堀田龍也先生に聞く
「校務情報化支援検討会」の活動と思い
「校務情報化支援検討会」を立ち上げられた意図というのは何でしょうか
校務の情報化が重要であるというのは、中央教育審議会の答申や「教育の情報化に関する手引」などにも書かれていますので、皆さんよくご存知のことと思います。その中では、校務の情報化の目的として、"子どもと向き合う時間の確保"や"教育の実証性を高め、指導の質を向上させ、そのことによって説明責任を明確に果たす"、ということが書かれています。そのような国の流れもあり、校務の情報化は、これからどんどん進んでいくと思いますし、校務支援システムも急速に導入されていくと考えています。
私は、その急速に展開していくときには、誤った理解で進めてしまうような混乱の可能性があると思っています。例えば、ICTの得意な人たちが、自分たちで作ったプログラムで進めようとしたり、機能のある・なしの話ばかりがされて、学校経営や説明責任にはあまり寄与しない機能が増えてしまったりすることです。そういう不幸な事態を懸念しています。そのために、校務の情報化によって実現する学校経営の姿をできるだけ具体的に示して、校務支援システムはこういう形であるべきだ、ということが提言されなければならないと思いました。それが「校務情報化支援検討会」を立ち上げた意図、想いです。
校務情報化支援検討会には、どのような方がメンバーとして参加されているのでしょうか
学校経営を語れる立場の校長先生を中心に、校長先生を支える副校長、教頭先生や教育委員会、教育センターの先生にご参加いただいています。
校務情報化支援検討会では、具体的にどのような活動をされているのでしょうか
これからの校務の情報化は、どう進めていけば良いのかを検討しています。メンバーは、実際に学校経営をされている先生方なので、今までうまくいったこと、難しかったこと、教育委員会や先生の誤解、校務支援システムの評価が高かったところ、導入に踏み切れない背景などの情報を持ち寄ってディスカッションしています。
調査
検討している中で、学校現場の先生たちは、校務支援システムとしてどのような機能を一番欲しがっているのか学術的に調査しよう、ということになりました。全国の1,500人を超える先生方にご協力いただきました。
その結果、校務の情報化によって先生方の多忙感が解消していることや、校務支援システムの中で先生方が評価しているのは、通知表作成を支援する機能で、施設・備品予約などの機能は、相対的にあまり高く評価されないことが分かりました。
この調査結果は、できるだけオープンにしようと、校務情報化支援検討会Webで公開すると共に、学会等で研究論文として報告しています。オープンにすることで、たくさんの研究者や実践者に私たちの調査結
果を目にしてもらえますし、引用もしてもらえます。教育委員会が予算要求する時にも、調査結果を役立ててもらいたいと思っています。
詳しくは〈校務情報化支援検討会〉の「校務支援システムの機能に関する調査」へ
セミナー
全国各地で「校務の情報化推進セミナー」を行っています。これはスズキ教育ソフトのご協力をいただいて、今年は仙台と鹿児島で実施し、大変ご好評をいただいております。
セミナーのポイントは、校務支援システムを導入して、「学校経営がこう変わった」と同時に「ここは変えてはいけない」といったことを校長先生の声として、受講していただいている先生方にお話ししていただいたり、校務支援システムの便利なところは触っていただかないと伝わりにくいので、実際に操作していただいたりする時間を設けているところです。最後に国の動向とかこれからの方向については、校務情報化支援検討会で検討してきたこと、あるいは調査の結果などを合わせ、私が総括講演をしました。
詳しくは〈校務情報化支援検討会〉の「校務の情報化推進セミナー2012 仙台会場 セミナーレポート」へ
書籍
セミナーでは、やはり開催場所や日程などの関係で参加していただける人数に限りがあるため、校務情報化支援検討会の成果をできるだけ広くお伝えしたく『管理職・ミドルリーダーのための「校務の情報化」入門』という書籍を作ることにしました。
