東御市立和小学校
総合的な学習の時間をIT活用のきっかけにしている学校は多い。実際に、調べ学習やまとめ、発表など、IT機器を使用する場面が頻繁に登場する。また、学年が進んだ時にそれまでの習得技術があれば、スムーズに学習に入っていくことができる点などを考えれば、学校におけるメインアプリケーションを用意しておくことも大切である。
今回訪問した東御市立和小学校(とうみしりつかのうしょうがっこう)は、情報教育主任を務める金澤清一先生が着任した平成14年から徐々にIT機器の整備をはじめ、現在では、各学年の幅広い学習場面でコンピュータを活用した授業が展開されている。その中で、特に高学年のメインアプリケーションとして、小学校向け教育用統合ソフト〈キューブきっず〉が活用されていた。
信州の豊かな自然に抱かれた和小学校
長野県宝にも指定されている
旧和小学校校舎
江戸時代の五街道のひとつ中山道。東京の日本橋から本州の内陸部を経由して京都の三条大橋にいたるこの街道は、軽井沢から追分宿を経て岩村田宿へとつながっていた。現在の国道18号線から、国道142号線へと続くルートである。一方、追分宿から小諸を経由して北陸道へとつながる国道18号線は、当時、北国街道と呼ばれていた。その北国街道の宿場として寛永2年(1625年)に築かれた海野宿(うんのじゅく)は、今なお江戸時代の面影を残す旅籠造りの街並みが保存されている。1986年には「日本の道百選」に選ばれたのをはじめ、1987年には当時の文部省(現文部科学省)より「重要伝統的建造物群保存地区」として選定されるなど貴重な歴史的資産となっている。
この海野宿の他、特産品であるクルミの産地として知られているのが、和小学校がある東御市である。東御市は、平成16年4月に小県郡東部町と北佐久郡御牧村が合併して誕生した新市である。長野県東部に位置し、北には浅間連山、南には蓼科・八ヶ岳連峰が広がる豊かな自然に囲まれた環境にある。市内を流れる千曲川の清流も穏やかで澄んでいる。
和小学校のルーツは古く、長野県宝にも指定されている旧和小学校(現和小学校隣地)が建てられたのが明治12年のこと。教育熱心な土地柄をうかがうことができる。
第22回学習ソフトウェアコンクール/文部科学大臣奨励賞受賞
財団法人学習ソフトウェア情報研究センターが主催する「平成18年度第22回学習ソフトウェアコンクール」において、和小学校の作品が、最高賞にあたる文部科学大臣奨励賞(団体)を受賞した。この作品は、『自分たちで作ったお米を商品化してお客さんに売り出そう』というタイトルで、昨年1年間の5年梅組の子どもたちによる総合的な学習の時間の活動である。
5年生で米作りを体験する学習は珍しいことではない。しかし、和小学校では、自分たちがつくったお米に名前を付け、パッケージをデザインして、学区内のスーパーマーケットで販売まで行ったのである。また、田植えや稲刈りなどの体験学習の他に、お米の種類や農法、稲作の歴史などについて調べ学習を行った点も特徴的である。
授業を指導した金澤先生は、「子どもたちが実際にスーパーマーケットでお米の販売を行ったことで、売ることの大変さと喜びを学ぶことができました。それ以降、給食を残さず食べるようになったりと、学習が普段の生活に活きてきたように感じています。」と振り返る。
収穫されたお米には、「元気のもと和米」と銘柄が付けられた。そして、パッケージのデザインは、コンクール形式で子どもたちから応募を募った。販売当日は、地元のテレビ局も取材に訪れるなど話題を集める中、好評のうちに完売した。
4月から1年間を費やして行われた学習は、3月の参観日に発表会を行った。地元の農家の協力を得ることができ、広い田んぼで本格的な稲作ができたことで、子どもたちが意欲的に学習へ取り組むことができたという。
そして、この学習をWebコンテンツとしてまとめられたものが、今回の賞を受賞したのである。コンテンツの中身は、体験学習と調べ学習について、その成果を〈キューブページ〉でまとめたもので、ひとりの子どもが両方のコンテンツ作成に携わっている。内容も十分に掘り下げられ、1年間の学習の充実ぶりをうかがうことができる。
計画的なIT機器活用でスムーズに浸透
金澤清一先生
和小学校では、この5年ほどの間に徐々にIT機器の充実を図ってきた。4年前には、職員室にパソコンが全く無かった環境が、現在では、校内LANが整備され、職員室はもちろん、コンピュータ室、校長室、保健室、各教室、さらには体育館にまでコンピュータを使用できる環境になっている。
