令和2年度からの小学校学習指導要領全面実施により、プログラミング教育は必修となる。大阪市は、全面実施初年度までの計画をいち早く整えた自治体の一つである。平成29年度に大阪市教育振興基本計画を改訂。変化の激しい時代を生き抜く子どもたちに必要な力として、複雑な情報を論理的に読み解く力や、「プログラミング的思考」の育成をめざすこととした。その事業の一環として同年度から開始されたのが、「大阪市プログラミング教育推進事業」だ。小学校289校、中学校129校を擁する大規模自治体である大阪市では、どのようにプログラミング教育の推進に取り組んでいるのか。担当の藪岡茂樹指導主事に聞いた。
これまでの事業の概要
指導主事・大学研究者・協力教員からなる大阪市プログラミング教育推進ワーキンググループと、市内で募集した協力校、一般公募の中から選ばれた協力事業者が共同で、プログラミング教育推進のための教員研修や授業づくり等を行ってきた。
事業目的
次期学習指導要領における「小学校段階からのプログラミング教育」の導入検討を踏まえ、本市のプログラミング教育の推進に向けて、協力校・協力教員を募集し、教育課程への適切な位置づけ等に関する研究や、体験機会の充実に取り組み、その成果の普及を図る。
組織図
事業内容
1 授業づくり
教育センターが協力校の今後のプログラミング教育の展望を聞き取り、各校の実状に合わせて実施。必要があれば、各校の希望に合った支援ができる協力事業者とマッチングを行い、共同で授業づくりを行った。
2 公開授業
授業づくりの成果として、公開授業を行った。2年間で25回の公開授業を実施した。公開授業には市内外から多くの見学者が訪れた。公開授業後には、授業で使われた教材に実際に触れる機会も設けた。
教育用ポータルサイト「Waku×2.com-bee」
3 教員研修
1~2年目は公開授業のあとに協力校の先生が講師を担当し、授業で使った教材の体験を行ったり、協力事業者のインストラクターが実演研修を行ったりする形で、42回の教員研修を行った。
4 教育用ポータルサイトの活用
平成29年度4月から教育用ポータルサイト「Waku×2.com-bee」を活用し、授業実践を発信・共有した。協力校の指導案はもちろん、授業で使った自作のプログラムを共有することもできる。
インタビュー
教育振興担当 指導研究グループ 指導主事
藪岡 茂樹 先生
―今回の事業を通して、何か変化はありましたか。
本市には、289校の小学校があります。もちろん、1校1校、状況が違います。そのような中で、画一的な方法ではうまくいかず、事業を通して、各校の状況に応じたカリキュラム・マネジメントの計画が可能になるよう、支援していく必要がありました。
そこで、大阪市プログラミング教育推進事業では、授業づくりや研修等を行う協力校を設定し、平成29年度からの2年間に55校で実践を行いました。協力校には、それぞれの現状に合わせ、どの学年・教科でプログラミングの授業を行うかというところから考えていただくとともに実践事例を提供していただきました。中には、6年間を見通しての指導計画を考えた学校もありましたし、1年目の結果から指導に最適な学年・教科を見直し、2年目も協力校として研究を続けた学校もありました。その結果、様々な形のプログラミング教育の可能性を探ることができました。
また、教員の意識も高くなってきたように感じています。研修も公開授業も、参加者の人数は徐々に増えてきています。最初は興味のある先生方が参加しているという状況でしたが、次第に「全面実施に向けて勉強したい」という先生方の参加が多くなってきました。授業の中で子どもたちが夢中になってプログラミングに取り組む姿を見たり、授業で使われた教材を体験してみたりすることを通して、先生方自身がプログラミングの楽しさを感じることができる機会になったと考えています。これも2年間の事業の成果と言えます。
さらに、環境面では、2年間をかけてプログラミング教育用ソフトウェアや機材が実際の環境で問題なく動くかどうか、動かない場合はどう対処すればよいかまで、協力事業者との間で調整することができました。今年1~3月にかけて行った市内全小中学校のタブレット端末更新に伴い、4月からは本事業でこれまでに蓄積してきたプログラミング用教材をタブレット端末で使えるように、ソフトウェアのインストール等の設定を行い、プログラミング教育の実施に向けて環境を整えることができました。
―プログラミング教育の必修化が明記された小学校新学習指導要領の全面実施まで1年をきりました。今年度は3カ年計画の最終年度を迎えますが、今後はどのような取り組みをされる予定でしょうか。
今後は、2年間の協力校での取り組みを基に、市内全校にプログラミング教育を広めていきたいと考えています。その方法の一つとして、ニーズに合わせた研修を行います。 まず、本年度から各校で位置づけた「プログラミング教育担当教員」を対象とした悉皆研修を実施し、その内容を伝達するための校内研修を行う仕組みをつくっていけたらと思います。また、7~8月には、希望者を対象とした実技研修を行います。 現在はまだ土台作りの段階ですが、ここから各校での工夫につなげていけるよう、今年度も活動を行ってまいります。
「学校教育ICT活用事業イメージ図」図1.1
平成24年度から開始した大阪市学校教育ICT活用事業の報告をもとに、ICT環境の全市展開を行っている。また、各校でのICT活用の推進を図っている
ひとくちコラム
段階的に学校のICT環境を整備
大阪市では、モデル校での実証研究等をもとに、段階的に学校のICT環境を整備してきた。校内LANは平成21年に整備。平成24年12月~平成25年3月と平成26年1月~2月の2回に分けてモデル校UTP化、平成29年~令和元年には全小中学校UTP化を実現した。平成28年には全小中学校に各校40台のタブレット端末、無線LANのアクセスポイント、全普通教室への大型提示装置等のICT機器を整備。さらに、平成30年度にタブレット端末の機器更新を行った。各区に1校以上のICT活用拠点校を設置し、活用実践事例の展開をすることで授業の質の向上、学びの質の向上を進めている。
大阪市プログラミング教育推進事業 協力校の授業をご紹介!
平成30年度協力校のうち3校の授業をご紹介します
教育センター 藪岡指導主事のコメント
協力校の先生方には、学年や教科等を特に指定せず、プログラミング的思考を養うための教材がどの単元に合っているかというところから探していただきました。その結果、様々なアイデアが生まれ、子どもたちの発達段階に合わせた指導が可能になったと思います。また、授業を公開していただけたことも、全市に活動を広めるきっかけになったと思います。
大阪市立高見小学校