インタビュー&コラム

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特集中学校プログラミング教育①

プログラミング教育先進自治体に聞く
中学校プログラミング教材選びのポイント

神奈川県 相模原市教育委員会 指導主事
渡邊 茂一 先生

(2020/11掲載)
※記載の情報は取材当時(2020年7月)のものです。

来年度(2021年度)、新学習指導要領が中学校で全面実施となる。技術分野で、新しい内容のプログラミングの授業が始まる。プログラミング教育への期待が高まる中、導入する教材に求めることとは何か。長年に渡り相模原市のプログラミング教育の推進に関わってこられた相模原市教育委員会指導主事・渡邊茂一先生にお話を伺った。

相模原市のこれまでの取り組み

中学校でのプログラミング教育に関して、貴市の取り組みをお聞かせください。

相模原市内の中学校では、現行(平成20年改訂)の中学校学習指導要領のときから、相模原市立中学校教育研究会(以下、相中研)の技術部会で研究を行ってきました。平成26年には相模原市の教育課程研究会でも研究課題として取り上げ、本格的にプログラミング教育に取り組み始めました。

最初は、JAXA宇宙教育センターと連携して月面探査ローバーのプログラミングに取り組みました。それを通して、子どもたちに技術的な課題を解決する力や問題解決の経験を社会に生かす力を身に付けさせるという研究を行いました。授業自体は夢のある内容で、子どもたちの興味・関心も高まりました。一方で、学習した内容を子どもたち自身の生活に置き換えるということが難しいという課題も浮き彫りになりました。その後もその課題をクリアするため、題材やカリキュラムについて研究してきました。

残念ながら中止となってしまった今年度の関東甲信越地区中学校技術・家庭科研究大会 神奈川大会※1では、本市が情報の技術のテーマで発表することとなっていました。これまでの自動改札機やタッチパネル式自動販売機のプログラミングの題材研究の経験を活かし、新学習指導要領でも言われている「統合的な問題の解決」に繋がるよう、子どもたちそれぞれが問題を見いだして課題を設定し、自動化で解決するモデルをつくるという授業を発表する予定でした。

平成29年には、中学校新学習指導要領に新たに記載された「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミング」による問題解決の内容を扱う研修を教育センターで始めました。昨年度までの3年間を通して、参加率はとても高かったです。研修を受けた先生方から指導に必要なソフトウェアのインストール依頼があるなど、現場でも自主的に取り組んでくださっている雰囲気があると思います。

実際、平成30年度には市内中学校で「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミング」の授業に取り組んでいました。その成果を昨年度(令和元年度)末に小学校のプログラミング教育の事例と合わせた『相模原プログラミングプラン』としてまとめ、市内に周知しました。

相模原プログラミングプラン www.sagamihara-kng.ed.jp/jouhou-han/programming/

※1
新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となった

教材に期待すること

先ほどもお話の中に出てきましたが、中学校・技術分野ではプログラミングの指導内容として「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミング」「計測・制御のプログラミング」が設けられました。教材選びの際に期待されるのはどのような点でしょうか。

中学校・技術分野の指導で大事なポイントは2点あります。1つ目は、技術の仕組みを理解させること。2つ目は、技術を使って問題解決をする力を身に付けさせることです。この2点が確実に抑えられている教材を選ぶと良いと思います。

2つのプログラミングの指導内容で言えば、「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミング」では、ネットワークや通信の仕組みがしっかりと理解できる教材が必要だと思います。「計測・制御のプログラミング」では、現状から問題を見つけ、技術的な課題を設定し、今まで学習した技術をどう統合させて工夫するかを子どもたち自身が考えられる教材が必要だと思います。

教材自体の内容が充実していても、実際に現場での活用に繋がるかと言えば、そうとも言えないような気がします。現場での使いやすさを考えたとき、教材に求められることはありますか。

そうですね。その教材を通して何を学ばせるかが明確であり、授業計画のイメージが付きやすいことが大切だと思います。先生自身が工夫して使う必要がある教材だと、活用のハードルが上がってしまいます。回り込んで丁寧に授業をサポートしてくれるような教材を選ぶと良いと思います。

全国では、技術分野の免許を持たない先生が技術分野の指導をされている例も少なくないようですが、そういった先生方の使いやすさという視点も必要になってきますでしょうか。

はい。世の中で技術教育に求められる役割がとても大きくなっている中、免許を持たない先生に指導をお願いしている状況があることを考えると、どんな先生でも一定のクオリティで指導できる工夫がされている教材は、非常に意味があります。もちろん、実習の際の技術的な指導など、専門の先生でないと難しい点もありますが、教材選びの面でカバーできることも多いのではないでしょうか。

GIGAスクールの影響

GIGAスクール構想によって、中学校でのプログラミング教育は変わってくるでしょうか。

それは絶対にあると思います。小学校段階から情報機器に触れ、リテラシーが身についていれば、その分中学校では技術の本質に迫るような内容を扱ったり、問題解決的な授業を展開したりできるのではないかと思います。

教育委員会の役割とは?

