導入アプリケーション
鹿児島市立喜入中学校は、鹿児島市教育委員会の指定を受け、先行して2年間、校務支援システムを導入・運用した。研究結果は、鹿児島市全校の校務支援システムの導入に活かされている。モデル校としての研究はどのようなものであったのか。また、校務支援システムの導入による効果や運用のメリットはどのようなところであるのか。鹿児島市立喜入中学校・校長の小川秀樹先生、校務支援システム導入初年度から情報担当をされている脇園奈津江先生にお話を伺った。
データが蓄積された2年目から導入の効果を実感
校長 小川 秀樹 先生
情報担当 脇園 奈津江 先生
-脇園先生は、赴任当初から情報担当として校務支援システムの活用に携わっていると伺いました。導入当初の様子はいかがでしたでしょうか。
脇園先生 私自身、情報機器のことに全く携わったことがありませんでした。喜入中学校に赴任すると同時に校務支援システムが導入されました。初年度はとにかく、校務支援システムを使うことで精一杯でした。データの入力やシステムの理解のために、何度も校内研修を行いました。慣れない環境で右往左往していたというのが、正直なところです。それまで鹿児島市内の中学校では、成績処理についてはスズキ教育ソフト社製の〈家康 for Win〉が導入されていましたので、それを使っていました。通知表に関しては、汎用的な表計算ソフトで自作したものを使っていました。どこの学校も独自で作っていたので、最初に校務支援システムが導入されたときは抵抗がありました。操作は簡単と言っても、名簿に全部情報を入力するのは、やはり手間に感じられましたし、通知表のレイアウトも設定しなければならない。「やっぱり、校務支援システムって使いづらいんじゃないの?」という声も聞かれました。
ところが、次年度には前年度に入力していた情報が使える。特に4月・5月の期間に必要になる情報を準備する時間がぐっと少なくなりました。情報が既に入っている生徒を、ナビゲーションに従って動かすだけで学級編成ができ、それに従って名前の入った名簿がすぐに印刷できる。自分たちで表計算ソフトを操作しながらデータを用意する必要がなくなったのです。これを体験してから、「校務支援システムって便利なのかな」と思い始めました。そこから、だんだんと「生徒の写真が入る」とか、「色々な名簿が出せる」といったことに気づいていきました。導入してから2年目には、もう他のソフトに頼ることなく成績処理から通知表の作成まで行っていました。今では、校務支援システムがあることが当たり前になっています。
-情報担当としての脇園先生のご負担はいかがでしたでしょうか。
脇園先生 情報機器やソフトウェアに詳しくない教員でも使えるようなソフトウェアが導入されたことで、大変助かりました。〈スズキ校務〉は、汎用的な表計算ソフトが使える先生であれば問題なく使えますので、使い方がわからない先生がいても、学年ごとにカバーし合って使っています。私が先生方の質問を直接受けることはほとんどありません。校務支援システムは、それこそ全教職員が使うものですので、簡単な操作で使えるソフトウェアでないと、市内一斉導入は成り立たないんだろうなと感じます。
情報担当として、教育委員会主催の集合研修にも参加しています。参加する度に新しい使い方を知ることができるので、本校の職員により便利に使ってもらえるよう、校内研修等で情報共有をしています。
「生徒一人ひとりを大切に見る」意識が生まれた
生徒の出欠席情報はデータベースで一元管理され、学級担任からも養護教諭からも閲覧・編集が可能
「写真台帳」に生徒の顔写真を登録しておけば、ボタン一つで一覧表が印刷できる。集合写真などから、一人ずつ写真を切り抜いて登録することも可能
-校務支援システムを導入されて、より効果が上がったのはどのようなことでしょうか。
小川校長 まずは「情報の共有」です。校務支援システムを使うことで、教職員間の情報の共有がスムーズになっていると思います。例えば、学級担任と養護教諭の間での出欠席情報の共有です。養護教諭の元には、校内のすべての出欠席情報が集まります。一方、学級担任は、中学校が教科担任制であることもあり、朝のホームルーム以降の生徒の遅刻・早退といった出欠席情報を正確に得にくいのです。そこで、養護教諭に最新の出欠席情報を校務支援システムのデータベースに反映させてもらい、学級担任がそれを確認することで、正確な情報共有ができるようにしています。
