埼玉県深谷市教育委員会は、ネットワークで結ばれた市内の全小・中学校に校務支援アプリケーションの導入を実施。今年度、29校すべての学校(うち通信票作成は小学校9校、中学校1校)で運用がはじまっていた。深谷市として初めてとなる完全パソコンによる通信票が配布された1学期の終業式の日に、八基(やつもと)小学校と教育委員会を訪問した。
『今年度から通信票が新しくなります』
学校のシンボルでもある くすのきの大木。
通信票のタイトルに込めた子どもたちへの想いがある。
学校のシンボルでもある くすのきの大木。 7月18日。この日、埼玉県深谷市の八基小学校では、市内の他校と同様に1学期の終業式が行われていた。
終業式での加藤眞司校長先生のお話は、きわめて印象的であった。
その冒頭で、『今年度から通信票が新しくなります。』と、通信票のことが切り出された。そして、『努力の結果が通信票にあらわれます。』と。さらに、『苦難を乗り越えずして喜びはない』『練習は不可能を可能にする』『人に感謝する心を育んでほしい』『目標が原動力になる』『感謝と努力を大事にしてほしい』という言葉が、丁寧にひとりひとりの子どもたちの心に届くように語られた。加藤校長先生の信念は、間違いなく子どもたちの心深くまで行き着いたに違いない。
終業式の後、子どもたちは教室に戻り、いよいよ通信票を手にすることになる。今回は、特別に許可をいただき、すべての教室を巡りその様子を取材することができた。
職員室を出た先生方は、腕に段ボール箱を抱えている。その段ボール箱の中には、表紙がグレーの軟質プラスチック素材のクリアポケットファイルが何冊も詰め込まれている。これが、通信票を入れるファイルである。
このクリアポケットファイルの仕様は、各学校の裁量に任せられている。取材で訪問した八基小学校では、ポケットが10個付き、表紙がグレーのファイルが購入され、このポケットの中にA4サイズ用紙の通信票が入れられ、通信票『くすのき』として完成する仕組みとなっている。
子どもたちの
ワクワクした想いが伝わってくる
クラス全員分の通信票『くすのき』を抱えた先生方は、それぞれの教室に入っていく。その表情も、少しばかり緊張した気配にも思える。こうしたスタイルの通信票は、先生にとってもはじめての経験である。
教壇に置かれた段ボール箱を見て、子どもたちも息を呑む。その姿を見渡した後、「これが新しい通信票です。」と、にこやかに話す先生。教室の張りつめた空気がゆるみ、子どもたちの表情も崩れていく。
『がんばりましたね』と声をかけて通信票を渡す先生。『ありがとうございます』と大きな声で答え受け取る2年生。感想を訪ねると『かっこいい』『見やすい』『おじいちゃんに見せたい』など、ワクワクした感じが伝わってくる。4年生は、先生手づくりの賞状付きだ。通信票の後のポケットにひとりひとりにユニークなタイトルが付いた賞状が入っている。うれしそうにそれに見入る子どもたち。みんながやわらかな表情を浮かべていた。
校務の効率化を支援する
〈スズキ校務シリーズ〉
深谷市に導入された校務支援システム〈スズキ校務シリーズ〉は、「名簿情報管理」、「出欠席情報管理」、「小学校成績処理」、そして「通知表作成」のフルパッケージである。1学期末に配られた通信票は、「名簿情報管理」にはじまる同シリーズを新年度より活用することによって実現した。
〈スズキ校務シリーズ〉を導入することで、いち早く校務の効率化の達成を目指した深谷市と各小学校の取り組みに接し、今、新しい時代の校務がはじまったのを実感した。
校長先生インタビュー
八基小学校で今回の校務支援システム導入にあたり陣頭指揮を執った加藤眞司校長先生に、先生方の取り組みや通信票が仕上がるまでの試行錯誤の様子を伺った。
深谷市立八基小学校
加藤 眞司 校長先生
───新しい校務システムによる通信票作成を振り返って、どのように感じられますか?
加藤/当初はなかなかイメージが掴めなかった先生もいましたが、新任の先生をフォローするなど、先生どうしのスクラムがいつの間にかできあがり、最終的には確かな感触を持つことができたと思います。
本校では、各家庭から要望があれば改良も加えていきたいと考えています。今後、先生の仕事がさらに増えることが予想されるので、このシステムの導入によって大幅な校務の効率化につながっていくと思います。
───実際に1学期の通信票を作成した先生からは、どのような感想がありましたか?
