インタビュー&コラム

Lead Article

小林祐紀先生

失敗しない校務支援システムの導入


(2015/12掲載)

 全国で「教育の情報化」が進んでいる昨今。「校務の情報化」についても、校務支援システムを導入し、取り組んでいる教育委員会・学校が年々増えています。しかし、校務支援システムは、ただ無計画に導入しても、十分に活用されない恐れがあります。そこで3名の先生方に、校務支援システム導入の際に必要なことや、活用のための研修について、お話を伺いました。教育委員会や学校長、それぞれのお立場から、具体的なアドバイスをいただきます。

自治体での導入事例

校務支援システムの導入・運用における市教委の役目

岡山県 笠岡市教育委員会教育部 学校教育課 参事 髙橋 伸明 先生

はじめに


髙橋 伸明 先生

 笠岡市では、小学校18校、中学校10校(うち1校は組合立中学校)のうち、7小学校・6中学校で校務支援システムを運用しています。これらの学校では、出席簿、通知表、指導要録、さらに中学校では高校入試で必要な調査書等も連動した校務処理が行われています。校務支援システムの運用開始から、今年で5年目となります。

「校務支援システムが必要な理由」について関係者と共有する

校務支援システムが必要な理由

①先生方の多忙感を少しでも軽減し、子どもと向き合う時間を確保するため

②校内すべての先生方の間で、子どもに関する質の高い教育情報を共有するため

 校務支援システム導入前年の平成22年度、「校務支援システムが必要な理由」として右の2点を掲げました。これらを先生方と共有することは適正な活用のために必要ですし、市役所内予算担当部署へ説明し理解を得ることは、予算折衝の大切な局面です。

 当時感じた学校の状況ですが、①については概ね理解されているものの、②は我々の説明不足もあって、すべての先生には伝わっていない印象でした。

 一般的に、活用経験のない方は校務支援システムを「通知表や指導要録が短時間で作成できるだけのツール」と"誤認識"されている場合が多いようです。言うまでもなく、信頼できるソフトウェア会社等が開発した校務支援システムは、通知表等を作成するためだけの役目にとどまりません。しかも"パソコンに詳しい先生"が自作したツール等に比べれば、優れた機能・安全性を備えています。例えば、子どもの様子を全職員で日常的に記録できる機能のある校務支援システムを活用すれば、通知表等の総合所見が充実するだけでなく、担任が見ていない場面の活動が日常的に把握でき、タイムリーな指導や声掛けに結び付きます。また、優れた校務支援システムには、誤入力・誤操作を防止するためのチェック機能が2重3重と設けられており、人為的ミスが発生しにくい工夫が施されています。こうした特長を先生方に説明し、活用の意義や効果を丁寧に伝える必要があります。

 一方、市役所内予算担当部署と話をしていて感じたのは、②だけでなく①についても理解を得ることが容易ではない、ということです。独特な学校文化の中で営まれる「校務」が学校への勤務経験のない方にとって分かりにくいのは、無理もないところだと思います。

 予算担当者からすれば、校務支援システムは「先生の仕事を楽にするための道具」に見えていることがあり、子どものために必要であるという実感が持ちにくいようです。「子どもと向き合う時間の確保」「質の高い教育情報の共有」による効果を、学校関係者以外へは特に丁寧に説明しなければなりません。

段階的な整備計画を作る

 笠岡市では、全校への校務支援システム導入は行っていません。平成23年度から3年間で、「中学校6校で運用開始」→「小学校4校追加」→「小学校3校追加」と、順次学校数を増やしました。予算を削減するために平成23年度には含めなかった校務支援システム内の「出欠席情報の管理機能」は、平成24年度から順次付け加えました。さらに平成26年度には、教育ネットワーク内にセンターサーバーを設置し、次回の契約更新でセンターサーバー版による全校導入を目指す準備も行いました。

 予算には限りがあります。一時にすべてを整備しようとすればそれだけ多額な経費が必要となり、費用対効果の視点から、削減の査定を受ける可能性も高まります。例えば、このように1年1年の成果を示しながら計画的・段階的に整備を拡充することによって、最終的には当初想定した通りの整備に結び付く場合もあります。

教員研修を実施する

 校務支援システムの適正な運用のためには、操作方法や活用イメージがすべての先生方に伝わるように、教員研修を実施しなければなりません。

 笠岡市教育委員会では、「専門のインストラクターによる教員研修を複数回実施すること」を明記して、契約書を交わしています。必要に応じて導入校の担当者を集めた研修会を実施し、さらに各導入校の職員室で、全職員を対象にした研修会も実施しました。重要な文書を数々取り扱う校務支援システムでは、活用を躊躇する先生が一人でもいらっしゃると組織全体に支障をきたす心配があり問題です。「教員研修実施」は、適正な運用のための必須条件です。

学校とシステムの開発会社との間に立って調整を図る

 校務支援システムは、様々な形式、及び学校独自の形式で文書を印刷する役目を担います。形式をある程度の自由度を持って変更できたり、システムの開発会社がニーズに基づいたサポート・カスタマイズを行ったりすることも必要となります。こういう細やかな対応ができない校務支援システムは、学校経営全体を支えるツールとしては不十分です。

