インタビュー&コラム

Lead Article

鹿児島市内の教育の情報化に取り組まれ、九州地区のセミナーでも多数の講演を行う。

幅広い意見収集・多角的な研究で
スムーズな校務の情報化を実現


鹿児島市立学習情報センター 主幹
木田 博

(2017/07掲載)

 教員の長時間勤務の問題が叫ばれて久しい。経済協力開発機構(OECD)の調査では、日本の教員の勤務時間が加盟国内最長という結果が示された。そんな中、ICT機器や校務支援システムの導入により、校務の情報化・効率化を推進する動きが各地に広がっている。自治体内で統一した校務支援システムを導入する事例も多いが、学校ごとの風習の違いやICT機器への抵抗感等が原因で、現場での運用がなかなか進まないこともある。こうした問題を解決し、スムーズに校務の情報化を行うにはどのようにしたらよいのだろうか。平成28年度より市内全小・中学校で一斉に校務支援システムの運用を開始した鹿児島市の事例からそのヒントを探る。

校務支援システム導入から運用までのポイントについて、中心となって進められた鹿児島市立学習情報センター・主幹の木田博先生にお話を伺った。

これまでの課題を解決し、さらに校務の効率化が図れる校務支援システムを導入する

―校務の情報化に取り組まれた経緯をお聞かせください。
 鹿児島市は、平成21年度のスクール・ニューディール政策で、教育用・校務用のPC、グループウェア、ファイルサーバーを同時に導入しました。それを使っていく中で、いくつか課題が出てきました。
 1点目は「セキュリティと現場の先生方の活用のバランス」です。平成21年度の鹿児島市における導入では、セキュリティ面を重視して整備をしました。しかし、利用する度にログインパスワードの入力が必要になり、結果としてそれを手間に感じられた現場の先生方の活用度が下がってしまいました。また、学校にファイルサーバーを置いていたため、そのメンテナンスが学校側の負担となっていました。それに加えて、災害時に学校が被害を受けたとき、ファイルサーバーからデータが取り出せなくなってしまうのではないかという精神的な負担もありました。「高いセキュリティ」と「先生方の校務の負担軽減」との両立の課題が浮き彫りになりました。
 2点目は「どんな先生でも安心して使い続けられる校務支援システムの構築」です。成績処理を例にとると、これまではPCに詳しい先生が自作したソフトウェアを使って成績処理を行う学校が多くありました。しかし、その先生が転任されてしまうと、他に詳しい先生を見付けるなどしてソフトウェアをメンテナンスしていかなければならない状況にありました。そこで、「どんな先生でも安心して使い続けられる校務支援システム」を導入する必要があると考えました。さらにその情報を一元化して管理することで、より一層の校務の効率化をねらいました。

様々な視点での意見収集と実証で「効果と課題」「現場のニーズ」を事前に把握

実際に行われたアンケート。
校務支援システムに必要な機能を6段階で評価する

―校務支援システムの選定・導入のために、取り組まれたことはありますか。
 校務支援システムは、まず先生方に使っていただけないと意味がありません。使っていただいた上で、「結構便利ね」と理解していただくことが重要です。これまでベストだと思ってやってきたやり方と比べて、「もっと効率化できるんだ」という実感を先生方自身が持っていただくことで、本当の意味で、現場での活用が始まります。そこで事前に、「校務支援システムの導入による効果と課題」や「現場のニーズ」を把握するための取組を行い、その後の選定や導入・運用に反映させるようにしました。現場の先生方の意見や運用に沿った校務支援システムの導入は、先生方からも信頼され、継続して使っていただけるシステムになると考えたからです。
 まず、鹿児島市内の現場の先生9名と校長先生1名で組織される「教育開発研究委員会」の「情報教育部会」で、3年ほどかけて複数の校務支援システムを試して、比較を行っていただきました。加えて、「教育の情報化実践モデル校」の中から1校に、校務支援システムを試用していただきました。実際の現場での活用から、「どのような効率化が図れるのか」「どのような課題があるのか」が具体的に把握できました。
 また、平成27年度には、「校務の情報化推進検討委員会」を立ち上げ、「次期校務支援システムのあり方」について検討を始めました。教育部長、教育委員会の各課長、校長会・教頭会の代表の先生方にメンバーとして入っていただきました。まずは「どのような仕組みが適切か」や「情報をどのように管理し守るか」といった整備の基礎となる部分について協議していただき、それに沿って順次、システムやソフトウェア、各種設定の在り方を検討していきました。
 さらに、現場の先生方を対象とした夏休みのICT活用講座の場を利用して、校務の情報化に関するアンケートをとり、課題や望むことを書いていただきました。アンケート結果は、最終的に「現場のニーズ」として集約しました。
 これらの取組から得られた結果を基に、PCの機種や校務支援システムを含めた鹿児島市としての導入の仕方を検討していきました。

