相模原市のこだわりポイント
- 単元ごとの観点別評価で生徒の学習状況を丁寧に見取る
- ABC組み合わせ方式(各評価対象をABCで判定し、その組み合わせから評価をつける方式)で評価する
相模原市は市立中学校37校へ校務支援システムを導入し、成績処理の正確性や信頼性の向上、教員の負担感・多忙感の軽減を実現した。相模原市教育センター ※ の篠原担当課長、岡部指導主事、渡邊指導主事にお話を伺った。
※ 旧 相模原市立総合学習センター
子どもたちの学習状況を適切に見取る成績処理をしたい
担当課長 篠原 真 先生
―校務支援システム導入の目的はどのようなものでしたか?
篠原 中学校の成績は、高校入選に直接反映し、子どもたちの進路に影響を与えるものです。学校からは、間違いのない処理ができることに加え、授業の目標に沿って子どもたちの学習状況を適切に見取ることができる成績処理が求められていました。そのためには、学校全体として組織的・計画的に成績処理の方法や基準を整えることが必要になります。そこで本市では、システム導入に当たり、学習評価の本来の在り方から検討を行い、先生方への研修を行ってきました。校務支援システムを導入して成績をつけていくことは「どのように評価されたか」というエビデンスを残し、学習評価の妥当性、信頼性を高めることにもつながります。
綿密な情報収集で、学校現場の先生が使いやすいものを選ぶ
―校務支援システムを選ぶ際のポイントは?
篠原 校務支援システムが学校でしっかりと機能していくために、ユーザーである先生方の立場になり、実際に使いやすいかどうかを重視して選ぶように努めました。
具体的な方法としては、中学校の管理職や中学校教育研究会の代表者及び行政職員などで構成された検討会を立ち上げ、成績処理の必要要件について協議を行いました。検討委員を選ぶ際、パソコンがあまり得意でない先生がおよそ半分を占めるよう調整しました。学校に機器操作やシステムに対し不安を感じる先生が多くいることを踏まえ、そうした先生方の声がシステムを選ぶのに役立つと考えたからです。
また、校務支援システムの操作研修会を複数回実施して全校から意見を集め、実際に使われる先生方の視点を取り入れました。
同時にメーカー数社に声をかけ、どのような機能があるのかヒアリングを行いました。その際、営業の担当者だけでなく開発の担当者にも同席してもらい、技術的なことを細部まで確認しました。現場が必要とする機能と、校務支援システムに実装されている機能について、綿密に情報収集しました。実際に選定する段階では、価格による一般競争入札方式ではなく機能面を重視し、提案書及びプレゼンテーションによる総合評価方式を採用しました。
学校現場の実情に寄り添った説明で、円滑な運用を実現
指導主事 岡部 竜生 先生
―システムを実際に運用されるにあたり、留意されたことは何ですか?
岡部 学校現場では、先生によって使ってきたソフトや評価資料等が違い、機械操作の得意・不得意の差もあります。全員同じソフトを使って成績処理をすることに抵抗がある先生も多くいました。そのような先生方の不安を払拭するために、一校一校に出向き、全教員に対して評価方法の周知と操作の説明を実施しました。
また、各学校において校内研修を行う人材も必要だったため「校務支援システム担当者」を育成するための研修を行うなど、必要に応じて様々な研修を実施しました。かなりの時間を要しましたが、先生方の苦労を少しずつ軽減していくことで、学校との信頼関係を築くことができました。
篠原 研修会では、校務支援システムの導入が学校からの要望であることを強調しました。「子どもたちのために、間違いのない成績処理を行いたい」というゴールは先生方も教育委員会も同じですので、その想いを共有することを大切にしました。
また、管理職の先生方と常に連絡を取り合い、先回りして計画を立て、説明や研修をしたことも円滑な運用につながったと思います。
正確な評価の実現に加えて、教員間の情報共有の機会が生まれた
一貫性のある成績処理が可能
指導主事 渡邊 茂一 先生
―校務支援システムの運用を始めて、変わったことは?
篠原 まずは、ミスのない成績処理ができるようになりました。これまでは、日々の成績入力から通知表や調査書作成に至るまでの間に、転記やチェックを繰り返しており、常に誤記入が生じやすい状態でした。そのため、時間と労力がかかるだけでなく、教員の精神的な負担が大きいという課題がありました。校務支援システムを導入したことで、データの転用により成績処理の正確性が向上するとともに、教員の不安感や多忙感が取り除かれ、質的な負担感の軽減につながりました。
渡邊 また、学習評価をするにあたり、各学校で、教科ごとに共通の評価規準を設けることになります。その結果、教員同士で授業の展開や評価に関する話し合いをする機会が増えたという声をいただきました。さらに、教員間で評価に関する情報共有がなされるので、進路面談などで保護者からの問い合わせがあった際、自分の担当教科でなくてもある程度は答えることができます。学校全体で子どもたちを見守る体制がつくられてきているのではないでしょうか。
篠原 校務支援システムが導入されたことで「まじめな雑談」が増えたようです。指導の過程や評価方法を見直すことで、生徒の学習状況が適切に反映された、信頼性の高い評価の実現に近づいています。
無理なく、無駄のない運用を目指す
―今後の展望は?
岡部 中学校での実践を踏まえ、小学校でもモニター校でのトライアルを行っています。
新学習指導要領では、道徳・英語が教科化され、評価が必要になることから、普段の授業から児童の様子を書き留めておくことが求められます。これをシステムで行うことで、継続的で適正な評価につながります。
また、カリキュラム・マネジメントを実施する上で、管理職が評価のプロセスを把握する必要性も高まっています。そうした背景もあり、小学校でも積極的に校務支援システムを使っていこうという流れになっています。
小学校モニター校の管理職の先生からも既に、中学校同様「学年ごとの話し合いが密にされるようになった」と、喜ぶ声が聞かれました。どのように単元を設定し、授業を行い、評価していくか、という話し合いを、これまで以上にしっかりと行うことができるようになったと聞いています。
篠原 小学校・中学校ともに効果が出てきていますが「円滑な運用」に至るには3年はかかると捉えています。操作を覚える段階では、むしろ勤務時間が増えている学校もありますが、その分学期末や受験期に大幅に勤務時間が増えることはなくなりました。今後も現場に寄り添う研修を続け、先生方にとって無理なく、無駄のない運用ができるよう取り組んでいきたいと思います。