脇園先生 養護教諭と学級担任が校務支援システム上で出欠席情報を共有することで、常に正しい情報の把握を心がけるようになりました。教職員の中で「生徒一人ひとりを大切に見る」という意識づけにもなっています。
小川校長 それから、生徒の写真が登録しておけるのも、教職員間の情報共有に一役買っています。本校は全校生徒が306名おり、教職員が連携して生徒指導を行う必要があります。生徒指導上の情報共有をする上で、生徒の顔と名前を一致させることは大変重要なことですが、教科担任を持っていないクラスの生徒は顔と名前が一致しにくいのが現実です。そこで、「写真台帳」という機能を活用して生徒の顔写真一覧を印刷し、それを見ながら情報共有をするようにしました。そうすることで、該当の生徒の教科担任でない教職員でも、顔と名前と生徒指導情報が一致し、しかるべき時に適切な生徒指導を行うことに繋がります。
作業時間の短縮に加え、教職員の精神的な負担軽減につながった
-校務支援システムを導入されて、より効果が上がったのはどのようなことでしょうか。
小川校長 教職員の精神的な負担の軽減を実感しています。とくに学期末・学年末の通知表作成の時期には、多くの先生方が効率化を実感されると思います。例えば、出欠席情報の集計です。出欠席情報の記録は、これまでも毎日紙の出席簿でやってきたことなので、PCに入力する形に変わっても、手間としては従来とそう変わりません。しかし、集計については、自動で処理され学期末・学年末に通知表などに反映されます。これまで、出欠席関係の情報を表計算ソフトに入力して集計したり、結果を手書きしたりといった作業にかなり時間を要していましたから、先生方の負担がその分軽減されていると考えると、効果は大きいです。
脇園先生 所見もPC上で入力することで、簡単に手直しができるため、手書きの文字のバランスや誤字を気にして作業が長引くということもなくなりました。家に通知表を持ち帰ることもなく、セキュリティ面でも安心です。時間的にも精神的にもゆとりができました。
情報の有効活用による教育効果と時間短縮に期待
面談資料は、面談内容に合わせて表示するデータやレイアウトを設定することができる
登録した情報を使って学生証や名簿を作成。一度作成した名簿は、どの先生でも印刷して利用することができる
-モデル校のご経験から、今後、校務支援システムを運用される先生方にアドバイスをお願いいたします。
脇園先生 校務支援システムは、データが蓄積されることで、活用の幅が広がっていきます。〈スズキ校務〉では、蓄積されたデータの中から、成績をはじめ、生徒に関する様々な情報が引き出せます。私は3年生の学級担任をしていますので、進路に関する面談をする機会も多いです。その際には、過去の生徒の成績を反映させた面談資料を印刷して利用します。そうすることで、より確かな根拠をもって面談に臨むことができます。蓄積された情報をいかに有効活用していくかを考えることが、教育の質を高めることにつながると思います。
小川校長 鹿児島市では平成28年度に全小・中学校で校務支援システムが正式に運用され始めました。データが蓄積されることで転用できる情報も増えますので、先生方は、年々効率化を実感していくことになるかと思います。
中学校で言えば、校務支援システム導入の真価が発揮されるのは、校務支援システム導入初年度に入学した1年生が3年生になったときだと思います。日々、情報の入力をしていれば、3年間の出欠席情報から成績情報までが、全て〈スズキ校務〉に蓄積されることになります。そこからデータを転用することで調査書の作成時間が一気に短縮されます。また、小学校でも同じ校務支援システムが運用され始め、入学予定の生徒の情報について引き継げるようになったことも、さらなる効率化に繋がると思います。
脇園先生 校務支援システム導入1年目は、どうしてもデータ入力の負担や慣れないシステムの理解などで、不安や戸惑いが大きくなるかと思います。しかし、その先に、確実に効率化があります。校務支援システム導入4年目の本校での活用度の高さがそれを裏付けているのではないでしょうか。
鹿児島市立喜入中学校 「ひとくちメモ」
2004年に鹿児島市に編入された旧喜入町の中心部に位置する鹿児島市立喜入中学校。平成28年度からは、授業の中でのICT活用をテーマに研究を行っている。