インタビュー&コラム

Column

野菜作りを通して食の大切さを学ぶ 前編
今こそ発想の転換期!
農(栽培)と食(食育)の概念を変えていこう!


浜松市立天竜中学校 教諭
竹村 久生

(2015/01掲載)

食物工場の時代がそこまで来ている

 昨今、消費者の間では食の安全を気にする声が高まっています。大量生産、大量消費の時代は終わり、少量でもより安全で質の高いものが消費者の心をつかんでいく「ブランド化」の時代になっています。今こそ、日本人のもの作りの技術が農業でも活かされる時ではないでしょうか。
 野菜も例外ではありません。これまでは、国内外の遠方の産地から野菜を運んで消費していました。しかし、遠くから運んで来ればくるほど、運送費がかさみ環境への負荷が大きくなります。このような考え方は「フードマイレージ」と呼ばれています。この「フードマイレージ」を極力少なくするために、地域の中で採れたものを地域の中で消費する、いわゆる「地産地消」が求められるようになっています。しかし、これからは一歩進んで、食べるスペースと同じ建物の中で野菜を栽培し、客や店員がその場で収穫した野菜を調理して食べる「店産店消」の時代が来ることと予想されます。コンピューター制御などで室内にそれぞれの野菜に一番合う栽培条件をつくり、できるだけ病気や雑菌が入らないように育てることで、食の安全性が保たれるような技術開発が求められてきています。

食の安全性から野菜のペット化と温室化を身近な所で実感させる方法

 農業には、きつい、汚い、危険のいわゆる3Kのイメージが少なからずあるのではないでしょうか。これから求められる農や食に対応するためには、このようなイメージを変える必要があります。それは、子どもから一般の方にまで言える事です。そこで考えたのは、作物に対して「ペット」をかわいがるようなイメージを抱いてもらえないかということです。ここでは、学校での作物栽培を通して、作物をペット化する方法を7つのポイントとしてご紹介したいと思います。

やさいをペット化! 7つのポイント

Point 1

「作物は育ててくれる人の足音を聞いて大きくなる」。農家の方に聞いたこの言葉を実現させるために考えついたのは、子どもたちが畑や庭(花壇)に行くのではなく、「野菜に」室内、軒先、ベランダなど、毎日目にする場所に「来てもらう」こと。

Point 2

種から育てて可愛さ倍増。種から発芽の瞬間を目にして、毎日少しずつ大きくなっていることに気づく。

Point 3

野菜が「生きている」ことを実感する。
毎日野菜を見ていると、窓の外の太陽に向かって茎や葉を延ばす様子や、水の加減でしおれたり元気になったりする様子が観察できる。

Point 4

まるでペットのための小屋を作るように、作物にとって心地よい住処を子どもたちの手でつくる。室内栽培なら、牛乳パックやペットボトルを使って。軒下やベランダでの栽培なら、発泡スチロールで。最後は市販のふわふわの布団のようなよい土を入れて完成。リサイクルもできて環境にやさしい。

Point 5

基本は底面給水の構造。下に水を溜めることで、肥料分を根から無駄なく吸い上げさせることができる。十分に種に水を届けることができ、確実に発芽させることができる。

Point 6

自然と、「自分が」野菜の命を預かっているのだという実感と責任感が生まれる。

Point 7

南東に向いた窓の桟10㎝のスペースが、野菜にとってベストな環境。温度、日当たり、風通しは良好、そのうえ、害虫や鳥も来ず、雨も当らないので野菜にとって一番育ちやすい。太陽のサン(SUN)と窓のサン(桟)をかけて、「サンサン菜園」と呼んでいる。

 こうしてペット化することで、子どもたちは自然と作物に対して愛情を持って接するようになります。「たった一粒の種がこんなに大きな野菜になる!」とわかった子どもたちの顔は驚きに満ちたものになり、目の輝きが違ってきます。そこからは農業に対する抵抗感は感じられません。日々作物の世話をし、成長を見つめ、愛情を持って育てることで、農業へのイメージを変えることができると考えます。

竹村 久生 先生

浜松市立天竜中学校・教諭

【プロフィール】

静岡大学教育学部卒業後、磐田市にて小学校教諭、浜松市中学校技術科教諭、静岡県立農業経営高等学校農業科教諭を歴任。平成19年より、静岡県立浜松視覚特別支援学校教諭。
その間、食育に関する執筆活動を行うとともに、市民園芸活動の指導等で全国で年間30回以上の実技研修会を行う。
静岡県・浜松市技術科研究会、日本農業教育学会、日本農業検定特任講師。
主な著書に『図解 おもしろ 子ども菜園(農文協)』などがある。

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