この書籍は、全ページカラーで作りました。校務の情報化を行っていないところでは、そもそも校務支援システムがどんなシステムなのか、操作が難しいのではないか、など知らないから怖いんですね。それらの不安に対して、具体的な校務支援システムの画面や、自動的に集計されていく様子をお見せし、まずイメージをつかんでいただけるような構成になっています。また、実際に学校を取材して、校務の情報化が行われた学校の1日、1学期、1年の様子も書籍の中に掲載しています。そして、本のタイトルにもありますように、管理職やミドルリーダーの先生方に向け、「校務の情報化を行うと、このように学校経営がやりやすくなるんですよ」とお伝えできればと思います。
この書籍はまだ発売されて間もないのですが、すでにたくさんの先生に読んでいただいています。
詳しくは〈校務情報化支援検討会〉の「「校務の情報化」入門」へ
通知表コンテスト
「校務支援システムによる通知表コンテスト」を企画し、実施しています。
通知表はそもそも公簿ではありません。あくまで学校裁量で発行するものですが、ずっと昔から大事にされ、各学校で地域との関係性の中で立てられた学校教育目標を踏まえたうえで、作られてきました。つまり通知表は、「学校の経営ビジョン」が保護者にアピールされる一番重要な書類なんですね。これがとても大事だと思っています。どんな通知表を保護者に提供しているのか、そこには子どもたちのどのような情報が載っているのか、どんな努力をしてきた成果なのか、それは先生がどんな指導をしてきた裏返しなのか、そういう「学校経営のビジョン」や「学校のポリシー」を具現化したものが通知表だと思います。
コンテストというのは、各校の通知表に優劣をつけるということではなく、すばらしい通知表と認められたものを公表することによって、その学校の保護者や先生は嬉しいと思うし、同時に他校はその学校の通知表から取り入れられるヒントをたくさん得て欲しいと
いうことなのです。良い学校経営に向かうために、我が校の通知表も考え方を変えてみよう、「学校経営のビジョン」をこういう風に通知表で表してみよう、という動きにぜひ繋げていただきたいと思います。
「校務支援システムによる通知表コンテスト」は、今年が1回目ですが、非常に良い通知表が応募されています。良い通知表というのは、保護者に伝えたい情報が伝わっている通知表ですが、これを手書きで行うのはとても難しいことです。だから、校務支援システムが必要とされるのです。すばらしい通知表を表彰することによって、そんな通知表を作りたいと思うような学校が増え、保護者や学校のために実現したいことを支援するシステムを導入したいという、校務の情報化の流れをしっかりと作っていければ、という風に思っているところです。
「校務情報化支援検討会」の今後の展開について、お聞かせください。
私たちの願いは、「校務を情報化したい」ということではありません。
良い学校経営をしたいと思う校長先生に情報化で寄与したい、校務支援システムが効果的に機能することによって支援したいということです。そのためには、あくまで校長先生の声、実際に通知表をつくる担任の先生の声、保護者の声、子どもの声を聞いていくということを忘れてはいけないと思っています。
校務情報化支援検討会で、校長先生や学校現場の先生の声はだいぶ分かってきましたが、今後やらなくてはいけないことは、保護者や子どもたちの声をしっかり聞き、学校経営に活かしていただけるように情報提供をしていくことだと思っています。
また、校務支援システムの機能の調査を行ってきましたが、校務支援システムの導入前・後では、どのくらい同一の対象者の意識が変わっているのか、業務が何パーセント改善しているのかなど、もっと定量的に調べ深めたいと思っています。それから、もっと全国の先生方に、役に立つ情報をお届けするために、お届けする情報の質や提供方法も含めて検討していかなければならないと思っています。
私たちの成果を、全国の教育委員会や学校などで活用していただければ良いなと思っています。
詳しくは〈校務情報化支援検討会〉の「通知表コンテスト」へ
玉川大学教職大学院・教授
【プロフィール】
東京都公立小学校・教諭、富山大学教育学部、静岡大学情報学部、
メディア教育開発センター、文部科学省・参与等を経て、現職
日本教育工学協会(JAET)会長
2011年文部科学大臣表彰(情報化促進部門)
専門は教育工学、情報教育