インタビュー&コラム

Column

応用力ある「プログラミング的思考」を
育てるには

茨城大学教育学部 教授・文学博士
田中 健次

(2017/07掲載)

 前回のコラムでは、「アクティブ・ラーニング」が具体的にどういったものなのか、教育関係者の中ではっきりしておらず、「活動あって学習なし」の状況に陥りがちな現状があることを書きました。そんな中、本年3月末に発表された次期学習指導要領(小・中学校)で、「アクティブ・ラーニング」は「主体的・対話的で深い学び」という表現に置き換えられました。私は、このような各教科に通じる表現となったことを歓迎しています。

 さて今回は、次期学習指導要領のもう一つの目玉である、「プログラミング教育」について述べます。次期学習指導要領は示されたものの、まだ解説書が出ていないので「プログラミング的思考を育成するプログラミング教育」がどのような扱い方になるのか不明です。そもそもプログラミング教育が次期学習指導要領に急きょ出されたのは、囲碁でディープ・ラーニングを可能とした計算機(コンピュータ)に人間が負けたことによる、とまことしやかに伝えられていますがその事実はどうなのでしょうか。
 プログラミング教育用の言語として、MIT(マサチューセッツ工科大学)による1970年代のLOGOや、最近ではMITメディアラボが開発したScratchが有名です。Scratchは日本でもプログラミング教育に用いられていますが、読者で経験なさった方はいらっしゃるでしょうか。たしかにおもしろいことは事実で、計算機に対する心的抵抗を弱める効果はあると思います。しかし、情報機器が普及した今、小さい頃から日常的にスマートフォン等に触れさせ、実体験を重ねることの方がより心的ハードルをさげる効果があるかもしれません。また、「おもしろさ」と「論理的思考」をどのように結びつけるかは、これからさらなる研究が必要と思われます。

 ところで、囲碁、将棋の世界のプロ棋士たちが、何十手先まで読むことのできる論理性とそれを可能にする思考力をもっていることは誰もが疑わないでしょう。しかし、そこで培われた思考力は囲碁・将棋の世界で通用するもので、他に応用できるでしょうか。誌面の関係でプログラミング教育に対する私の詳細な意見を述べることはできませんが、私はある一つの分野で身に付けた論理的思考がすべての物事の考え方に応用できることはないと考えています。
 私は、授業時間数に余裕があれば義務教育段階でのプログラミング教育に全面的に反対するものではありませんし、最近いわれる、コンピュータを用いないでおこなうプログラミング教育、すなわち「コンピュータサイエンスアンプラグド」にも否定的でありません。しかし、小学校段階から将来にわたってさまざまな分野に応用できる論理的思考力を身につけさせるには、基本にかえって「読み書き算」の能力を高めることが重要であると考えています。その中でもとくに文章力を鍛えるのが効果的だと考えます。というのも文章は「思考の単位」であり、正確かつ明瞭な文章を書くためには、思考が論理的にならざるを得ないからです。

 「文章力を鍛える。」これこそが応用の効く「プログラミング的思考」につながると考えます。

田中 健次 先生

茨城大学教育学部 教授・文学博士

【プロフィール】

1980年国立音楽大学大学院修了。電子楽器メーカー勤務後、音楽制作会社プロデューサー職、佐賀大学教授を経て2002年度より現職。研究分野は音楽教育学、伝承文化研究。著書に『音楽担当になったら読む本』(明治図書)、『音楽授業がぐーんと盛り上がるお話ネタ80』(学事出版)、『音楽の授業をつくる』(大学図書出版)等多数。

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