来年度の中学校での新しいプログラミング教育の本格実施に向け、全国の指導主事は準備に奔走されていると思います。渡邊先生のご経験から、アドバイスをいただけないでしょうか。

最初は教育委員会が収集した情報を発信することから始め、最終的には小学校・中学校の先生方が交流する場面を作っていくのが良いのではないかと思います。

まずは教科書を読んでいただき、今行われようとしている技術の授業を知ってください。そして、関連情報にアンテナを高くしておき、得た情報を自治体内の先生方に発信してみてください。

次に、小学校と中学校の先生方が、お互いの情報を交換できる場や研修の場を作っていただくことをお勧めします。中学校ではこれまでもプログラミングの指導が行われています。初めてプログラミングを学ぶ子どもたちへの指導については中学校の先生の方がノウハウをお持ちだと思います。一方、小学校でのプログラミング教育で行っていることは小学校の先生でないと分かりません。情報交換ができれば、お互いの指導の状況を見通した上で学習を組み立てられるようになると思います。

また、教育委員会が小学校と中学校の先生方の橋渡し役になるのも良いと思います。小学校の授業を見に行った時の様子を、中学校の研究会で視聴してもらったり、小学校で実際に行われた授業を教育委員会が講師となって体験してもらったりすることも考えられます。授業で使われたワークシートを見せるだけでも違います。

プログラミング教育を受けた子どもたちが大人になったときに

中学校でプログラミング教育を受けた子どもたちが大人になったときの社会はどのようになっていくと思われますか。

自分の学校での指導を振り返ったとき、よくわからないものは禁止するというような教育をしていたため、大人になっていきなり情報技術に触れたという人が多くなってしまったのではないかな、と最近ふと思うことがあります。そのため、情報技術の仕組みやその特性がよくわからないまま使用してしまう人が増え、SNS等での誹謗中傷などが生まれ、社会が殺伐としてしまうことに繋がっているのではないか、と反省しています。

けれども、学校の教育で情報技術の仕組みや発信時の注意点などをしっかりと学び、理解を深め、態度として定着させることができれば、技術が社会に対して与える影響から「どういった発信・受信を行うのが良いか」「どんなものを開発している人を応援しようか」「どんな解決策があるか」等、自分のとる行動について考えられるようになると思います。そうしたことの積み重ねで、個人個人が常に問題を解決していかれるような社会に変わっていくといいなと思います。

相模原市教育委員会 渡邊 茂一 先生に<カンタン!情報技術 ver.2>の2つのプログラミング教材をご覧いただきました!

製品をご覧になった感想をお聞かせください。

授業の流れに沿ったつくりになっており、発問の仕方や指導の留意点、考えさせるポイントまで丁寧に設定されています。指導内容に合わせたスライドや、子どもたちの問題解決に個々に応じることができるコンテンツも用意されています。

技術分野での問題解決を通してどのようなことを教えていけば良いかというところまできちんとフォローされている教材だと感じました。

また、同梱されている教材<ロボチャート>と併用することで、小学校での体験を中学校での学習に繋げることも可能だと思いました。小学校でのプログラミングをどれだけ体験したかは子どもによって様々です。足並みを揃えるために使うことも考えられます。

双方向性のあるコンテンツのプログラミング教材について、どんな印象をお持ちになりましたか。

自分の端末とサーバ機とのネットワークによる通信等、ブラックボックスになりがちな部分をアニメーションで視覚化しているのが良いと思いました。生徒は、通信のイメージが付いた状態でプログラミングの実習に取り組むことができます。

また、学習した内容を生徒の生活に結び付けることが重要ですが、それが可能なように、授業ガイドにコラムが入っているのも良いです。

さらに、問題を解決するためにどのようなメディアを利用するかといったことをしっかりと学習できる点も評価できます。

計測と制御のプログラミング教材についてはいかがでしょうか。

教材として多いのは、題材となるシステムが決まっていて、その中のプログラムをどのように組むか考えるものです。一方、この教材では、どのシステムをどのように設置するかというところから決められるのが面白いと思います。問題解決能力の育成に沿った教材になっていると思います。

カンタン!情報技術 ver.2

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