加藤/「便利になった」「是非続けて欲しい」という声が届いています。学校としては、校務の効率化が実現し、子どもたちとのふれあいの時間が増える、というイメージにいち早く近づけたいと考えています。
活用にいたるまでには、3回ほどの研修会を開催してきましたが、それでもまだまだアプリケーションの使いこなしが十分ではありません。先生方の負担は、おそらく丸一日分は軽減されたと思いますが、効率化のメリットを実感するのはこれからではないでしょうか。
───パソコンで作成した通信票に対してはどのような印象を持っていますか?
加藤/手書きの通信票であれ、パソコンで作成した通信票であれ、子どもを想う心は同じです。手書き文字ばかりに心が込められているわけでありません。表面的なものではなく、作成にあたって、ひとりひとりの子どもの姿を思い浮かべ、心を込めて通信票をつくることが大事であると思います。
───保護者からは十分な理解が得られているとお考えですか?
加藤/幸いこの地域は保護者と学校との結び付きが強く、今回も、PTAの理解・協力がありました。
学校側からは、早い段階から「学校だより」で主旨を説明するなどして保護者の不安解消を図ってきました。その中では、『今、教育が動いています!』というタイトルでメッセージを流し、保護者の関心を集めるように努力してきました。
通信票は、子どもたち自身が、自分としてどれだけがんばったかを見るためのものです。2学期、3学期と少しずつでも内容が良くなっていくように先生が指導していくことが大切であると考えています。
『深谷市教育ビジョン』の中で実現した
校務支援システム。
深谷市教育委員会
副参事兼指導主事
久木 健志 先生
深谷市教育委員会
課長補佐兼指導主事
強瀬 雪乃 先生
埼玉県深谷市の『深谷市教育ビジョン』は、今日まで少しずつ方向性と具体策が調整され、その実現に向けて着実に描かれてきた。
その中の具体策のひとつである〈ICTを活用した教育の仕組みづくり〉では、[情報教育の推進]や[情報モラル教育の推進]、[ファイル共有システムによる知の共有化]、[緊急連絡システムによる情報発信]の他、[校務処理システムの活用による校務処理の効率化]がうたわれ、これまでに整備してきた情報環境の完全活用が明言されている。
スズキ教育ソフトでは、[校務支援システムの活用による校務処理の効率化]の導入・実践に向けて、〈スズキ校務シリーズ〉を提供してきた。今回、これまでの経緯や現状などについて、副参事兼指導主事
久木健志先生と課長補佐兼指導主事 強瀬(こわせ)雪乃先生にお話を伺った。
───[校務支援システムの活用による校務処理の効率化]がスタートしていますね。
久木/ここにきて設備環境も整備されネットワークを最大限に利用することで、市内の小学校19校すべてで同質の情報教育を実践できると考えています。
今年度1学期より、通信票の作成が一新されました。先生方の手書きによるものから、入力のすべてを各学校のパソコン上で行う仕組みになりました。
同時に通信票そのものの形式も変更しました。A4サイズの用紙を使用し、それらをクリアファイルのポケットに入れて完成となります。クリアファイルは各学校の裁量に任せて準備していただきました。
───各学校や先生方からの声は届いていますか?
久木/通信票に関しては、情報の一元化のメリットを実感していると思われます。これまでに比べて3分の1の労力にまで軽減できていると感じます。また、時間的にも大幅な短縮になっているはずです。
強瀬/八基小学校では、表紙が不透明なファイルを採用しました。これは、中身が見えないこともあり、子どもたちは「大切なものをあける」感覚で受け取ったと思います。また、ポケットの数も10個という点にこだわりました。あまり多すぎず少なすぎず、通信票の他に賞状など数枚を入れることができる厚さです。
───〈スズキ校務シリーズ〉の印象をお聞かせください。
久木/我々の目指すプランを推進するにあたり、ハードウェアメーカーとソフトウェアメーカー、そして教育委員会の3者の関係づくりが大切であると考えました。
ソフトウェアメーカーは、『深谷市教育ビジョン』に理解のある企業で、プランの実現に向けて同じ気持ちを共有し、心が通い合う企業であることが条件となりました。そして教育ソフト開発で実績があり、校務支援システム〈スズキ校務シリーズ〉を発売したスズキ教育ソフト社にお願いしようという結論に達したのです。
───ありがとうございます。
強瀬/以前、連絡メールシステムを導入する際に感じたことですが、御社の製品は、マニュアルを読まなくても操作に戸惑う場面が極めて少なく、その点で先生方にもいち早く受け入れられるであろうと考えました。
───教育委員会としての課題は何かありますか。
久木/今回は、特にユーザーフレンドリーなシステム開発ができたことで、スムーズな導入を果たすことができたと考えています。
教育委員会としては、校務システム並びに通信票の作成において、そのメリットをどれだけ各学校・先生に広めることができるかが最大の課題です。その一方で、先生方の情報機器活用の力を向上させていくことも必要であると考えています。