インタビュー&コラム

Lead Article

村井万寿夫先生

今、もっともメジャーなⅠCTを
 うまく使うために

金沢星稜大学・教授
村井 万寿夫

(2014/01掲載)

タブレットPCなどのⅠCTをただ使えば良い授業ができる、というわけではありません。
ⅠCTを使ったよりよい授業づくりには何がポイントなのか、何に注意しなければならないのか、金沢星稜大学の村井万寿夫先生にご寄稿いただきました。

子どもたちの学習意欲を高めるICT

 総務省が進めてきた「フューチャースクール推進事業」や文部科学省がフューチャースクール推進事業と連携して進めてきた「学びのイノベーション事業」によって、電子黒板やタブレットPC(以下双方を指す場合にICTと称します)を活用する学習効果が徐々に明らかになってきています。私は東日本地域のフューチャースクール推進事業に携わり、座長として担当する石川県内灘町立大根布小学校の子どもたちが意欲的に学習に取組む姿を多く見てきました。
 フューチャースクール推進事業は平成22年度に始まりました。今年の6年生が3年生の時の秋にICTが各教室に導入されたことになります。以降、様々な学習場面でタブレットPCを使うことにより、子どもたちの学習に対する意欲の高まりがどの学年においても見受けられました。端的に言うなら、タブレットPCを使うことで勉強が楽しくなるということです。この状況は大根布小学校だけでなく、ほかのフューチャースクール実証校からも報告されています。
 このことは、これからICTを導入する教育委員会や学校にとって大いに参考になると思われます。いわゆる学力の三要素の一つである「学習意欲」の向上や高まりに期待できるからです。ただし、あとの二つである「基礎的・基本的な知識・技能の習得」と「知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等の育成」を目的にICTを活用する際には留意すべき点があるので、後述します。

ICTを使って積極的に発表する子どもたち

 ICTが学習意欲を高めることについて上述しましたが、フューチャースクール推進事業や学びのイノベーション事業によって、調べたり表現したり、発表したりする学習活動にも効果があることが分かってきています。これまでの学習ツールに加えて、タブレットPCを使うことで、ノートや黒板などでは表現できないことが可能になるため、自分の考えを積極的に伝えようとします。ICT導入以前は人前で話すことを苦手としていた子どもがタブレットPCで自分の考えを表現できるようになったことをきっかけに、発表意欲が高まり、自信が付いたという報告を多く聞いています。表現方法の多様性、ペアやグループなどの小集団でも使える機能性など、様々なニーズに応じて使うことで、子ども一人一人の思考に応じた学習活動が可能となります。
 また、タブレットPCを使って漢字練習や計算練習を繰り返し行うことで、基礎的・基本的な知識・技能を習得することにも効果があることが分かってきています。
 これらのことから、『教育の情報化ビジョン』で示されている一斉学習(一斉による学び)、個別学習(子どもたち一人一人の能力や特性に応じた学び)、協働学習(子どもたち同士が教え合い学び合う協働的な学び)にも効果的に活用することができると言えます。

よりよい授業づくりのために

 ICTを活用することによって主体的な学習活動が促進され、学力の三要素を高めることにも効果があることについて述べてきました。しかし、だからと言ってすぐに使って予定通りの効果を上げるということはなかなか難しいと思います。なぜなら、ICTを教師や子どもたちが思った通りに使いこなすようになるには、ある程度の経験や時間が必要になるからです。
 そこで、ICTを初めて授業に使う教師、あるいは、何度か使っているけどなかなか予定通りの効果を上げることができないといった教師に、よりよい授業づくりのためのポイントを紹介したいと思います。

授業づくりの観点から大事なこと

 子どもたちの主要な学習ツールとなりつつあるタブレットPCをどのように授業に位置付けるか、これは簡単なようで意外と難しいのではないかと思います。タブレットPCは操作が簡便で、電子ペンを使って簡単に文章や図表などを表示することができ、それに印を付けたり書き込んだりしたものを転送して電子黒板に映し出すことができます。デジタル教科書や教材がサーバや子機に入っていれば、すぐに使えるようになります。例えて言うと、時には教科書のように使え、またある時にはノートや画用紙のようにして使うことができます。このように考えると、ただ単に使えばよいというものはないことが分かると思います。さらに例えて言うならば、どこで教科書を使い、どこでノートをとらせるかについてあらかじめ計画をしておかなければなりません。
 そこで、ICTを使う授業の全体像をイメージしておくことをお勧めします。言うまでもなく授業にはねらいがあり、ねらいに迫るためにICTを活用することを計画し、実施の段階において予定通りの効果が表れているかを確認する。そして、授業後にねらいの達成度を評価し、改善点について検討する。このことはタブレットPCが子どもたちにとって簡便に使えるツールであるからこそ、指導にあたる教師は十分に留意しなければなりません。

ICTを活用する授業の見取図

ICTを使う授業の全体像をイメージするため、「授業のねらい」「学習形態」「ICT活用」「学習事象」の4観点から考え、構造化したものが下図です。
 これを私は「ICTを活用する授業の見取図」と称しています。後節で授業の「前」「中」「後」の順に説明していきます。

