インタビュー&コラム

Lead Article

小林祐紀先生

情報モラル教育の現場
岐阜県可児市の取り組み
~ 劇的に変化し続ける情報環境。幼児期から中学3年生まで継続した取り組みを目指して ~

可児市教育研究所・指導主事
奥田 晋也

(2014/07掲載)

情報化社会の急激な進展で、子どもたちを取り巻く環境も大きく変わってきています。教育の現場では、「ネット依存」や「ネットいじめ」など新しい問題に対応する必要に迫られています。
岐阜県可児市において情報モラルの指導的役割を担っている奥田晋也先生に、現在の状況やその取り組み、ご意見などをうかがいました。

ICTの激しい変化には、家庭、学校、専門家の三者が連携を

理科

可児市ICT活用実践研修会で情報モラルの研修会を実施。市内の小・中学校の先生が参加した。

 情報モラル教育について、以前まで気をつけるべきものといえば、携帯電話、ホームページ、ブログ、メールといったものだった。その後、スマートフォンが登場し、この1~2年で無料通話アプリが一挙に普及した。この1~2年の変化は非常に激しい。昨年8月、厚生労働省の研究班による「ネット依存症」についての調査結果が発表され、「ネット依存の疑いの強い中高生が、推計で全国に52万人」と大きく報じられたのも記憶に新しい。
 可児市教育研究所の奥田晋也先生は、市内学校だけでなく、その保護者にも情報モラルの必要性を説いてる。
「ICTがあまりにも劇的に変化を続けているため、大人の世代にとって、新しい技術や機器、利用方法などが分からなくなっているもの事実です。講演会で保護者の方とお話すると、ゲーム機がインターネットにつながることを、知らなかったという方は意外といらっしゃいます」。
劇的に変化するICT機器の機能やインターネットの環境についての知識を得るのは、家庭だけでは難しいと奥田先生は感じている。「専門家による情報モラル講座を受講したり、家庭に配布される情報モラル教育に関する資料を読んだりして、理解をしていくことが必要だと思います」。

地域差や年齢の壁を越えて広がるICTに対して継続した教育を

 ひと昔なら、流行の伝わり方は都市部と地方では時間差があった。しかし、現在では、携帯電話やスマートフォンを手にしてしまえば、情報モラルの問題は都市部も地方も変わりがない。2013年に岐阜県教育委員会が県内の小中学校を調査したところ、携帯電話やゲーム機の所持率は、以前より低年齢化しているという結果がでた。
 「そのため可児市でも学校に対して、保護者への啓発の機会を設けてもらうようにお願いしています。端末機を持っている年齢層は言うまでもありませんが、端末機を持つ前の幼児期にも配慮が必要です。保護者のスマートフォンをいつの間にか触っているうちに、操作を覚えてしまうという例は珍しくないからです」。
 可児市では、PTA連合会が『携帯電話に関する家庭のルール指針』として12条を掲げて啓発活動を行っている。フィルタリングをかける、携帯電話を子どもの部屋へ持ち込ませない、夜9時以降使用させないなどといったことから、保護者が発着信やメールの確認をすることなど、親子で守ろうというルールを決めたものである。
「児童生徒の情報モラル教育は、継続的に行う必要があります。これだけICTの機能やインターネット環境が変化していると、一度話したからといって情報モラルが身につくとはいえません。『メールでのトラブル』、『オンラインゲームのトラブル』、『個人情報の漏えい』など、トラブルはたくさんあります。ですから、各教科、各領域での指導はもちろんのこと、新聞記事やテレビの報道を朝の会や帰りの会の話題にするなどして、日常的に情報モラル教育を行うことも必要だと思います」と奥田先生は、力をこめる。
 可児市では、情報モラル教育の教材『あんしん・あんぜん 情報モラル オンライン』を活用している。「指導が初めての先生方でも構えずにできる操作性と、低学年の子どもたちでも面白く見られるアニメーションやストーリーが好評のようです。疑似体験コンテンツなど、子どもたちは楽しみながら体験をして学ぶことができます。また、オンラインで最新のコンテンツに更新される点も教育現場のニーズに対応できるので助かっています」。
 情報モラル教育の教材を活用することで、低学年の子にも無理なく指導ができているようだ。

携帯電話に関する家庭のルール指針

可児市PTA連合会

  • フィルタリングをかけて使用し、有害サイトや危険なサイトなどへ繋がせないこと。
  • 帰宅したら携帯は居間へ置き、自分の部屋へは、持ち込ませないこと。
  • ブログやプロフ、メールなどに友だちの悪口を書き込むなど、他人を傷つけるような使い方をさせないこと。
  • ルール違反や携帯電話の使用によって勉強や生活に支障が生じている場合には、携帯電話を取り上げること。

などの指針が記載されている。

 

 

まずは大人が気をつけて、日々のなかで「情」を共有してほしい

 ネットでつながった子ども同士の交流は、外からは見えづらく、ともすれば「端末を手放せない」という状況にもつながる。
 奥田先生は、「子ども同士では拒否できないことでも、保護者が盾になると拒否しやすくなるのではないかと思います」と語る。「例えば夜9時以降は携帯電話を使わないというルールを家庭でつくることで、友だちが連絡してきたときも、子どもは『親がダメと言っているから』という理由で断りやすいのではないかと思います。きりのないメールのやりとりなど、実は子ども自身がストレスと感じていることは案外多いものです。その場合に自分の気持ちを表現するよりも、保護者との約束を理由にして『親との約束を破ると携帯を取り上げられてしまう』といった言い訳なら言いやすいのではないかと思います」。
また、奥田先生は、大人も使い方に気をつけなくてはならない、と考えている。
「大人に使用時間の制限をかけるのは難しいですが、例えば、家族で食事中の時は触らない、子どもと話す時は触らない、といったことは大切です。 時には、携帯電話やスマートフォン、ゲーム機を持たない時間を作ることも大切ではないかと思います。インターネットは、大変便利です。でも、便利になればなるほど、『ゆとり』がなくなっているようにも思います。子どもと夕日を見て『きれいだね』と話したり、『花がいいにおいだね』『ごはんがおいしいね』と話したりするようなゆとりのある時間を持つことも、今の時代だからこそ大切だと思います。こうやって、家族いっしょに、自然を見てきれいと感じる、花の香りを感じる、食事をおいしいと感じる、といったことを『情の共有』と言います。当然ですが、インターネットの世界は、味もない、においもない、無味無臭の世界です。インターネット社会だからこそ、人間の五感を大切にした『情の共有』が大切だと思います。」
 ネットワークでつながった機器を利用するのは、確かに便利だが、人と人との直接のつながりの大切さは今でも変わらない。子どもに指導するだけが「情報モラル教育」ではない。奥田先生の「情の共有」という言葉で、われわれ大人も含めた人同士の心の交流が一番大切なことと気づかされた。


保護者に対して開催された「家庭教育学級」

テーマ「メディアとの上手な付き合い方」

内容
1. 携帯電話、スマートフォン、ゲーム機器の利用に潜む危険性を学ぶ
2. 小グループに分かれて、各家庭の実態や約束していることなどを交流
3. 小グループの意見を全体で交換し、親としてすべきことを確かめ合う

参加者からは、「ルール作りについて家族で話し合わないと、と切実に思いました」、「親のネットへの向き合い方が子どもの行為の結果につながると知りました」、「最終的には、親子のコミュニケーションが何よりも大切なのかなと思いました」等の感想が寄せられた。

 

 

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