 これまで何度もシステムの開発会社へ要望を伝え、可能な範囲で柔軟に対応していただきました。一方で、学校の要望が適正でない場合もあります。その際には、市教委が学校に対して対応を指示しました。

 学校とシステムの開発会社との間に立って市教委が調整役を担うことも、適正な運用のための必須条件です。

自治体での導入事例

校務支援システム導入に向けた校務の情報化推進研修

岡山県 赤磐市立山陽東小学校 指導教諭 片山 淳一 先生

はじめに


片山 淳一 先生

平成25年度まで岡山県総合教育センター指導主事として勤務

 「教育の情報化ビジョン」(平成23年4月、文部科学省)では、校務の情報化について、「校務支援システムを全ての学校に普及させること」を直近の課題として示しています。校務支援システムの導入により、教職員全員が必要な情報を共有し、きめ細かな指導を可能にしたり、負担軽減により、子どもと向き合う時間を確保できたりするという教育の質の向上と学校経営の改善に資するからです。また、管理職に対して、「校務の情報化を学校経営の中核として位置付け、教職員間でその意義の共有に務めることが求められる」とも示しています。

 岡山県総合教育センターでは、この「教育の情報化ビジョン」に基づき、先生方個人の表計算やデータベース等の操作スキルを習得・向上させる従来の研修に加え、校務支援システムの導入・運用を視野に入れた、校務の情報化本来の意義を共有する研修を実施してきました。ここでは、管理職の先生方(または、ミドルリーダーの先生方)を対象にして、実施してきた岡山県総合教育センターの校務の情報化推進研修の実際を紹介します。

校務の情報化推進研修の実際

 校務の情報化推進研修は、自校の校務の内容や業務フローの現状を振り返ったり、実際に校務支援システムを体験していただいたりしながら、校務の情報化の意義を正確に理解し、自校の校務の情報化のための推進体制や推進計画を協議していく研修です。

①研修の趣旨説明

 研修担当者が、研修の趣旨と日程を説明します。「教育の質の向上と学校経営の改善を目指す」という校務の情報化の本来の目的と「校務支援システム」の導入が直近の課題であることを簡単に説明します。研修では、グループでの活動が主となるので、簡単な自己紹介等も取り入れます。

②自校の校務の内容と業務フローについての振り返り


付せん紙をカテゴリーごとに分類


業務フローに合わせて付せん紙を並べ替える

 まず、個人で、自校の担任の先生方が行っている校務の内容とそれに掛かるおおまかな時間を、付せん紙1枚に1つずつ書き出します。例えば「クラス名簿の作成(約10分)」「地区別名簿の作成(約15分)」…「指導要録の作成(約2日間)」等といった内容です。多くの内容を書き出すことができるので、改めて先生方の校務の内容の多さとそれに掛かる時間を振り返ることができます。

 次に、グループ全員分の書き出した付せん紙を、台紙の上に合わせて並べ、協議しながら「名簿作成」「出欠席情報管理」「成績処理」「通知表作成」「指導要録作成」のカテゴリーに分類し、業務フロー順に並べ替えていきます。グループから「ここは私の学校と同じだ」「ここは無駄ではないの」等の声が聞かれ、自校の校務の内容や業務フローを見直す機会ともなります。

③校務支援システムの操作体験


業務のフローの順に合わせて校務支援システムを体験


校務支援システム活用無しと活用有りの業務フローについて協議

 実際に校務支援システムの操作を「名簿作成」「出欠席情報管理」「成績処理」「通知表作成」「指導要録作成」そして、印刷までの業務フローの順に体験します。スモールステップで、実際のデータを用いて体験すれば、校務支援システムの使いやすさと簡単な操作性を実感してもらうことが可能です。

 校務支援システムの操作を体験した後には、グループで振り返りながら、操作手順を付せん紙に書き出し、②の「自校の校務の内容と業務フローについての振り返り」の場面で貼った付せん紙に対応させて、その横に貼っていきます。そして、校務支援システムを活用しない場合と活用した場合の校務の内容と業務フローを比較し、協議します。付せん紙の数だけを見ても、校務支援システムを活用した場合の校務の内容と業務フローが、効率的で、しかも正確であることが分かります。

④研修のまとめ(校務支援システム導入・運用のための組織体制と推進計画)

 校務支援システムの操作を体験し、校務の情報化の意義が共有できた後は、校務支援システムを導入・運用する際に必要な組織体制や推進計画、時期等を協議し、研修のまとめを行います。

おわりに

 研修に参加した管理職の先生方からは、「校務支援システムはすばらしい。早速、校長会で導入に向けて協議を始めたい」「校務支援システムを活用することにより、校務の効率化が図られるだけでなく、児童生徒の健康管理や学習状況について、多面的に実態把握をすることができ、指導に生かすことができる」「児童の出欠席情報管理や成績処理、通知表作成など、通常、行っている校務の流れを整理する機会を与えていただいた」等の感想が寄せられました。