校内LANが整備されたことでIT機器の活用機会も広がり、5台あるマルチメディアプロジェクタも今では毎日活用され、空いている時間も少ないほど。
また、無線LANのアクセスポイントが体育館に1台と、フリー(移動式)のアクセスポイントが2台用意されている。これにより、校内どこでもパソコンを利用した学習も可能となっている。フリーのアクセスポイントを1台と、グループに1台ずつのノートパソコンを教室に持ち込み、インターネットを利用したグループでの調べ学習などに活用している。
金澤先生によれば、「まずは『総合』の授業で使ってみようと先生方に働きかけました。その他の教科でも調べ学習などの場面に積極的な活用機会をつくるようにしました。そして、その記録・まとめを〈キューブ〉で行うことにしました。次に、各教科での活用へと広がるように、Webコンテンツの充実を図りました。特に算数などで活用を図ったことで、子どもたちにとっては普段の授業とは違う驚きがあり、大きな効果があったと感じています。」と、IT機器を活用した授業が学校全体にスムーズに浸透するよう、背景づくりを丁寧に行ってきたようである。
また、校内における「情報教育」の指針・ガイドライン・規約もあり、先生や子どもたちへのルールづくりも怠りなく実施するなど、長期的な視野に立ち、綿密な計画の元にIT機器の活用が進展したことがわかる。
6年社会科のまとめ学習でキューブを活用
取材に訪れた日は、ちょうど6年生の社会科の授業が行われていた。
「社会見学で学習したことをまとめよう」という全6時間の単元の第2・3時にあたるこの日、子どもたちは、小学校向け教育用統合ソフト『キューブきっず』に内包されるホームページ作成ソフト〈キューブページ〉上で写真と文章によって学習のまとめ作業を行った。
子どもたちが社会見学で訪れたのは、長野市内にある「松代像山地下壕」。ここは、第二次世界大戦末期に本土決戦最後の拠点として、大本営、政府各省などを松代に移す極秘計画のために構築された地下壕で、平成の時代になってから一般公開されるようになっている。
ここを訪れた子どもたちは、写真を撮り感想をメモするなどした他、Web資料やパンフレットなどで情報を集めてきた。この日の学習は、すでに前回の授業で描いたレイアウトスケッチを参考にしながら、タイトルをつくり、写真を配置し、文章を書き込んでいくのである。
共有フォルダに保存された写真データを各自の〈キューブページ〉上にコピーしたり、文字装飾を行ったり、素材集から吹き出しやイラストをピックアップしながら、子どもたちはキューブを巧みに操作して仕上げていった。
最後に、みんなの作品を閲覧して感想を発表し合って授業は終了した。2時間という短い時間であったが、子どもたちの作品はおおむね完成に近づいたようで、キューブの操作の習得度の高さを感じた。
望まれて活用され続けるツールとして
地域の特産品である
巨峰の栽培にも取り組んでいる
巨峰の栽培の取組みも
和小学校のWebサイトに
掲載されている
鑑賞菊の栽培の様子
「キューブなら、『総合的な学習の時間』でも各教科でも自由に活用できる点がいいんです。ひとつのアプリケーションをいろいな場面で活用することで、習熟度も高まります。そして、何より、子どもたち自身が自然に様々な機能を発見して使うなど、教える側としても気軽に扱わせることができるソフトウェアであると思います。」とキューブの優しい操作性を評価する。
また、金澤先生自身もキューブの活用には熱心で、2001年には、前任の学校で『キューブ活用コンテスト』(キューブ活用研究会主催)に応募して、「みんな子どもだった」という3年生の子どもたちの学習成果作品で準グランプリを獲得している。
和小学校では、昨年、「米づくり」を体験した子どもたちが、今年、6年生になってブドウ(巨峰)づくりを行っている。これも、地元の農場の方の協力を得て実施しているもので、子どもたちは積極的に取り組み、立派な巨峰を収穫するに至った。
この他、4・5・6年では、「菊づくり」の学習も行うようになった。日々の世話を通して、地元の産業である農業について学んでいる。
IT機器は、子どもたちの興味・関心を引きつける授業の展開という点で大きな可能性を持っている。また、発展的な学習に際して、その成果を表現するツールとしても大きな役割を担っている。「米づくり」の学習をまとめる時、子どもたちが積極的に取り組むことができた背景には、きっとキューブの存在があったからであろう。
キューブが、学習に単なるアクセントを添えるだけのソフトウェアではなく、望まれて活用されるツールであり続けることを願いたい。