インタビュー&コラム

Column

学校教育でメディア・リテラシーを
どう育むか〈前編〉
武蔵大学 社会学部メディア社会学科 教授・博士(情報学)
中橋 雄


多様なメディアに囲まれて生活している現代社会を生き、発展させていく上で、大人にも子どもにも、メデイア・リテラシーは不可欠なものであると言えます。

 

 

メディア教育できていますか?

 学校教育の現場では、従来から壁新聞を作ったり、ポスターやチラシを作ったりして表現する学習活動が行われています。しかし、その学習内容や指導方法に目を向けると、残念ながら、「とにかく作る」、「作りっぱなしで終わる」というケースも少なくありません。
 単に作る活動さえすれば、それで学習は成立するのでしょうか?もちろん、ある活動から何も学ばないということはないと思いますが、どのようなことを狙いとして実践するのか、どのように教え、何を評価していくのかを考えていくことが重要です。
 なぜ、メディア制作をするのか?教科書に活動例が載っているから、他の先生もよくやっているからという理由ではなく、その学習で何を学ばせることが子どもたちのためになるのか、メディア・リテラシーという能力の意味から考えてみたいと思います。

 

 

 

 

 

メディア・リテラシーとは

 人と人とがコミュニケーションをとる時に間に入るものを「メディア」と言います。そして、読み・書き・計算などのように社会を発展させていく上で不可欠な能力を「リテラシー」と呼びます。
 その2つの言葉を合わせ持つメディア・リテラシーは、

(1)メディアの意味と特性を理解した上で、

(2)受け手として情報を読み解き、

(3)送り手として情報を表現・発信するとともに、

(4)メディアのあり方を考え、行動していくことができる能力

のことであると言えます。

 ここでのメディア・リテラシーは、大手マスコミからの情報を読み解く力に限定されるものではありません。電話や電子メールなど個人的なコミュニケーションの場面や、電子掲示板や動画共有サイトのように市民が情報発信する場面で発揮される力を含みます。多様なメディアに囲まれて生活している現代社会を生き、発展させていく上で、大人にも、子どもにも、メディア・リテラシーは不可欠なものであると言えます。

 

 

授業を豊かなものにするために

 人と人との間に入るものの特徴を理解し、使いこなし、社会の発展のために行動できる力、それは、学校教育でも育成していく必要があります。これまでも、メディアを学ぶことは、様々な教科・領域で取り扱われてきました。例えば、社会科で社会と情報の関わりについて学ぶ単元や、国語科では新聞・パンフレット・ポスターに関わる単元などがあります。また、教科書の中にメディア・リテラシーという言葉が登場する場合もあります。他にも道徳、音楽、美術、総合的な学習の時間など、様々な教科・領域において埋めこまれているのです。
 現在、メディア・リテラシーという言葉は、学習指導要領では使われていません。しかし、新しい学習指導要領・解説では、メディアに関わる記述が見られますし、この社会に生きるために必要な力なのですから、今後もメディア・リテラシー教育の必要性は変わることがないでしょう。メディア制作を取り入れた学習活動が、上に示したメディア・リテラシーの育成につながると考えるとどうでしょうか。目的は明確になり、日々の授業実践が、より豊かなものになると思います。

 連載2回目では、具体的な実践事例を紹介しながら、新聞制作で学べることの奥深さと指導のポイントについて解説したいと思います。


中橋 雄 先生 プロフィール

武蔵大学 社会学部 メディア社会学科 教授
博士(情報学)

情報技術・メディアをコミュニケーションの側面から捉え、特にメディアで表現する能力を育成する方法論等、現代社会において重要性が高まっているメディア・リテラシーに関する研究を主たる専門として取り組んでいる。

 
【略 歴】

1975年 生まれ
1998年3月 関西大学 総合情報学部 卒業・学士(情報学)
2001年3月 関西大学大学院 総合情報学研究科 修士課程修了・修士(情報学)
2004年3月 関西大学大学院 総合情報学研究科 博士課程後期課程修了・博士(情報学)
2004年4月 福山大学 専任講師(2008年3月退職)
2007年4月 独立行政法人メディア教育開発センター 客員准教授(併任)(2009年3月まで)
2008年4月 武蔵大学 准教授
2011年4月 武蔵大学 教授

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