三浦市教育委員会
文部科学省プロジェクト委託
『三浦市学校安心メール配信事業』
平成17年度の終わり頃に文部科学省から、『子どもの安全に関する情報の効果的共有システムに関する調査研究』プロジェクトの応募が行われた。全国約30地域を対象としたこのプロジェクトに対して、三浦市教育委員会では積極的にアプローチを行った。
三浦市教育委員会 教育部学校教育課の村松雅課長は、「そもそも今回のプロジェクトでは、様々な情報共有手段を候補に想定することができる。パソコンの電子メールやホームページ、ICタグなどがそれに該当する中、三浦市では、当初から「日常性、実用性、継続性の視点から、普及度の高い電子メール(特に携帯メール)での情報共有を採用しました。」と、ねらいを明確にしていた。
さらに、「三浦市としては、まったく実績のないところからのスタートでした。しかし、時代の流れの中で、携帯電話のメール機能の有効性を確信していた点と前任地で経験があったことから応募を決めました。結果的に委託を受けることになり、『三浦市学校安心メール配信事業』をはじめることになりました。」と振り返る。
事業の対象となる三浦市内の小学校8校と中学校4校の全児童・生徒数は3,684人(平成19年5月1日時点)。「全市的に取り組みが可能」(村松課長)であると判断され、平成18年度初頭から調査研究が開始された。
三浦市教育委員会
教育部学校教育課 村松雅課長
連絡メールシステム
〈キュート連絡網〉の採用 へ
三浦市は同プロジェクト実施に向け、連絡メールシステム〈キュート連絡網〉を採用した。村松課長によれば、「メール配信システム選定にはASPタイプの有料メール配信サービスを含め、多くの候補が挙がった中から検討しました。〈キュート連絡網〉を採用したポイントとしては、ASP方式のシステムのように、後年度負担がないこと、外部のサーバ上で大切な個人情報を扱うことが無いという点です。そして、学校現場で先生方が扱うのに適した機能や配慮があることも重要なポイントです。」と語る。
個人情報を聞き出す不審電話注意の連絡
麻疹についての保護者あての連絡
「安心・安全」を届けるメール配信事業と
日常の積極的な情報発信
「プロジェクトを推進するにあたっては、推進委員会を設置することが取り決められています。そこで、私どもは、教育委員会を中心に警察生活安全課や防犯協会とともに『安心メール配信推進委員会』を設置しました。
実は、今回のプロジェクトにおける事業名にも工夫を凝らしているんです。例えば、不審者情報を流しても、事実を伝えるだけではかえって不安を募らせることにもなりかねません。そこで、必ず文章の終わりに『受信者のその後の対応について』を含んだ安心材料となる文面を入れて、『安全・安心』を訴えていきたいと考えています。ですから、事業名も『三浦市
学校安心メール配信事業』としたのです。」と話す。事業が健全な方向に進むことを願う気持ちが伝わってくる。
三浦市教育委員会が策定した連絡メール配信ガイドライン「6.具体的内容」では、メール本文に記載する内容を定めている。
・メール配信対象者の範囲
・情報の入手元
・具体的事実
・受信者のその後の対応について
さらに〈キュート連絡網〉は、子どもたちを守る連絡ツールとしての活用にとどまらず、各学校と保護者間の普段の連絡ツールとしての役割も担う。
送信メールの一部を拝見させていただいたが、そこには学校行事の連絡や、「学校だよりを子どもたちに配布しました」など、学校が普段日常行っている活動の連絡である。
新しい取組みであるメールによる学校からの積極的な情報提供・情報発信が定着することにより、保護者にとって、学校がより身近な存在になっていくであろう。
三浦市教育委員会
山田真也指導主事
そして、新たなコミュニケーションの可能性
地域との連携に活用
また、プロジェクト実施に向けた調査研究にあたり、全国でこのような類似した活動を行っている学校や地域へ視察に出かけている。その中で、平成18年7月、同じ神奈川県の湯河原町立東台福浦小学校への視察で、大きな感触をつかんだようである。
