インタビュー&コラム

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情報活用能力を育む授業デザイン

東北学院大学 准教授
稲垣 忠

(2015/07掲載)

 情報教育が目指すのは、機器やソフトウェアを使いこなすようになることではありません。情報を集めたり、整理したり、表現・伝達する際に、適切な情報手段を用いて、思考を働かせながら、情報を扱えるようになることです。その「情報の扱い方」に着目した「情報活用型授業」をつくるポイントや授業デザインについて東北学院大学の稲垣先生にご寄稿いただきました。

1.情報活用能力調査からわかったこと

 「『S市では、写真のようなごみを何曜日にすてるでしょう?』というクイズを考えました。このクイズの答えは何曜日でしょうか。S市のホームページを見て調べ、当てはまるものを下の1から5までの中から全て選びましょう。」

 「平日の午後に公園を利用する人に、『公園でこまっていること』と『新しい公園に実げんしてほしいこと』を聞き取り調査することにしました。右のアからシのカードは聞き取ったことをかんたんにまとめたものです。カードを、右の表の見出しの当てはまるところにドラッグして入れましょう。」

 この2つの問題は、どちらも文部科学省が平成27年3月に発表した「情報活用能力調査」の公表問題の一部です。1つめの問題では、複数のウェブページを閲覧した上で、写真のようなゴミ(CDなどのケース)をいつ捨てるべきなのか判断します。2つめは、「遊具が古くて遊ぶにはきけんなものがある」「ドングリの木があると拾えて楽しい」「野球やサッカーができるようにしてほしい」といったいろいろな意見を、「遊び道具」「遊び道具以外の設備」「自然」「ボール遊び」の4つのカテゴリーに分類する問題でした。両者の通過率(正答と準正答をあわせたもの)は9.7%と17.9%。全国から約3300人の小学5年生が取り組んだ結果ですが、どう思われますでしょうか。同調査の報告書には、小学生の課題として次のように指摘しています。

 「小学生について,整理された情報を読み取ることはできるが,複数のウェブページから目的に応じて,特定の情報を見つけ出し,関連付けることに課題がある。 また,情報を整理し,解釈することや受け手の状況に応じて情報発信することに課題がある。」

 複数の情報を見つけ出し、関連づけ、整理するといった力に課題があるとされていますが、このような力はどのような場面で身につくのでしょうか。国語科では、物語や説明文、あるいは図や表などの非連続型のテキストから、課題に該当する箇所を見つける場面はあります。社会科で教科書や資料集を使って同様の活動をすることもあるでしょう。それにも関わらず、低い通過率にとどまったのはなぜでしょうか。

 同調査では、教員や児童生徒を対象にした質問紙調査も実施されました。能力調査と質問紙調査の組み合わせをみると、低い通過率の原因が見えてきます。「情報教育に関する授業の実施状況」として、さまざまな学習活動の実施割合が報告されています。「情報の収集」「客観性の読み取り」「情報の整理」「情報の解釈」「情報の比較・関連付け」といった活動を週1回以上実施している割合はそれぞれ、2.6、1.7、0.0、0.0、0.0%と、ほとんど実施されていないのです。こうした授業の実施状況と能力調査を上位群・下位群に分けた分析結果には、有意差が認められました。実施していない学習活動を評価して出来ていないのも頷けます。

 なお、この調査は、PC上で能力調査用のソフトウェアを操作して回答するコンピュータ回答式(CBT:Computer Based Testing)でした。情報教育と聞くと、タイピングやコンピュータを操作するスキル、あるいはプログラミングや情報モラルをイメージする読者の方もおられると思います。

 情報活用能力は、「情報活用の実践力」「情報の科学的な理解」「情報社会に参画する態度」の3つの観点からなるとても包括的な能力です。より詳細には、3つの観点には表のように8つの要素が挙げられています。コンピュータの操作技能も、情報モラルも含まれていますが、表の通り、「情報活用の実践力」には、「必要な情報の主体的な収集・判断・表現・処理・創造」「受け手の状況などを踏まえた発信・伝達」があります。今回の調査結果は、この部分が十分身についていないことが示されたと言えるでしょう。

