インタビュー&コラム

Column

学校教育でメディア・リテラシーを
どう育むか〈後編〉
武蔵大学 社会学部メディア社会学科 教授・博士(情報学)
中橋 雄


多様なメディアに囲まれて生活している現代社会を生き、発展させていく上で、大人にも子どもにも、メデイア・リテラシーは不可欠なものであると言えます。

 

 

「取捨選択」の重要性

 メディアは、ある出来事の一面を伝えることしかできません。送り手は、意図をもって何をどう伝えるか、情報を取捨選択しなければなりません。学習者は、教師の指導のもとで取捨選択の判断基準を身につける必要があります。そうでなければ、学習者は調べたことをすべて入れ込もうとしてしまいます。または、熟慮せずに伝えなくてもよいことを書いてしまうこともあるでしょう。
 その判断基準のひとつになるものは、相手意識・目的意識であると言えます。新聞が伝えるニュースは、読み手にとって新しい出来事であり、「へーっ、そうなのか。なるほどね。」と思ってもらえるもの、役に立つものである必要があります。それが新聞の役割であると言えます。もちろん相手が理解できる文章で書くということも大事ですが、相手が求めているのはどのような情報なのかを考え、相手に何を分かってもらいたいのか意識して伝えることも重要です。このように考えていくと、新聞制作の教育として、何を目的として、どのように工夫して指導すればよいか見えてきます。

 

 

 

 

葛藤する場面を学習の機会に

 佐藤幸江教諭(横浜市立高田小学校)は、4年生国語の授業で新聞作りをする授業を行いました。取材するテーマは「5年生の委員会活動」についてです。学校をリードする上位学年として5年生が、どんな活躍をしているのか伝えることを目的とした活動でした。この授業では、取材を終えて、いざ記事にしていこうとする際、葛藤する場面に遭遇したグループがありました。
 「なぜこの委員会をすることにしたのですか?」と5年生にインタビューしたところ「ジャンケンで決めた」という答えが返ってきたというのです。記事にしようとする際、そのまま新聞に書いてしまってよいのだろうか?もし、そのまま載せたら「主体性のない5年生」という悪いイメージになる。しかし、これを載せないと事実を隠蔽したことになるのでは、という葛藤がありました。
 しかしこれは、取材対象の一面にすぎないことかもしれません。そのようなつもりで話したのではないかもしれませんし、冗談や照れ隠しという可能性もあります。もし、よく確認せずに、それを掲載してしまったら、誤解を広めてしまうかもしれません。最終的には、再取材を行い、きっかけはジャンケンだったけれど誇りを持って活動をしているという話を聞くことができたようです。こうした葛藤する場面は、表現・発信することの責任を実感できる学習場面であったと言えます。

 

 

 

 

ソフトウェアを活用するメリット

 最後に、この実践では、新聞制作ソフトを使って仕上げをしていました。綺麗に仕上がるので、学習者は達成感を得ることが出来ます。しかし、教師の意図は単に見た目が綺麗だからということだけではありませんでした。ソフトウェアを活用するメリットは、学習のために試行錯誤できるところにありました。完成後に繰り返し修正することができたり、複数のパターンを作ってみて比較できたりします。写真と見出しと本文の関係を考えながら、読み手にどんな印象を与えるのか、デザイン・レイアウトの意味を考えることができるところにも良さがあります。新聞を制作するということには、実に多様な学習の要素があるのです。このような道具も活用すると授業をより豊かにすることができるでしょう。

中橋 雄 先生 プロフィール

武蔵大学 社会学部 メディア社会学科 教授
博士(情報学)

情報技術・メディアをコミュニケーションの側面から捉え、特にメディアで表現する能力を育成する方法論等、現代社会において重要性が高まっているメディア・リテラシーに関する研究を主たる専門として取り組んでいる。

 
【略 歴】

1975年 生まれ
1998年3月 関西大学 総合情報学部 卒業・学士(情報学)
2001年3月 関西大学大学院 総合情報学研究科 修士課程修了・修士(情報学)
2004年3月 関西大学大学院 総合情報学研究科 博士課程後期課程修了・博士(情報学)
2004年4月 福山大学 専任講師(2008年3月退職)
2007年4月 独立行政法人メディア教育開発センター 客員准教授(併任)(2009年3月まで)
2008年4月 武蔵大学 准教授
2011年4月 武蔵大学 教授

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