インタビュー&コラム

Column

河西由美子先生

玉川大学
通信教育部 教育学部
准教授 博士(学際情報学)

学習活動に貢献する学校図書館を目指して 後編

玉川大学 通信教育部教育学部
  准教授 博士(学際情報学)
河西 由美子

(2014/07掲載)

図書館における情報リテラシーとは

 現在、日本の情報教育では、「情報活用能力」の育成が目指されていますが、「情報活用能力」の原語である "information literacy" は、英語圏を中心とする国際社会においては、図書館分野における教育的な概念として知られています。
 日本では、1986年の「臨時教育審議会経過概要」第7章「情報化への対応」に「情報リテラシー」という用語が初登場しました。これは当時の米国の図書館界における "information literacy" の動きを反映したものと考えられますが、第2次答申以降は「情報リテラシー」の代わりに、「情報活用能力」が使用され「情報及び情報手段を主体的に選択し活用していくための個人の基礎的資質」と定義されました。その後日本では「情報活用能力」が教育用語として定着する一方、国際的な「情報リテラシー」概念が基盤としていた図書館領域の要素は抜け落ちてしまいました。

情報リテラシー教育を支えるプロセスモデル

 米国を中心とした情報リテラシー教育の背景には、図書館の利用者研究から導き出された「プロセスモデル」が存在していました。プロセスモデルとは、人工知能の開発の過程で生まれた、人間の行動プロセスを分析してモデル化したものです。学校図書館における学習者の行動モデルでは、米国のクルトー博士(Carol C. Kuhlthau)の情報探索プロセス(ISP)モデルが有名です。こうした研究は1980年代に多く行われ、1990年代の欧米の情報リテラシー教育の理論的基盤となりました。
 この時期の情報リテラシー教育の方法は、プロセスモデルによって抽出された数段階のステップをなぞることでした。商業的に普及したモデルには、米国のアイゼンバーグ博士 (Mike Eisenberg) による "Big 6" があり、「課題の定義」から「情報の評価」までの6つのステップで構成されています。

情報リテラシーから探究学習へ

 欧米諸国では、1990年代に、前述のクルトー博士やアイゼンバーグ博士のモデルを基に、国や地域レベルでの情報リテラシー教育のガイドラインが続々と策定され、ICTの導入やインターネットをはじめとするデジタル情報源の活用と併せて、図書館界の大きな流れとなりました。しかし2000年代に入ると、「プロセスをなぞる」ことに終わりがちで、学習の文脈から切り離された情報リテラシー教育の効果が疑問視されるようになってきました。
 クルトー博士は、自身が開発したISPモデルを学習の文脈の中に埋め込んだ「導かれた探究 (Guided Inquiry) 」という新しい概念を2000年代後半から提唱しています。ISPモデルが、学習者側の情報行動のモデルだとすると、「導かれた探究」は、情報リテラシー教育の要素を既存教科の中に埋め込み、探究活動を通して情報リテラシーを身につけさせる、教授側からのアプローチといえます。クルトー博士は、教員や司書が、学習者のレディネスに合わせて適切な情報源を示したり、必要な情報スキルを指導したりしながら「探究に導いていく」ことを提唱しています。日本風にいえば「調べ学習への導き」ということになるでしょう。

調べ学習パッケージとデジタル教材「まかせて!学校図書館」

 筆者はこの10年ほど、学校図書館を活用した調べ学習の実践と支援について研究してきました。学校図書館機能を駆使した調べ学習の指導は、日本では「名人芸」的な扱いですが、経験の浅い先生にも少ない負担で調べ学習指導を可能にできないか、という問題意識から、「調べ学習パッケージ(小学校向け)」を考案しました。このパッケージでは、「たね」や「だいず」などの調べ学習のテーマに応じて、調べるためのクイズと、その解答が掲載されている図書(1テーマにつき20点ほど)を組み合わせ、段階に応じて書き込みができる児童用のワークシートを添付しています。
 その後、調べ学習の前段階として学校図書館利用指導を支援するツールの必要性を感じ、それが「まかせて!学校図書館」の開発に結び付きました。同教材では「図書館の紹介・使い方」だけでなく、学校図書館を活用した調べ学習の指導ができるよう「調べ学習パッケージ」で試作したワークシートを改良して添付することにしました。現在、全国各地で「調べ学習ワークショップ」を実践していますが、その際に「まかせて!学校図書館」を活用しています。
 図書館の使命は、可能な限り多様な情報源を提供し、利用者が、各自の問題に対して妥当性のある解決・結論を導く手助けをすることです。特に学校図書館は、小・中学校という義務教育機関に必ず設置されている図書館として、全国民の生涯学習に果たす役割は極めて重要です。その重要性を一人でも多くの方に認識していただき、学校図書館を存分に教育に活用していただけるよう願っています。

まかせて!学校図書館
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小中学校の司書教諭が、学校図書館の利用指導、
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監修:河西由美子/玉川大学通信教育部教育学部 准教授 博士(学際情報学)
    堀田龍也/東北大学大学院情報科学研究科 教授 博士(工学)

●小学校低学年 第1巻/第2巻
●小学校高学年 第1巻/第2巻
●中学校    第1巻/第2巻
各 ¥2,800+税

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