表:3つの観点と8つの要素

A.情報活用の実践力
A-1:課題や目的に応じた情報手段の適切な活用
A-2:必要な情報の主体的な収集・判断・表現・処理・創造
A-3:受け手の状況などを踏まえた発信・伝達
B.情報の科学的な理解
B-1:情報活用の基礎となる情報手段の特性の理解
B-2:情報を適切に扱ったり、自らの情報活用を評価・改善するための基礎的な理論や方法の理解
C.情報社会に参画する態度
C-1:社会生活の中で情報や情報技術が果たしている役割や及ぼしている影響の理解
C-2:情報モラルの必要性や情報に対する責任
C-3:望ましい情報社会の創造に参画しようとする態度

2.情報活用型の授業デザインを取り入れる

 情報教育が目指すことは、特定の機器やソフトウェアを使いこなせるようになることではありません。調査問題が示しているように、情報を集めたり、整理したり、表現・伝達する際に、適切な情報手段を用いて、思考を働かせながら、情報を扱えるようになることです。そのためにはどのような授業を実践していくことが求められるのでしょうか。教師が電子黒板や実物投影機を使って分かりやすく教材を提示する、児童がタブレットに自分の考えを書いて、電子黒板で共有するといった場面は、ICT活用として教科のねらいを達成するために用いられるべきですが、情報教育ではありません。図書館で本を探し、複数の図書から情報を読み取るような活動、教室で付せん紙に集めてきた情報を書き出し、整理する活動、学校外の人にインタビュー取材をしたメモをまとめる、新聞や模造紙に表現するといった活動は、いずれもICTは使っていませんが、情報活用の実践力の育成に直結する学習活動です。ウェブ検索やプレゼンテーション制作のように手段としてコンピュータを組み合わせることも含めますが、重要なのは教師ではなく、児童生徒が使う場面を設けることと、機器やソフトウェアの操作の仕方を教えるだけではなく、そこでの「情報の扱い方」を教えることです。「情報の扱い方」に着目した授業を筆者は「情報活用型授業」と呼んでいます。

 情報活用型授業の一例として、仙台市教育委員会が設置している「教育の情報化研究委員会」の情報教育部会で平成26年度に実践された授業をご紹介します(授業者は将監小学校の佐藤洋平先生)。5年生国語科「伝えよう、委員会活動」の単元です。委員会活動を紹介するリーフレットをつくり、4年生に紹介するのが活動のめあてです。リーフレットをつくる前に、4年生にインタビューをして、どんなことを知っているのか、知らないのかを調べました。5年生は、4年生が自分たちの委員会活動の取り組みをほとんど知らなかったことにショックを受けます。そこで、委員会活動の内容として紹介したいと思う情報を書き出すとともに、4年生に伝えるには何を優先して伝えるべきかグループで相談しながら、情報を整理します。図や写真などを取り入れたり、見出しの文言やレイアウトを工夫したりする際には、ラフ案をつくり、評価の観点を確認した上で相互評価を行い、ブラッシュアップしました。完成したリーフレットは4年生に配布し、委員会活動を広めることができました。

 単元の流れは、実は教科書に記載されているものとほとんど同じです。情報活用型授業では、情報活用の流れを「収集」「整理」「発信」の3つの段階に単純化していますが、先のリーフレットの単元は、この3つの段階すべてが含まれます。つまり、現在の教科書には、情報活用能力の育成につながるような単元が豊富におさめられているのです。にもかかわらず、学習活動として実施されてはいても、「情報の扱い方」を意識的に指導したり、考えさせたりが十分になされていなかったのではないでしょうか。佐藤先生の授業には、次のような情報の扱い方の指導が含まれていました。