 これからの校務の情報化推進研修では、先生方個人のソフト等の操作スキルの習得・向上を目指すだけではなく、校務支援システムの導入・運用を視野に入れた校務の情報化の意義を共有する研修が望まれると考えます。

学校での導入事例

学校の体制づくりと校内研修

山形県 米沢市立東部小学校 校長 金 俊次 先生

はじめに


金 俊次 先生

 2013年、中学校経験しかない私が、初めて小学校の校長として勤務してみて感じたことは「担任は忙しい」ということでした。朝、始業前に教室に入った担任は元気にあいさつし、朝学習、朝の会、健康観察、歌を歌い1校時目の授業へとなだれ込みます。中間休みは子どもたちと遊び、給食指導をしながら連絡帳に返事を書き、清掃指導、午後の授業へと進みます。

 この過密な担任の仕事に少しでも時間の余裕を生み出し、子どもたちに対する教育の質の向上を図るためには「校務の情報化」しかないと感じ、校務支援システムの導入を決断しました。

学校体制のつくりかた

 管理職は、教育活動を効率よくまわしていくコンダクター役です。校務支援システムを導入するにあたって、教職員に不安を与えないように丁寧に準備することと、恩恵が体感できるように推進することが大切だと考えました。

 ポイントは以下の6つとしました。

①教職員に校務の情報化の目的と意義を示す
②教職員に校務の情報化の全体像を示す
③校務支援システム担当者会を組織する
④校務支援システム担当者会を機能させる
⑤教職員に負荷の少ない研修会を企画運営する
⑥教職員に校務支援システムの有用性を感じてもらう

 「校務支援システム担当者会」は教務主任を中心とし、各学年から1名選出してもらいました。初年度は特に、「校務支援システム担当者会」の方々に活躍していただきました。全体で研修する前にあらかじめ操作方法をマスターしてもらい、当日は各学年の指導的役割を担っていただきました。学年で何か分からないことがあれば担当者に聞けるという安心感がスムーズに導入できた一因だと考えています。

校内研修のすすめかた


職員室でミニ研修会

 校務支援システムは、「名簿情報管理」「出欠席情報管理」「成績処理」「通知表作成」「週案簿」「時数管理」「指導要録作成」などの様々な機能を持っていますが、初年度は通知表の作成と配付までの効率化を図ることとし、活用する機能を絞りました。前任校では、1学期分の操作・活用の方法を1時間以上かけて研修しました。しかし、今学んでいる作業が通知表作成のどの部分で、いつ頃使えば良いのかイメージをもたないまま学ぶため、時間をかけた割に効果が薄かったと感じていました。

 そこで、ミニ研修会と銘打って、必要な操作を必要な時期に最小限の時間で実施しました。どの学校もそうですが、全教職員を集めての研修会はなかなか時間がとれないのが現状だと思います。必要な時に必要な操作情報を提供するミニ研修会は、理解も早く、操作スキルもしっかり身に付く効果的な研修の場となりました。

まずは通知表の作成と配付まで


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 極端な言い方をすれば、一度通知表の作成と配付までの経験をつめば、二度目からは通知表作成が効率化されたことを体感することができます。ですから、導入した年の4月から7月まで本校では以下の手順で丁寧に進めました。

 4月、担任はログインとデータ入力の方法をミニ研修会で学びました。後は、図1にあるように、学級の係が決まれば入力、児童会の委員が決まれば入力といったように、新たなデータが出ればその都度、教務主任が音頭をとって入力作業をしてもらいました。これらのデータの中には単元テストの点数や、出欠席、表彰、日々の様子記録が含まれます。このように日々の入力作業をしているので通知表作成の時期には、評価・評定、行動の記録、所見を除いて全てデータベースに一元管理されていることになります。

 7月の通知表作成のとき、二度目のミニ研修会を開きました。校務支援システムはこれまでに入力したデータを自動的に集め、通知表に流し込んでくれるので、以前のように担任が全ての情報をかき集め通知表に記入する作業が不要になります。評価・評定と所見の入力に集中でき、あとは印刷するだけで通知表が完成となります。

 この経験がベースとなり、学期が進むにつれ校務支援システムの便利さを体感することができるようになりました。

おわりに

 「校務の情報化」は学校経営の一環ですから、当然トップダウンです。管理職が経営のねらいを教職員にしっかり意味付けし、具体的な1年間のイメージを持ってもらうことが大切です。いつ頃どんな校務の作業があるのか、その手間はどの程度かかるのか、丁寧に説明することで教職員が見通しを持つことができます。校務リーダーや校務担当者任せでなく、管理職は軌道に乗るまで気合いを入れ、先々にレールを敷いて行くことがポイントです。失敗しない学校の体制づくりと校内研修の成否は、管理職の気合いに掛かっているといっても過言ではありません。明るく元気に、そして楽しそうに「校務の情報化」の旗振りをすることをお勧めいたします。

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