て行き、もっと理解を深めてもらうためのもので、テレビ局に一層の親しみを感じてもらいたいという狙いで実施しています。
――― 子どもたちと接してどのような印象を持ちましたか。
柴 ムービー制作のアドバイザーとして参加したのですが、まず、テレビ局での番組制作の話しをしたり、カメラ機材を見せたりして子どもたちに興味をもってもらうように努めました。編集作業では、映像づくりを楽しんでいる子どもたちの姿が印象的でした。ソフトの特徴をいち早く掴み、理解して簡単に操作していく様子を見て、我々も報道・編集の原点を見つめ直す機会になりました。「伝える」という純粋な気持ちを映像にする姿勢に、素直にうれしく思いましたね。
――― 具体的にはどのようなアドバイスを行ったのでしょうか。
柴 「おもいやり」を伝える場面では、手を差し伸べる部分をアップで表現したらどうだろうか、といったテクニックや伝えたいメッセージが作品に反映されているかなどを問いかけたりしましたね。また、見る側の気持ちに立った作品づくりなどのアドバイスも行いました。1年生が読めるように「高部小」という文字は平仮名にしよう、という考えが子どもたちの中から芽生える場面もありました。
――― 授業後の感想をお願いします。
柴 まず、子どもたちのソフト活用能力の高さに驚きました。しかも、完成した作品のクオリティも高い。このソフトがあれば、映像メディアの入口が今まで以上に広がるだろうと思いました。今後は、学校教育の中で、もっとメディアに触れる授業がたくさん行われることに期待したいですね。
映像には表現力があります。それは「自分で考える」ということから生まれます。また、コミュニケーションにおいても考えることは重要ですから、考えて人に伝えることの大切さを映像づくりの中で知ってもらいたいと思います。そして、考えが伝わればうれしい気持ちになるということも、子どもたちには体験してもらいたいですね。