栃木県足利市の歴史を辿る時、まず想起されるのが『足利学校』であろう。『足利学校』の創建には、諸説あるらしいが、フランシスコ・ザビエルが世界に紹介したとされる「日本国中最も大にして最も有名な坂東の大学」の言葉のように、西暦1550年ころには、学徒は3,000人に達していたという記述が残っている。その『足利学校』は、平成2年に史跡足利学校として、1756年ころの姿に復元され、足利市を代表する史跡のひとつとして親しまれている。
足利市は、人口約16万人。栃木県の主要都市のひとつであり、同県の佐野市や群馬県桐生市・太田市などと隣接している。また、古くから織物のまちとして知られる一方で、近年は総合的な商工業都市として発展している。
今回は、その足利市内にある山前小学校で、〈キューブきっず〉と〈あんしん・あんぜん情報モラル〉を組み合わせた学習を見学することができた。
メディアリテラシーの育成研究
足利市立山前小学校
同校を会場として「メディアリテラシーの育成研究」の授業公開、全体会、講演会が開催された。
足利市立山前小学校の奥澤浩和先生は、2年前から市内のメディアリテラシー研究員研究の活動を行ってきた。これは、足利市立教育研究所が主管するメディアリテラシーの育成研究で、奥澤先生がリード役となり、山前小学校の各先生が授業研究および授業実践を重ねてきたものである。
今回の研究主題は、『多様なメディアから発信される情報を的確にとらえ、正しく判断し活用できるメディアリテラシーの育成のための研究』と記されている。そして、具体的には、メディアリテラシーの育成についての理論構築と授業実践を行うと同時に、情報モラルの育成を図る指導も行われてきた。
まず平成17年度の取り組みでは、国語科におけるメディアリテラシーの育成指導計画が作成されたのをはじめ、情報モラルに関する指導計画作成のための情報収集やICT機器を活用した指導法の研究が行われた。
また、保護者や地域との連携を模索する中、「情報教育だより」を発行するなどの働きかけがはじまっている。この他、年間4回の先生方の研修や公開授業(2回)も開催された。
そして平成18年度は、国語科の指導計画の見直しをはじめ、社会科・理科、情報モラルの指導計画が作成された。また、研修機会も増え、公開授業も今回を含めて3回実施されている。
奥澤先生によれば、「メディアリテラシー研究員としての研究に、学校全体の協力を得ることができ、また、授業研究や公開授業など、校内の多くの先生に参加していただいたことに感謝しています。」と、研究の手応えを感じている様子であった。
情報モラルの学習(電子メールの利用)/5年生
突然の怪しいメールを受け取った子どもたちは…
〈あんしん・あんぜん情報モラル〉の「チェーンメールを受け取ったら」のムービーを閲覧。
2月に行われた公開授業には、足利市内の多くの小・中学校の先生方が見学に訪れた。そして、5年生の「総合的な学習の時間」では、『電子メールの利用
~メールを便利に、安全に使おう~』の学習が行われた。
この学習は、同校で実際に発生した携帯メールによる子どもたちどうしのトラブルを踏まえ、子どもたちの生活実態に合わせて行われた授業でもある。
まず、子どもたちは、〈キューブきっず〉のメール機能により教室内でメールのやりとりを行う。〈キューブきっず〉では、メールを安全な教室内に限定してやりとりできるため、メールの体験学習にも最適である。
授業では、永島厚洋先生の先生機から『幸せのメール』というチェーンメールが送信される。その内容は、「これを受け取った人は、5人にメールを送信してください。そうすれば、みんなが幸せになります。」というものである。受け取った子どもたちは、小さな驚きの反応を示す。声をあげて怪しむ者や密やかに周囲を見渡す者など、さまざまである。
ここで、間合いを取って永島先生が子どもたちに問いかけると、子どもたちから『幸せのメール』が届いた、と訴えが出る。そこで永島先生は、子どもたちの手を止めさせてどのように対処しようとしたか、子どもたちの心の動きを追いかける目的で、その場で聞き取りを行った。子どもたちの反応は、素直である。「絶対に誰にも送らない」が圧倒的だったものの、中には、「誰かに送ろうと思った」と回答した子どもが数名いた。
永島先生は、ここで回答の理由を尋ねていく。「みんなを幸せにしてあげたいと思った」や「おもしろそうだから」という理由でメールに興味を示した子どもがいることがわかった。
続いて〈あんしん・あんぜん情報モラル〉から『チェーンメールを受け取ったら』の導入ストーリーのムービーを流した。子どもたちは、真剣な眼差しでムービーを見つめる。ムービーが終わる頃には、その危険性を感じたように引き締まった表情で先生の方を見つめていたのが印象的であった。