選定のポイントは
「分かりやすいインターフェース」と「学校現場での長年の運用実績」

ボタンは文字説明とイラストでわかりやすい

―様々な意見収集や実証の結果、どのような校務支援システムを選定するに至ったのでしょうか。
 まず、「分かりやすいインターフェース」であるということです。意見収集にご協力いただいた先生方の中には、一般的なビジネスソフトのようなインターフェースだと使いづらいという方もいらっしゃいました。だから、子どもたちが使う教育用ソフトウェアの延長線上のような、アイコンがやわらかく、直感的に使える校務支援システムを探しました。見やすいか、どこに何の機能があるかすぐにわかるか、といった点から総合的に判断しました。
 それから、「学校現場での長年の運用実績があること」もポイントでした。校務支援システムは、問題が起きれば、先生の業務はそこでストップしてしまいます。長年学校現場で運用される中で蓄積されたノウハウが反映されたシステムを選べば、そうした問題の発生も抑えられると考えました。
 その上で、今回選定したのが〈スズキ校務シリーズ〉(以下〈スズキ校務〉)です。

手書きから電子化へのスムーズな移行のために
~出席簿・指導要録、さらには通知表まで~

―運用にあたり、工夫されたことはありますか。
 鹿児島市では平成28年度から、校務支援システムを使って出席簿・指導要録を作成することを決めました。移行期間は設けず、一斉に電子化する方向で進めました。初年度は手書きのものも認めるという案もあったのですが、「どちらでもよい」としてしまうと、やはり現場の先生方は慣れている方がやりやすいと感じ、なかなか電子化が進まないと考えました。
 教育委員会としては、通知表作成まで電子化して初めて校務支援システムの良さが分かっていただけると考えています。ただ、通知表作成の電子化を判断するのは、あくまで各学校の校長先生です。そこで、鹿児島市から発行している「指導要録の電子化の手引き」の中で、通知表作成の電子化についても強く推奨したり、校長会で「とにかくやってみよう」と先生方の背中を押していただけるようお願いしたりしています。校長先生が必要性をもって、学校全体で校務の情報化に取り組む雰囲気を作っていただくことで、短期間でも活用が促進されます。そのようにして通知表を毎学期きちんと入力していただくことで、学年末などにはほぼ入力が終わった指導要録や調査書が印刷できます。市内の先生の間でそのメリットが話題になれば、さらに活用は広がると考えています。

様々なサポート体制を整える~現場の先生が無理なく使えるまで~

―校務支援システムの活用促進のために、工夫されたことはありますか。
 導入したからには現場の先生方に無理なく使っていただけるところまでフォローしたいと考えていたので、集合研修に加え、様々な研修・サポートの仕組みを整えました。
 集合研修については、平成27年10月に全学校の教頭・教務主任を対象とし、校務支援システムの概要や導入した目的を説明する研修会を行ったのを始め、その後も学校現場の校務の流れに合わせて研修の予定を立てました(平成27年度~平成28年度の研修実施内容は右図参照)。集合研修に参加できない先生方に対しては、ICT支援員が各学校を訪問し、オンサイトで研修するようにしています。また、研修動画やマニュアルを校務用PCから見られる形でアップし、ICT支援員が来られない間でも先生方ご自身で自主研修ができるような環境も整えています。それでもわからない問題や、先生方が「今すぐに知りたいこと」については、サポートセンターの活用をお願いしています。そのため、校務支援システム導入検討時、電話ですぐに対応してもらえるサポートセンターが存在するかどうかも、大きなポイントとなっていました。
 このように、集合研修、オンサイト研修、自主研修に加えてサポートセンターの活用でさらに理解が深まる、という4本立てのサポート体制をとっています。