・情報の収集:委員会活動として伝えたいことを書き出すことに加えて、4年生にインタビューをしました。

・情報の整理:インタビュー結果をもとに、必要な情報を判断したり、優先順位を考えさせました。

・情報の発信:リーフレットにはどんな表現の仕方が適切なのか評価の観点を示し、相互評価させました。

 情報の扱い方を指導するといっても、何をどのように指導すればよいのか、迷われるかもしれません。授業デザインの詳細は次の節で紹介しますが、「教師がこれまでしてきたことを少し、児童・生徒に渡してみる」と考えてみましょう。普段、授業をする際に、先生方は教科だけでなく、どんな教材を見せたら子どもたちは興味を持つか、より深く考えたくなるか、情報収集をされると思います。この収集を教師がするのではなく、子どもたちがするということです。あるいは、板書計画を練る際に、図や表にするとわかりやすく伝えられそうだといったことを考えると思いますが、整理した結果を児童・生徒に伝えるのではなく、整理する学習活動を設定するということです。もちろん、単に児童・生徒に丸投げするだけで、自動的に子どもたちが考え、情報活用ができるようになる訳ではありません。「子どもたちにとってわかりやすい授業づくり」から一歩引いて、子どもたちが解釈したり、考えたり、表現したりする余地をつくる授業デザインについて考えてみましょう。

3.情報活用型授業をつくる3つのポイント

 情報活用型授業は、教師がすべて準備するのではなく、子どもたちの活動にある程度任せる点は、総合的な学習にみられるプロジェクト型の学びに似ています。ただし、既存の教科単元では学習課題は予め決まっていることがほとんどですし、明確な学習目標があり、配当時数も考慮する必要があります。情報活用型授業をつくる上で、大きく分けて3つのポイントがあります。

 一つ目は、子どもたちが扱う情報そのものです。一目見てすぐわかるようなものは、見せてしまえばおしまいです。むしろ、読み解いたり、整理する必要のある情報を用意することになります。ウェブ検索をさせるにしても、調べるサイトの目処をつけておき、グループごとに異なるサイトを調べると、あとで調べたものを整理する活動へとつながります。NHKの学校放送番組は、一見、わかりやすくつくってありますが、視聴するだけでは「分かった気分」止まりです。視聴した後にキーワードを書き出し、自分で説明を再構成する活動や、番組視聴をきっかけに個々に学習課題を立てて追究するといった活用法が考えられます。

ベン図

 二つ目のポイントは、情報を扱うためのツールを用意することです。情報はたくさん集めれば集めるほど、整理の仕方が課題になります。近年、「シンキングツール」と呼ばれる図解しながら自分やグループの考えを整理する技法が着目されていますが、情報整理とシンキングツールもとても相性がよいと言えます。例えば、ベン図を使うことで、集めた情報をAとB、AとBの共通部分の3つに分類できます。表を使えば、観点ごとに情報を評価できます。いくつに整理するか分からない場合、付せんに書き出してグルーピングしてもよいでしょう。個別に取り組む、グループで取り組む、個別に整理したものをグループで統合するなど、情報の量と課題の難しさに合わせて選択します。はじめは教師が用意したとしても、次第に子どもたちから「○○チャートが使えるんじゃない?」「自分ならこういう整理の仕方をしてみたい」という提案が出てくれば、情報整理を自分のものにしはじめたと言えるでしょう。

情報活用能力の教材「あつまと+つくつた」
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 三つ目は、評価の観点を明確にすることです。情報の収集、整理、発信の3つの学習活動があることを前節で述べました。それぞれの活動に取り組む際に、単に活動としてやるだけではなく、その「質」を見極め、必要な指導をし、子どもたちが気づき、改善するよう促していくことが重要です。情報を集めるのであれば、どんな情報をどの程度集められればよいのか、整理はどこまでできたら整理できたことになるのか、発信するための制作物や発表の仕方はどうあるべきか、といったことです。「ルーブリック」は、こうした学習活動の質を観点ごとに表にしたものです。情報活用型授業では、ルーブリックは教師側で作成し、見せないでおくよりも、子どもたちに見せて、自分たちの活動を改善する手がかりにさせたり、基準自体を子どもたちが自分で考えて作る機会を設けることがあります。先ほどのリーフレットの実践では、筆者らが開発した「あつまと+つくつた」というウェブ上の教材を用いて、リーフレットづくりのポイントを子どもたちに気づかせ、改善点を考えさせました。