最後に子どもたちは、ワークシートに感じたことを記述していき、本時の学習を振り返るとともに、実際の場面を想定し、意識を持って行動できるように考えていた。メールを体験し、その中でチェーンメールの怖さを実感した子どもたち。資料映像でその問題点をはっきりと認識したに違いない。
情報モラルの学習(掲示板の利用)/6年生
まずは、〈キューブきっず〉を使って「掲示板」の体験。
突如、見知らぬ名前で怪しい書き込みが…実は、奥澤先生自身が子どもたちの反応を見るために、書き込んだもの。
〈あんしん・あんぜん情報モラル〉にはワークシートが付属する。学んだ内容の定着を図る。
〈あんしん・あんぜん情報モラル〉の「知らない人との出会いは危険がいっぱい」のムービーを閲覧。
メディアリテラシー研究員である奥澤先生が担任を受け持っている6年1組の授業「掲示板の利用」を、別の日に見学させていただいた。
この日は、〈キューブきっず〉の掲示板機能が活用された。まず、掲示板上でテーマを立ち上げて、それに返信するという疑似体験学習である。テーマは、みんなで練習している器楽演奏についてである。最初に先生が、「合奏の練習、すすんでる?」というテーマを立ち上げた。続いてそこに、子どもたちが、思い思いの返信を一斉に行っていく。
さらに、新規に「リコーダーの人は、どう?」というテーマが子どもたちの中から立ち上がり、それに返信が付けられていく。同様に、先生からの「他のテーマをつくってもいいよ」という合図で様々なテーマが立ち上がる。発信者も返信者も子どもたち自身である。
ある程度活発な書き込みが進んだ後に、先生は教室前方のスクリーンに「掲示板のいいところ」と書かれた画像を映し出した。そこには、「多くの人が見ることができる」「情報を共有できる」「時間にとらわれない」「交流が広がる」などのメリットが並ぶ。さらに、掲示板が有効に働いるWebサイトを紹介して、子どもたちにそのメリットを解説した。
そして今度は、新しいテーマで掲示板に書き込みをしてみよう、と働きかけ、「次の三連休に友達と遊ぼう」というテーマを子どもたちに投げかけた。しばらくすると、活発に書き込みが続く中に、見知らぬ名前で突如怪しいスレッドが立ち上がる。子どもたちは敏感だ。不審者に対して一様に拒否反応を示しながらも、“興味”を強く抱いているのがわかる。
そこで、奥澤先生は、一旦、子どもたちの手を止めさせ、スクリーンに注目させる。そこには、「掲示板のマナー」が列記されている。その中で、特に「情報が正しいかどうか」を確かめる方法について意見交換を行った。子どもたちからは、「実際に話してみる」「鵜呑みにしない」「他の手段で確かめる」などの対処方法が発表された。
続いて、〈あんしん・あんぜん情報モラル〉から、今回と同じ題材でのトラブル事例を扱った『知らない人との出会いは危険がいっぱい』というムービーを閲覧し、ワークシートに問題点を記述する活動が行われた。最後に、「もし、友達が巻き込まれたらどうする?」という問いかけには、「止めさせる、気付かせる」「親に話すようにすすめる」などの意見が出された。子どもたちは、掲示板の利便性と危険性の両面について疑似体験を交えて学習したことで、より学習が深まったようであった。
実体験に近い仮想体験教材
奥澤浩和先生
奥澤先生が考えるメディアリテラシー育成のポイントは、まず「位置付けをしっかりさせることが大事。そして、国語などの教科に対応させること。」であるという。山前小学校のメディアリテラシーの育成指導計画では、国語科をはじめ社会科、理科の全題材からメディアリテラシーに関連する内容とその方法についての一覧が作成されている。また、情報モラルの指導計画についても、3年生以上の学年でWebや掲示板、メールなどのテーマで掘り下げた学習が組まれている。
こうした中、〈あんしん・あんぜん情報モラル〉は、「今の子どもたちに必要な教材のカタチだと思います。実体験に近い仮想体験ができるのが効果的であり、ひとつのテーマがコンパクトにまとまっているため授業の中で使いやすい。必要に応じて見せる範囲を絞ることができ、臨機応変に活用できます。内容的にも、子どもたちに十分な問題意識を持たせることができる教材であると思います。」と多くの活用機会があることを示唆してくれた。
〈キューブきっず〉のメールや掲示板による疑似体験(仮想体験)と〈あんしん・あんぜん情報モラル〉によるテーマ別の学習によって、山前小学校の子どもたちは、新しい時代の情報ツールの知識・適切な活用を身に付けていくことになるであろう。学校現場では、その緊急性が求められると同時に、子どもたちの生活に直接関連する題材をいち早く取り上げ、低学年のうちから学ばせることが求められている。