学習場面におけるICTの活用は特別なものではなくなってきている。しかし、例えばコンピュータでの作品制作において、「作品作って発表しておしまい」ではなく、活動を通じて「思考し」「判断し」「表現する」といった活用する力の育成を意識することが求められている。
従来の「習得型」学習と「探究型」学習の間に「活用型」学習を置き、授業デザインの中に位置づけた取り組みが今、始まっている。
1 動画編集手順の説明
授業の導入で編集の流れを説明する山田秀哉先生。授業全体の見通しが明確になる。
【活用ソフト】
表現活動支援ソフト
〈伝えるチカラ PRESS〉
〈伝えるチカラ PRESS〉は、活用型学習に求められる表現力を育成する授業を支援する新しいコンセプトのソフト。表現活動支援ツールとして「新聞制作」「プレゼンテーション」「ニュース番組制作」の3つのアプリケーションで構成される他、先生方向けの「研修パッケージ」が同ソフトの授業での活用を支援します。
【今回の活用アプリ】
●ニュース番組制作
〈伝えるチカラ
PRESS〉のツールのひとつである「ニュース番組制作」を活用して、八軒小学校の5年生国語科「工夫して発信しよう」の授業が行われた。
「ニュース番組制作」は、その名の通り、テレビのニュース番組のような動画を手軽に編集・制作できるツールである。取材に行って情報を収集し、動画の時間や読み上げコメント、表示テロップを検討するなどの活動は、まさに実際のニュース番組制作の現場と同じである。
授業は、山田先生が黒板に学習の流れを提示することからはじまった。今日のテーマは「編集しよう」である。板書には、編集作業の順番が示されていく。「ビデオを並べる」「長さを決める」「言葉を考える」「文字を入れる」「効果をつける」「オープニング・エンディングをつける」の6つのステップについて説明が終わり、いよいよ編集開始となった。
2 グループで作業開始
わずか60分でこれだけの作業。
そして「ニュース番組」完成!
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
子どもたちは2〜3人のグループごとに「ニュース番組制作」を進めていく。動画素材を読み込み、その長さを決め、そこに載せるテロップ(言葉)を考えていく。誰もが積極的だ。さまざまな意見やアイデアが飛び交い、また、教え合いながらニュースがつくられていく。
その間、山田先生は各グループの様子を観察しながらアドバイスを続けていく。
あっという間に最初の1時間枠が終了し、休憩を挟んで後半がスタートした。すでにいくつかのグループは、完成に近づきつつあり、動画転換時の表示効果に発展しているところや、最後まで仕上げたグループはもう一度前の作業段階に戻り、「伝える」ためのニュース番組映像に更に磨きをかけていく。
|
積極的に自分のアイディアをアピール! |
|
3 クラス全員で視聴・検討会
各グループの「ニュース番組」を全員で視聴して検討会が開かれた。
どの作品も臨場感たっぷり!
1Aグループ 「にじ色図書館」 |
|
1Bグループ 「保健室」 |
|
3Aグループ 「事務室」 |
|
5Aグループ 「健康委員会」 |
|
5Bグループ 「あいさつマンの仕事」 |
やがて時間となり、山田先生は作業の停止を告げる。そして検討会へ。いくつかのグループの作品が大型モニターに表示されていく。その度に他のグループから拍手が起こり、教室は達成感に包まれていった。
はじめての「ニュース番組制作」にもかかわらず、授業はスムーズなほど無事終了し、子どもたちの表情も誇らしげだ。そして、本当にこの60分ほどの時間で、子どもたちが伝えたいニュース映像が完成したのである。
P O I N T !
今回のポイント!
“頭の中で編集作業が終わっていた?”
この時間まで、子どもたちはまだ一度もパソコンに触れていない。ただし、ニュース番組作りの計画やテーマの検討は、すべてワークシートに記入されていた。また、ディレクター、アナウンサー、カメラマンなどの役割分担もしっかり決められた上で取材・インタビューに出かけている。
つまり、実際に取材しながら、同時に頭の中で編集作業を行っていたのである。「訓練ですよ」と教えてくれたのは山田先生。だからこそ、わずか60分の作業時間で動画編集が完了するのである。
札幌市立八軒小学校
教諭 山田 秀哉 先生 インタビュー
確かな授業デザインと工夫があれば、
子どもたちは伸び伸びと学び、
自分達で表現力を磨いていく。
――― 子どもたちは60分で本当にニュース番組を仕上げてしまいましたね。
山田 はい。この1年間、このクラスの担任として「目標を達成する」ことの大切さを教えてきました。今日も、テーマさえ確実に把握していれば意欲的に作業に取り組むだろうとイメージしていました。
――― 最初の説明以外は、すべて子どもたちに時間を与えていましたね。
山田 活用型の学習は、活動に入る前に教師がどれだけ学習の本質を理解させることができたかが問われます。教師の出番はそこにあって、その後は子どもたちに委ね、活動を見守っていくということです。
――― 60分間の魔法は、そこにあったのですね。
山田 実は、子どもたちの中では、すでに編集は終わっているんですよ。ワークシートに沿って取材・インタビューをした段階で頭の中では同時に編集もしているんです。そして、具体的な目標を与えたことで60分間でニュース作品が完成したのです。
――― テーマについて、再確認しているグループもありましたね。
山田 メディアによって表現方法は変わります。テーマを常に意識していれば、道具が変わっても伝えたいことを正確に表現できるのです。
―――「ニュース番組制作」の印象は?
山田 子どもたちだけでほぼすべての操作ができることに価値があります。シンプルで明快。活動の目的を簡単に達成できる点で好印象です。後は、確かな授業デザインと工夫があれば、子どもたちは伸び伸びと学び、自分達で表現力を磨いていくことができるのです。その点で〈伝えるチカラ PRESS〉の活用場面は増えるでしょうし、大変期待しています。