校務支援システム導入に対する3つの期待

―校務支援システムの導入・活用によって、どのようなことが期待されるでしょうか。
 まず期待するところは、「情報の共有」です。子どもたちの情報について、担任だけでなく全職員が共有することによって、いろいろな意見が出たりチームでの対応ができたりするようになります。〈スズキ校務〉の「日々の様子」を活用して、月に1度「子どもたちの情報」を話し合う会議を設けた学校もあります。既に入力してある情報を基に話し合うので、会議に参加できない先生からの情報も話合いの中に組み込むことができます。また、「評価に関する情報」の共有も大切です。学校内で共通の基準を持つことで、根拠のある評価をすることができ、保護者の信頼も高まることでしょう。
 二番目に、「先生方の負担感の軽減」です。〈スズキ校務〉と一緒にグループウェアを導入しています。伝達事項については、その中の連絡機能を使って連絡・確認をしてもらうようにして、職員朝会の回数を減らす学校も出てきています。言葉で説明をすると、つい説明が長くなったり、メモを取り忘れたり、その場にいなかった先生に再度連絡する手間がかかったりします。より短時間で的確に内容が伝わるグループウェアでの伝達の方が、効率的です。こうした事務的な仕事を効率化することで、授業準備や子どもたちと向き合うことに時間をかけようという学校が徐々に増えてきているところです。
 三番目に、「子どもたちの学力向上」です。校務支援システムを入れたからといって、すぐに子どもたちの学力に効果があらわれるというものではありません。しかし、先生方は日ごろから「もっと良い授業をしたい」「もっと子どもたちと関わりたい」という思いを持っています。校務の効率化によって一日10分でも早く事務的な作業が終われば、その分、分かりやすい授業のための工夫を考える時間に充てられます。明日のためにワークシートを1枚作ろうとか、次の授業では地球儀を持ってきて説明しようかとか、少しずつでも授業を良くしていくことで、子どもたちの学力にも良い影響が出てくるだろうと考えています。

現場の先生と「一緒に」「話を聞きながら」進める

―校務の情報化推進のためのアドバイスをお願いします。
 校務の情報化を進めていく上で、先生方と「一緒に」「話を聞きながら」進めていくという方法が一番失敗しないと思います。教育委員会の一方的な思いやシステムありきでの導入では、うまくいきません。「現場の先生方」にとって何が課題なのかを、一つひとつ意見を聞きながら問題解決をしていく必要があると思います。先生方がどこで戸惑いを覚えやすいのかを想定して、それをどうしたら解決できるか考えておくこと。それから、大きな変更は一斉にするのではなく、少しずつ計画的に進めていくことが大切です。
 実際に使われる先生方の壁となるものを低くするように動き、さらにそこに「半年先、1年先はこうします」と計画的な見通しを示していくことで、校務の情報化をスムーズに進めることができます。

校務用無線LANを整備 ~より現場の状況に沿った運用を目指して~

 鹿児島市では平成27年9月に、市内小・中学校の校務支援システム・グループウェア・教員一人1台の校務用PCの更新に加え、校務用の無線LAN環境を整備した。特に小学校の先生は教室で子どもたちと過ごすことが多いため、より現場の状況に沿った運用ができるようにと、学校内のどこからでも校務支援システムに繋がる仕組みを整備した。職員室の外で校務の情報を扱うことに対し、セキュリティ面での懸念もあったが、無線LANが教育用のネットワークと混じらないようにしたり、校務用PCのセキュリティ設定を工夫したりすることで対応した。この整備は、現場の先生方からも好評だという。

スズキ教育ソフト