情報教育は、子どもたちをどのような方向に導くかを明確にすることで、学校全体としての力強い推進力となる。情報機器の操作ばかりが前面に出る時代は、過去のものとなりつつあるが、保護者の理解を含めて、先生方全員が、確かな目標をもって授業実践に取り組むことが大切であると思われる。
今回訪問した元吉原小学校では、プレゼンテーション能力の育成をはじめとして、子どもたちの表現力を伸ばすことを主眼として情報教育が行われていた。
文部科学省研究開発学校(平成12・13・14年度)
開校は明治7年と、長い歴史と伝統を持つ富士市立元吉原小学校。
校舎からは美しい富士山と駿河湾を間近に望むことができる。
静岡県富士市は、「製紙の街」として知られ、数多くの製紙工場が建ち並ぶ。
その一方で北には富士山の雄大な姿を常に見ることができ、南は、太平洋につながる駿河湾が広がり、自然との調和が気持ちいい街である。
元吉原小学校は、その海岸付近にあり、松林の向こう側に海を望むことができる。
元吉原小学校は、平成12・13・14年度の3年間にわたり文部科学省研究開発学校として、「小中学校の接続のありかた」という研究テーマで、教科としての「情報科」と「英会話科」を新設科目として教育課程に組み込んだ実践教育を行った。
それから数年が経過し、現在では、教科としての「情報科」と「英会話科」は教育課程から消えているものの、そこで培った財産を受け継ぎ、「総合的な学習の時間」や各教科学習の中で推進する中で、同校の特色ある教育としても根付いている。
昨年度開催された『第2回全国プレゼンテーションコンテスト』においては、同校の児童がグランプリを受賞するなど、輝かしい成果も収めている。
同校の鈴木紀久子校長先生は、「子どもたちには、コンピュータの操作そのものだけではなく、表現力をしっかりと身につけてほしいと願っています。」と情報教育を通じた子ども達の成長に期待している。
TT(Team Teaching)で、より理解を深める授業を構築
情報教育に関連した授業はTTで行われている。
吉野和美先生
当時から同校の情報教育にかかわり、現在、その中心的な役割を担っている吉野和美先生に伺った。
先の文科省研究開発学校時代の「情報科」と「英会話科」に関して、保護者からは、「継続してほしい」という好意的な意見が多いという。それは、当時の研究が学校の特色として生かされていると同時に、保護者の理解が浸透していることを示している。
「研究校を経験したことで、先生方や子どもたち、そして保護者にも意識付けができたと感じています。指導する側としては、毎年、新しく着任した先生が、情報教育をうまくこなしている先生の姿を見て刺激を受け、自分も取り組んでみようと積極的になってくれます。それが、受け継がれ蓄積されて学校の財産になっていくのを感じますね。」と吉野先生は話す。
現在、担任を持たない吉野先生は、TT(Team Teaching)の授業で、時には主役になり、ある時は、担任の先生を主導としたサポート役になったりと、役割分担をしながら「阿吽の呼吸」のようなもので授業を行っているという。
「先生方、特にベテランの先生は経験的に子どもたちに『教える』ということが上手なんですね。そこに、コンピュータという新しいツールを加えてみる。操作などに慣れていない時は、私がリードするなどして授業を作り上げていきます。すると、これまでよりも、さらにいい授業に発展することになります。」と吉野先生は、同校の先生方が、同質の意識で情報教育に関わり・取り組んでいる熱心さを心強く感じているようである。
そして、「ここで情報教育を経験した先生には、将来他校に赴任した後も、情報教育の先頭に立っていてほしいですね。」と期待を込めて話す。
〈キューブプレゼン〉による表現活動
学校を訪問した日は、4年3組の「トリビアをうまく伝えよう」という授業が行われていた。これは、「あめんぼの秘密」の学習からの発展で、「びっくりすることを伝えよう」という課題の中で、子どもたちそれぞれの伝えたい内容を〈キューブプレゼン〉で作成するというものである。
授業は、いきなり〈キューブプレゼン〉を使うのではなく、ワークシートを使って「うまく伝えるにはどうしたらいいか」を学習した。
1 本当に伝えたいことを考え、発表し、グループで検討
まず、子どもたちひとりひとりが、ワークシートにまとめてある「びっくりすること」の文章の中から、本当に伝えたい大切な言葉(キーワード)をピックアップして線を引く。そして、ひとりひとりみんなの前で発表する。発表を聞いている子どもたちから、「わかった!」「わからない!」「もっといい言葉(キーワード)、ないの?」などと反応がある。そこで、今度は、数人のグループで検討会を開いて確認し合う。
子どもたちは、お互いに『どうしたら分かりやすく・正確に伝えることができるか』ということを意識し合うなかで、思考を深めていく。
2 〈キューブプレゼン〉で発表資料づくり
〈キューブプレゼン〉を使って、作品づくり。
視覚的に相手に伝えるための表現力も学ぶ。
確認ができたら、いよいよ教育用統合ソフト『キューブきっず』に内包されるプレゼンテーションソフト〈キューブプレゼン〉で発表資料をつくりはじめる。
この日、はじめて〈キューブプレゼン〉を起動した子どもたちは、いつも使っている『キューブきっず』の各ツール操作の経験からか、ほとんど戸惑うこともなく、先生の指示に続いて操作を行っていた。
プレゼンのスライドは4枚という設定で、1枚目にはタイトルを、4枚目には、感想を書き込むので、作成(説明画面)するのは、2~3枚目となる。素材となる元絵や写真などは、すでにスキャニングなどが行われ、準備が整っていた。
子どもたちは、ログイン後に、定められたフォルダから画像データを呼び出して〈キューブプレゼン〉上にドラッグ&ドロップで簡単に貼りつける。画像データのサイズを調整した後は、文字の入力。文字を写真に重ねたり、余白に入れたりして配置のバランスを調整していく。
さらに、矢印を付け加えるなど、「うまく伝えるための工夫」を学びながら作成していった。操作に関しては、全員が合格である。
プレゼンテーションのおもしろみを知る子どもたち
子どもたちの活動が、積極的で迅速なのは、コンピュータ操作指導によるものも大きいと思われるが、それ以上に感じるのは、取り組みが意欲的な点である。
吉野先生によれば、「給食の時間に、5・6年生は、校内テレビ放送を毎日交替で担当しています。カメラの役やナレーションの役など、それぞれの役割の中で伝える立場に立って表現することを学んでいきます。また、4~6年生は、交流学習システム〈キューブコミュニティ〉を活用して当番制で毎日、日記を更新しています。これらは、自分のために書いているものではなく、誰かに何かを伝えるための表現の場になっています。その『誰か』を明確にし、伝える『何か』をはっきりとさせることで、本当に伝わるかどうかが決まります。今では、『プレゼンテーションするおもしろみ』を感じるようになっているのかもしれません。そしてこれらの経験の継続で、子どもたちは、『表現する力』を、大いに養うことになったと思います。」と子どもたちの成長ぶりを受け止めている。
伝えたいことは、何か。それをしっかりと考えながらプレゼンテーションを作成する。その力を養う機会は、日常の学校生活のほんのひとコマの場面に隠れている。それを学習活動へと導くことができれば、子どもたちの『表現する力』は、自然と育っていくのかもしれない。
「子どもたちは、上手な子の姿を見て、自分も上手になっていくものです。」と吉野先生。子どもたちに教え込むのではなく、子どもたちがお互いに関心を寄せ合い、刺激し合い、伝えたいことを表現する力を身につけていくことは、大きな楽しみである。