情報の洪水の中であっぷあっぷ?
今年の全国学力・学習状況調査の質問紙調査にアクティブ・ラーニングに関する項目があったという話題が出ていた頃、「アクティブ・ラーニングは「知識構成型ジグソー法」で」*1 という記事タイトルを見つけました。「ジグソー法って何?」
さて、あなたはどうやって調べるでしょうか。記事本文をじっくり読みますか?検索サイトで調べますか?同僚に聞きますか?辞書サイトで調べますか?ネット書店で関連本を探しますか?リアル書店の本棚の前に立って本を探しますか?それともQ&Aサイトで質問しますか?
2014年9月にWebサイト数が10億件*2 を突破して、ニュースになりました。Netcraft社が1995年8月に初めて調査をした時のホスト数は1万8,957件、2000年2月にはWebサイト数が1,000万突破。1億突破は2006年11月 *3 。加速度的に増えています。これらのWebサイトへ我々を導いてくれる技術も、Googleなどの検索サイト、Webページ・ブログ・SNSに張られたリンク、Webサイトなどの更新を自動で教えてくれるRSSやGoogleアラート、まとめサイト、ニュースサイトなど、進化してきました。しかし、あなたは知りたいことがこの膨大なWebサイト群から見つかっているでしょうか。ちなみに検索サイトGoogleでキーワードを「ジグソー法 意味」で検索すると、約281,000件がピックアップ。「うゎー!」調べる気力もやや低下!?
Webサイト数の増加だけではなく、今、身の回りには、たくさんのデータが存在します。センサーが計測したデータ、防犯カメラ・ライブカメラ等が記録する映像、ポケット内のスマートフォンから発信される位置情報など、データは刻々と作られています。しかも、私たちはそれを分析して情報として活用できる時代にもなっているのです。一方、私たちは多すぎる情報を前にして、戸惑ってもいます。
大量の情報を受け取ることで、情報をストレスやエラーなく効率的に処理できる限界を超えた状態を指す言葉に、「information overload(情報オーバーロード、情報過多)」があります。情報はたくさんあるのに、欲しい情報が見当たらず、精神的に疲れてしまう...今はそんな時代でもあるのですね。
実は、コンピュータやインターネットが普及する前の1983年、「情報洪水にいかに対処するか」というタイトルの記事を掲載する学会誌がありました *4 。この年は、インターネットの始まりであるアメリカのARPANETでTCP/IPが標準プロトコルとして採用された年。日本でパケット通信のネットワークが立ち上がる前年です。その中で小河原宏さんは「個々人に最も適した従って個々人で異なった、新しい、質の高い情報をいかにして早く、もれなく短時間のうちに募集するかが大切なことになってくる」 *5 と述べています。
「質の高い情報」って何でしょう。簡単に言うと、①自分にとって必要であること、役立つこと ②その情報が正しいものであること この2つだと思っています。
自分にとって必要であること、役立つこと
「情報」とは「行動や意志を決めたりする時の判断材料となる事実や事がら」で、データ「事実や事がらを数字や文字、記号を用いて表現したもの」と区別しています。(この2つの言葉の定義は日本工業規格 *6 にありますがわかりづらいので、高校の教科書 *7 の定義を用いました。)
さて、「 」はあなたにとってデータですか、それとも情報ですか?アラビア語の素養のない私には、残念ながら行動や意志を決める判断材料にはならないので情報とは言えません。「37.7℃」というデータも、体温計が示せば「微熱があるから早めに寝よう」とするし、街頭温度計が示せば熱中症対策を考えます。ニュースで東京の最高気温だと聞けば「うわぁ、大変そう」と思うだけです。データを受け取った人の状況によって、データは価値のある情報に変化するというわけです。
私たちは「自分にとって必要である、役に立つ」Webサイトを求めて、検索サイトでキーワードを設定し、関係あるWebサイトリストを入手しています。実は1983年でも、検索におけるキーワードの設定は悩みだったようです。当時は電話、ラジオ・テレビ放送、郵便物、書籍、雑誌、新聞等が中心だったのですが、当時すでに書籍等のabstract(要旨、抄録)をデータベース化し、コンピュータを使った情報検索サービスは存在し、コンピュータを使えば人力に比べて検索時間が1/1000に短縮されるという認識があったようです。しかし、渡部烈さんは、抄録サービスを使う際、「コンピューターは本当に馬鹿ですから、キーワードの組み立てが甘いと、不必要な情報の洪水に見舞われ、とんでも無い金額を請求されてしまいます」 *8 とキーワード設定の重要性を述べています。