ICTを活用する授業の見取図

ICTを活用する授業の見取図

授業「前」のポイント

 授業の前には「授業のねらい」を設定し、どのように授業を組み立てるか検討します。先ず、学習形態について考えてみましょう。すなわち、一斉学習、個別学習、協働学習のどれを取り入れるかということです。一つの学習形態で授業が終始することは少ないと思いますので、どのように組み合わせるかについて検討します。同時に、ICT活用の意図を「関心・意欲」の面から設定するか、「知識・理解」の面から設定するか、「技能・表現」の面から設定するかについて検討します。これによって、ICTを活用する意図を明確にしたり、活用する場面をイメージしたりすることができるようになると思います。
下の表は私が考えている「本時におけるICT活用の意図」です。本時の場面を7つに分け、各場面の子どもたちの意識とICT活用の意図を関連させてありますので、参考にしてください。

本時の授業場面におけるICT活用
段階 7つの場面 子どもたちの意識 ICT活用の意図
導入 既習の想起 ・前の時間は~~のことを勉強したよ 理解の確認(知識・理解)
課題の設定 ・今日の勉強もおもしろそうだな 興味の刺激(関心・意欲)
展開 方法の考案 ・こうすればいい
・こんな方法があるよ
動機の強化(技能・表現)
個々で追究 ・自分でやるぞ
・班で力を合せてやるぞ
意欲の持続(関心・意欲)
結果の記録 ・結果を出せたよ
・ノートに書けたよ
解決の喜び(技能・表現)
まとめ 結果の確認 ・やっぱりそうだった
・わかったよ
理解の定着(知識・理解)
次時の学習 ・次の時間の勉強もたのしみだな 学びの連続(関心・意欲)

授業「中」のポイント

 授業前に意図したことやイメージしたことが実際の授業の中で発現しているか、すなわち、学習事象が生起しているかを確認します。これは一般的に言うところの学習状況の把握です。
 ここでは、「前」の段階で想定したことが実際に生起しているか見取ることが重要です。見取りの結果、生起が不十分であれば軌道修正が必要になります。例えば、調べ活動が思ったように進まなければ時間を延ばす、または、タブレットPCの操作を一旦止めさせて、全体での話し合いの場をとるなどが考えられます。子どもたちが楽しそうにやっているから今日はこのまま最後まで進め、次時に軌道修正した授業を行おうとする教師がいるかもしれませんが、それはお勧めできません。なぜなら、設定したねらいは本時の時間で達成させる必要があるからです。

授業「後」のポイント

 授業が終わった後、いくつかの方法によって、ねらいに迫るためにICTが効果的に働いたかについて検討します。例えば、タブレットPCに保存された子ども一人一人の学習履歴を見る、またはノートに書かれた内容を見る、あるいは実際に板書した結果を振り返ってみる、さらには授業中の教師の観察結果を思い出すなど、いくつかの方法が考えられます。
 大事なことは、ICTを使うことによってどれだけ授業のねらいに迫れたかを複眼的に考察することです。単に意欲的だったとか、電子黒板で発表しようとする子どもが多かっただけではなく、その裏付けとなることを整理したり明確にしたりすることが重要です。これらのことによって、「次の授業」に向けた改善点が見えてくると言えるからです。

授業は「前」「中」「後」の繰り返し

 ICTは学習効果があると言えます。しかし、ICTは学習指導のツールにすぎません。ナビゲーション機能付の自動車も運転者の使い方によってとても便利なものになったり、運転者自身の目的地に行く基本的な能力を衰えさせたりすることになります。ツールを上手に使いこなすためには、いつ、どこで、どのように使ったらよいか、使い手自身が十分に考えなければなりません。特にタブレットPCは、子どもたち自身が使うものですが、その使いどころを決めるのは指導にあたる教師自身です。よって、いつ、どこで、どのように使い、その結果がどうだったかを常に考えていかなければならないと言えます。
 ICTを使っている最中、つまり、「中」だけにとらわれず、「前」「後」との関係でICTを活用する授業を考え、それを繰り返していくことで、子どもたちの学力がはぐくまれていくのです。

村井 万寿夫 先生

村井万寿夫先生金沢星稜大学・教授

【プロフィール】

【 略 歴 】
1999年 石川県教育センター情報教育課 指導主事
2005年 金沢市立新神田小学校 教頭
2006年 金沢星稜大学 経済学部 助教授
2007年 メディア教育開発センター 客員准教授
     金沢星稜大学 人間科学部准教授
2008年 メディア教育開発センター客員教授
     金沢星稜大学 人間科学部教授
2011年 金沢星稜大学 人間科学部長(~現在)

【 主な著書・論文 】
「表現力や創作力を高めるタブレット端末の活用に関する研究」
「ICTを活用した協働学習に関する実証的研究」
「タブレットPCと電子黒板を用いた協働教育の事例研究」 など

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