インタビュー&コラム

Lead Article

小林祐紀先生

「誰かが」ではなく
「誰でも」使っているICT活用の秘密
~ 「誰でもICT」と「伝える力」の育成 ~

金沢市立小坂小学校・教諭
小林 祐紀

(2014/01掲載)

理科

「第15回キューブ活用コンテスト」グランプリ受賞校として「キューブランド52号」で紹介した金沢市立小坂小学校。とびぬけたICTの達人だけが活用するのではなく、学校全体で活用がすすんでいる。その秘密はどこにあるのだろうか。また、それが「伝える力」にどのようにつながっているのだろうか。今回は、その秘密を小林祐紀先生に伺った。

ICTの活用促進は、「それさえあれば使うのに」という「それさえ」を提供する

理科
体育
説明

 小林先生が、第一のポイントとして挙げたのが手の届くところに、使いたいタイミングで「もの」があることだった。電子黒板にしてもデジタルTVにしても、使いたい時に使える環境を整えることが一番。鍵のかかるパソコン教室やフロアにおいては使われない。限られた数の機器だからこそ、小林先生は普通教室に配置してほしいと要請した。他、市の予算だけでなく、学校の予算でできる限り整備している。企業の協力なども積極的に活用しているとのことだ。
 また、学校で1回30分程の「ミニ研修会」を実施している。これは操作研修ではなく、例えば、デジタル教科書と電子黒板を使った模擬授業をある先生にやってもらい、それに対して別の先生がアドバイスをする、という実践的な内容である。あくまで有志の先生が集まってやる研修であるが、ほとんどの先生が参加している。今では、「電子黒板がないと困る。」と言う先生もいるとのことである。
 小林先生は、何もかも1人でやってしまうことはしない。ちょっと機器の接続の最初だけお手伝いするとか、「それさえあれば使うのに」という人に、「それさえ」を提供する役割を大事にしている。「何でも1人でやると、気がつくと1人だったということになりかねない。」という考えからだ。小坂小学校では、小林先生の他、各学年に情報担当者をおき、月1回「ICTニューズレター」を発行している。学校にICT活用が溶け込でいるのも、こうした仕組みや工夫の結果であろう。

「誰でもICT」の環境だからこそ生まれる、様々な「伝え方」の工夫

 小坂小学校では、誰もが普通にICTを活用しているが、何でもデジタルで、とは考えていない。 小林先生は、「パソコンを使う時間が長いのはあまり良くないと思います。」と言う。操作がどんどん簡単になっているのに、パソコンに向かう時間が長いのは、いらない作業をしているかも知れない。それより「もっとシンプルにして、今やっている学習のことを悩もう。」という考えである。
 新聞制作にしても、先生が事前にある程度紙面を埋めておき、必要な部分だけ記事を書かせるようにしたり、準備した写真やグラフから選ばせるなどしている。新聞をつくりあげることが目的ではなく、学習したことを活かして実際に記事を書くということが狙いだからだ。「制限をかけた方が、いかに独自性を出そうとか、どんなことを作ろうかって、すごく考えている気がします。」と大事なポイントとして語る。
 また、パソコンなどの情報機器と、「子どもたちに身近な付箋紙、模造紙、ホワイトボードなどのアナログ的なものと、いかに織り交ぜられるかがポイントです。」と語ってくれた。実際、小坂小学校では、4月、5月頃はみんなパソコンを使いたがるが、徐々に「考えをまとめていくのは付箋紙の方が良いね。」、「ここは手書きの方が雰囲気でるよ。」とか子どもたちの方からでてくるとのことである。「キューブランド52号」で紹介した嶝先生の実践では、文章を練る場面でホワイトボードが活用されている。「自分の伝え方と伝えたい内容によって、使うものが違う。」10月頃には自然にそうなっていくそうである。先生にも子どもたちにもデジタル機器の活用が浸透しているからこそ、アナログの良さを再認識できる。これも「伝える力」ではないだろうか。

安心して話せる、どんな意見も認められるクラス

 小林先生の授業では、友だちと対話的に交流する学習と、建設的な妥協点をめぐってお互いに意見を戦わせる学習を織り交ぜることが良くされている。困った時に相談するということから、意見の違いはどこが、どう違うのか、どうしてそう思うのかを問う、という学習をいくつかのパターンで繰り返していく。グループの中で、みんなの意見を促したり、リードしたりする「ファシリテーター」という役割の子をたてることにより、実現することである。そうした工夫から、安心して話せる、どんな意見も認められるというクラスのベースができあがっていく。これは、小坂小学校が、4年前から学校研究として「小集団学習」に留意した授業展開の工夫をしていることと関係がある。

「伝わらない」ことを実感させる

理科
体育
説明

 小林先生は、「伝える力」は、自分が言いたいことを言える環境があり、受け入れてくれる土壌があり、そこにファシリテーターという存在やホワイトボード、タブレットなどの活用などの学びの仕掛けがあって、初めて育つと考えている。
 また、手だてとして「いかに自分が話したことが『伝わってないか』を実感させることが大事。」と言う。子どもたちは自分がこんなに一生懸命書いたから、それを読みさえすれば自分の言いたいことは伝わる、と思い込みがちである。そこで、例えばタブレットPCでスピーチを撮影して、周りの子どもたちから「しゃべっている間中、ずっと下を見てるよ。」とか「しゃべっているのと指し示す資料のタイミングが違う。」と指摘してもらう。「伝わってない」ことの実感。嶝先生のすぐれた「仕事リーフレットを作ろう」の実践も、その前にやった授業で「伝えたいことが伝わらない」体験から生み出されている。

 小坂小学校では、「目指す子ども像の合言葉」として、「伝えよう。なんで?なるほど!どうですか?」を掲げている。「もっと知りたいという思いをもち、質問する」、「友だちの意見を受け入れ自分の学びとする」、「自分の考えをみんなに伝える」という、学び合いのある授業の中で「伝える力」が育まれているようだ。

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