インタビュー&コラム

Column

情報化時代の教師に求められる力量とは 後編

鹿児島大学大学院 教育学研究科 学校教育実践高度化専攻 准教授
山本 朋弘

(2018/12掲載)

教室のICT機器が変わっても本来の目的は同じ

 大型提示装置やデジタル教科書等のICT機器が普通教室に常設され、教師や児童生徒が日常的にICTを活用する授業が展開されるようになった。最近では、タブレット端末が積極的に導入され、児童生徒が思考・表現のツール(道具)として活用する授業も見られる。かつて、授業実践の中でもOHPなどの教育機器が頻繁に利用されていた。最近では、機器利用の中心は、電子黒板やタブレット端末等のICT機器に変わってきている。しかし、「拡大して提示し、児童生徒の理解を深める」という本来の目的は同じであり、何をどのように提示するかが極めて重要である。教育機器の効果的活用は、機器の操作能力ではなく、教員の指導力(指導技術)に深く依存している。教材開発や授業研究に集中し、必要に応じて、操作が簡単な教育機器を活用することが、教育の情報化の第一歩だと思われる。

学力向上につながるICT活用三つの特徴

 筆者が関わった先行事例で、学力向上につながったICT活用の成功事例を分析すると、大きく三つの特徴が見られる。一つ目は、教育長や校長がリーダーとなって後方支援を進め、トップダウンではなく、学校や地域全体において、ボトムアップで授業改善を推進している点である。二つ目は、「ICT活用そのものが目的ではなく」、最終ゴールとして「児童生徒の学力向上」を常に意識している点である。そのために、ICTを日常的に活用して、常に活用の在り方を見直している。三つ目は、ICT活用を、授業でICTを活用していない場面、つまり、板書や発問、ノート指導等といった「従来からの指導」を見つめなおす契機としている点である。

教師のICT活用指導力向上のために指導技術の伝達を

 現在、環境整備において自治体や学校の間での格差が見られるが、教師のICT活用指導力の向上も重要な課題としてあげられる。これからの教員研修では、教員の指導技術の「伝達」が重要課題となっている。団塊世代の定年退職によって指導力を補完する必要があり、若い世代の教員に熟練した指導技術を伝達していくことが考えられる。教育の「不易と流行」に例えて、教育の情報化が「流行」にあたる内容と言われることがある。しかし、教育の情報化においても、「不易」な部分がある。新しい機器に変わっても、活用の目的やねらいは変わらず、児童生徒の学力向上のために活用するはずである。優れた授業では、授業者の深い教材研究によって、ICT活用のねらいが明確になっていて、活用が必要な学習場面を授業者が見極めている。ベテランから優れた指導技術を受け継ぎ、教育機器を授業の中で効果的に活用できる指導力を高める教員研修の在り方を模索していきたい。

山本 朋弘 先生

鹿児島大学大学院 教育学研究科 学校教育実践高度化専攻 准教授

【プロフィール】

文部科学省「教育の情報化に関する手引」作成検討会委員など歴任。日本教育工学会、日本教育メディア学会、日本科学教育学会、日本教育心理学会等に所属。小学校教員、熊本県教育庁教育政策課主幹を経て現職。研究分野は、タブレット端末の持ち帰りに関する研究・授業でのICT活用やプログラミング教育・研修や学校経営など、多岐にわたる。

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