「この時のエピソードとしては、学校がメール配信システムによってプール塗装のお手伝いを依頼したところ、メールを受信していない保護者もたくさん参加してくれた、というのです。これは、メールを受信した保護者が、その内容を他の保護者や近隣に住む地域の人に直接伝達してくれたことがその理由で、今回のメール配信のポイントは、まさにここにあると感じました。メール配信によって新たなコミュニケーションが喚起されることを確信したのです。」と当時の感想を話す村松課長。
「元々、三浦市は、地域と学校のつながりが強いこともあり、例えば学校行事にもとても協力的な地域なのです。それをさらに深めることができればよいと考えていました。学校連絡システムと呼ばれるものは、主として保護者との連絡用として考えられるわけです。私どもは、保護者との連絡はもちろんですが、その他に地域に住む方々とのコミュニケーションをより密接なものにしたいという希望を持っていました。」と話す村松課長。
さらに、「この地域には、『おらが学校』という認識がみなさんにあり、登下校の『見守り隊』なども実施されており、そういう方々に、例えば今日は5年生は林間学校ですよ、とか、学校行事のため下校時刻が変わりました、というような情報を伝える手段を模索していたのも事実です。」と、これまでの地域の方々の活動に応えたいという意志表示を感じることができる。
学校と保護者、そして地域とのさらなる信頼関係構築に向けて
三浦市教育委員会教育部学校教育課の山田真也指導主事によれば、「現在(6月)の各学校での保護者の登録率は、35%~70%ほどです。案内書は、各学校で年度はじめに文書で保護者に伝えた程度です。実際にメールを配信する担当者は、各学校の教頭先生にお願いしてあります。各学校間で使用頻度に差が出ることは考えられましたが、ここまでは、想像よりもその差は少ないです。」と現状を振り返る。
元々、学校と保護者や地域が信頼関係を築いている状態では、携帯電話を持っていないから情報が伝わらないのではなく、携帯電話を持っていない人にも、この情報を伝えてあげようという発展性が存在するのである。
「登録率が、一番大事なことではないんですね。メールを配信した後に、どれだけアクションが起きるか。これが大切であり、これこそが学校と保護者・地域との信頼関係なのではないでしょうか。」という村松課長の言葉には、実感が込められていた。
平成19年度より、三浦市では、2学期制と3学期制の良さを併せ持つ『新3学期制』をスタートしている。『新3学期制』は学校教育の改善プロジェクトであり、数的、質的に教育の充実を図る新しい取組みが進行中である。
同時にスタートした、この『学校安心メール配信事業』においても、村松課長が語る「新しい教育効果を生み出すこと」が期待される。
〈キュート連絡網〉による連絡メール配信により、学校と保護者・地域との新たなコミュニケーションの広がりが生まれていた。
短時間で早く連絡できる点が効果的。
インタビュー:三浦市立名向小学校 毛利教頭先生
本校の登録率は、55%ほどになっています。学年別で比較すると、とりわけ1年生の保護者の登録が多いようです。
登録の呼びかけは、当初、文書を配布した後は、月2回の「保護者だより」の紙面の一部に呼びかける内容を掲載しています。登録数は、徐々に伸びています。特に遠足などの行事の折りには、その機運が高まるのを感じます。
〈キュート連絡網〉の使い勝手に関しては、簡便に扱える感があります。利便性もよく、短時間で早く連絡ができる点に有用性を感じています。登録人数がもっと多くなると、今よりもさらに可能性が広がるのではないかと期待しています。
現在は、学校長と相談して、毎月2回程度は情報を配信しようと心がけています。今のところは、不審者情報などを全対象者に配信するケースが多いのですが、今後は、学年単位などによる配信も検討していきたいと考えています。