キーワード設定の重要性は今も同じ。Googleでは、「ジグソー法」で検索してみると約322,000件、「ジグソー法 定義」で約62,700件。「ジグソー法とは 小学校 指導案」で約3,590件。「アクティブ・ラーニング 知識構成型ジグソー法 解説」で約2,880件。内藤誼人さんは「20件くらいまで絞り込むことが理想的」 *9 と述べていますが、そこまで絞り込むのはかなり大変なことです。また、「情報オーバーロード」、「情報爆発」、「情報洪水」のように類似の言葉もキーワードにして検索することが必要になることもあります。
ネット上の情報は玉石混交といわれています。ただの石なのか、それとも宝となる玉なのかは、あるいはごみなのか、その人によって価値判断が異なります。人によって有益性、必要度が違うのですから、あなたにとっては石でも、私にとっては宝ということはあるのです。
もちろん、ネットワーク上の情報だけに頼るのではなく、実際に人に会って話を聞くことも、書店や図書館の本棚の前に立って本の背表紙を眺めることも大切です。思いがけない情報と出合うことができます。ただし、行動や意志を決めたりする時の判断材料にするのですから、その情報が間違っていれば、判断結果も間違ってしまいます。もうひとつの「②その情報が正しいものであること」は、とても大切な要件です。
では、情報が正しいものであることはどうやって見分けたらいいでしょうか。1980年代の情報検索サービスに登録されていたのは学術専門情報。文献の抄録、新聞記事、特許情報等、いずれの情報も「情報が正しい」前提で使われていたと思われます。現在でも質が高い商用データベース、専門情報データベースはあり、学校や公共図書館等の契約者の端末からはアクセス可能です。CiNii、Google Scholarは、誰でも使える学術情報検索です。内容の検証が十分になされた専門書などもいいですが、見つけ出すことが大変です。タイトルがわからない書籍でも、Webcat Plusの連想検索であれば、調べたいことを文で表して、それを手がかりにして調べることができて便利です。
しかし、今ネットワーク上に存在するデータ・情報は、新聞社などのマスコミ関連、企業や行政などの組織が発信しているもの、専門家個人が発信しているもの、高齢者から十代の若者まで一般の人々が発信しているものなど、その発信元は様々。コピー情報もここかしこに存在し、あいまい情報、偽情報、悪意のある誹謗中傷も存在します。
情報が正しいかどうか、確かなことか、事実と合っていて間違いは無いか、曖昧さは無いかなどを判断する目が必要になります。自分が発信する情報の正しさや確からしさを高めることも難しいことですが、他人が発信した情報の正しさや確からしさを判断することもとても難しいことです。
次回は、「その情報が正しいものであること」について、情報の正しさ、確からしさを見極めるためのリテラシーについて、お伝えしたいと思います。
*1 |
教育家庭新聞 http://www.kknews.co.jp/maruti/news/2015/0504_10a.html |
*2 |
Internet Live Stats社リアルタイム統計 http://www.internetlivestats.com/ |
*3 |
Netcraft社ニュース http://news.netcraft.com/archives/2006/11/01/november_2006_web_server_survey.html |
*4 | 日本薬学会学会誌「ファルマシア」19(7) 公益社団法人日本薬学会(1983年) |
*5 | 小河原宏「質の高い情報をいかに選ぶか」『ファルマシア』19(7) p.665(1983年) |
*6 | 日本工業規格JIS X 0001-1994 情報処理用語―基本用語 |
*7 | 実教出版「最新社会と情報」p.6(2013年) |
*8 | 渡部烈「情報は身銭を切って」『ファルマシア』19(7) p.666(1983年) |
*9 | 大正谷成晴「今、知りたいこと「時間×検索」の方程式」『プレジデント2007.3.19』プレジデント社 p.59(2007年) |
静岡産業大学・特任講師
【プロフィール】
小学校教員、教育ソフト開発メーカー勤務を経て、2006年4月より静岡産業大学で非常勤講師。2010年4月より現職