4.授業デザインシート

 ここまで紹介した3つの配慮点は、どれもが教師が授業中に何をするかよりも、子どもの学習活動をどうデザインし、支援するか、という視点にたっています。学習指導案にまとめていく際に、これらの配慮点を考えやすいように、「授業デザインシート」を開発しました。図は先ほど紹介した佐藤先生の授業のリーフレットのレイアウトを考える場面です。授業デザインシートは5つのパートから構成されています。

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 ワークシート中に、ア、イ、ウ・・・といったカタカナがふられていますが、これは授業設計理論の定番ともいえる、R.ガニェの9教授事象を学習者の活動に置き換えたものです。アからケまでの9つをデザインすることで、学習を成立するために必要な事柄をカバーできます。さらに、表に示すようにアからケの項目ごとにヒント集を用意しています。1つ1つの項目には、ここまで述べてきたようなポイントが少しずつ、織り込まれています。なお、この授業デザインシートを使ったワークショップ型の研修会を各地で開催しています。教科書を持ち寄り、タブレット端末で使える情報を検索しながら、授業デザインシートに授業アイデアを記入します。Webサイトに研修の進め方をまとめてありますのでぜひご覧ください。

つくろう!情報活用型授業( http://www.ina-lab.net/special/joker/ )

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5.おわりに~今後の学習環境・学力に向けて

 本稿では、情報活用能力の中でも、特に情報活用の実践力の育成につながる、情報活用型授業とそのデザイン技法について取り上げました。最後に、タブレット等の今後の学習環境の充実と、21世紀型スキルと呼ばれるようなこれからの学力との関係を整理しておきましょう。

 2020年が目標とされる子どもたちへのタブレット等の情報端末の導入は、授業デザインを見直す絶好の機会と言えます。一人ひとり、専用の端末があるということは、それぞれに違う画面、情報にアクセスできるということです。それぞれに集めてきた情報を吟味し、プレゼンテーションや映像にまとめて発表するといった学習が、いつでも教室でできますし、授業時間の制約を超えて自分たちの学びを進める際にも活用できます。1人1台環境をいかした情報活用能力の育成にぜひ取り組んでみてください。

 情報活用能力は、21世紀型スキルと呼ばれるこれからの学力にも欠かせないものです。子どもたちが主体的に情報を集め、整理し、発信する、このようなプロジェクト型の学びはアクティブラーニングの典型としても注目されています。情報を整理する場面や、相互評価をする場面は、言語活動としても魅力的です。情報活用型授業は、子どもたちが扱う情報とその扱い方に着目した授業デザイン技法です。情報=ネタの扱い方とさまざまな指導法とを組み合わせて、子どもたちがじっくり考え、討議し、伝えたい気持ちを高め、発信する、そんな学びを日々の授業の中で実現する一助となれば幸いです。

稲垣 忠 先生

東北学院大学 准教授

【プロフィール】

【 略 歴 】
2003年 東北学院大学 教養学部 専任講師
2006年 東北学院大学 教養学部 助教授
2007年 東北学院大学 教養学部 准教授(~現在)

【 学 位 】
教育学修士 (金沢大学大学院)
情報学博士 (関西大学大学院)

【 主な著書 】
「授業設計マニュアルVer.2」「デジタル社会の学びのかたち(翻訳)」「学校間交流学習をはじめよう」など。

【 Webサイト 】
http://www.ina-lab.net/

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