インタビュー&コラム

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教育がもたらす豊かさとは

社団法人 日本教育工学振興会(JAPET) 会長
坂元 昻

(2010/10掲載)

教育の情報化の本質は、情報のもつ「力」を理解し、適切に扱うことができる情報活用能力を育むことにあります。
だからこそ、指導力のある先生に、是非コンピューターを使って欲しいと願っています。
コンピューターを活用した学習を通して、豊かな心をもった子どもたちを育てて欲しいのです。

教育とコンピューターの関わり
その変遷と展望

 コンピューターが学校現場に導入され始めた黎明期より今日まで、私自身、学校教育現場でのよりよい教育の実現に向け、常に関わりを持ち、共に歩んできました。
 振り返ると、「情報化社会」といわれる今日まで、コンピューター自体の処理能力や表現力の向上はもちろん、ネットワーク・コンピューティングの技術等、それを取り巻く環境の進化・変化、そして普及は、言うまでもなくとても大きなものでした。特にインターネットやLANなど、コンピューターをネットワークに接続して活用するという側面は、それまでの単なる“情報処理”に加え、“情報共有”という新しい概念と価値観をもたらしました。
 教育の現場でも、どのような応用が効くのか、どこに有効活用できるのか等、様々な方面から模索されてきたと言えます。ただ教育現場におけるコンピューターの整備に関しては、その歩みは決して早いものとはいえなかったのですが、今ではようやく、一部の教室や職員室にパソコンが整備され、教育の道具としてさまざまな学習場面に、また校務での活用など、有効なツールとして、ようやく普及し、用いられるようになってきました。学習用、校務用の専用ソフトウェアもさまざまな機能と学校現場で扱いやすい製品が提供されています。
 ただ、整備されてきたコンピューターが学習場面や校務において、本当に有効に機能し、活用されているかといいますと、残念ながら、全体としては、まだその段階までには至っていないようです。
 これには、活用する先生方の意識という側面も重要ですが、私どもJAPETの直近の実態調査によりますと、コンピューター活用促進に関して校長先生の意識がとても高まっているというデータが出てきました。喜ばしいことです。
 多くの校長先生はもっと活用したい、しなければと考えているのです。これは、子どもたちの学習に有効なICTの活用を進めたいという思いや、校務の情報化により、職員の多忙感・負担感を減らし、積極的に学校経営を改善したいという意識の高まりの現れであると思います。
 これからの時代は、人的、体制的面を含め、いよいよ整備されてきたコンピューター、ICT機器を有効に活用していくための手立てを学校全体で新たに考えていく必要があると言えます。そして、この1年がすごく重要な年だと感じています。

 

授業を知っている先生にこそ、
ICTを活用してほしい

 今、課題とされていることの一つに、先生ごとのコンピューター活用に対する意識の差異があります。これにはベテランの先生ほど、その必要性を感じてもらえないという、一つの傾向があります。なぜなら、そうした指導力が高いベテランの先生は、すでにすぐれた授業をなさっているので、必要性を感じることが少ないのではないかと思います。
 しかしながら、指導力のある先生こそ、是非コンピューターを使って欲しいと願っています。なぜなら、コンピューターを使えば使うほどベテランの先生が用意する教材の量と質が高い指導が出来上がると思います。さらに、教材提示の手法の幅が格段に増えることになります。逆に言えば、ベテランの先生が使ってこそ、コンピューターを活用した授業がその効果を発揮できると確信できます。指導力がなくともコンピューターが使えるという教師と比べてみて下さい。コンピューターが指導力を拡大するのです。
 また、情報教育というと、単に子どもたちがパソコンやインターネットが使えることと誤解されるケースがありますが、その本質は、情報のもつ「力」を理解し、適切に扱うことができる情報活用能力を育むことにあります。これからの子どもたちにとって、必要な力をどのように育てていけばよいのか、教師の指導力に関わってくると思います。これこそが、教育の情報化なのです。


「コンピューター」の可能性と、
育んで欲しい「豊かな心」

 コンピューターを活用できる現代の学校教育は、教科書と黒板とチョークのみで行っていたそれまでの授業に、さまざまな意味で新たな可能性の扉を開いたと言えます。そして、学習の道具としてのコンピューターの可能性はますます広がったと感じています。
 教室内でICTを活用しての教材提示や、子どもたち自身がパソコンを使ってまとめ学習をするなど、パソコン自体を便利な道具として学びの中で活用することは、特別なことではなくなりました。
 さらに、ネットワーク社会とも言われる今日、コンピューターは、その大きな特徴として簡単にネットワークで世界中の、無限のディジタル情報に繋がることができます。このことにより、インターネットでの調べ学習での活用のみならず、画像、音声、映像も含めたディジタル情報を教材として利用でき、情報発信ツールや、コミュニケーションの道具としての活用もできます。これも先進校だけの特別な話ではなくなってきました。
 さらにネットワークは、「学び」そのものを変える力をもつのではないか とも予感させます。そのようなインパクトをもっています。
 ただし、不要な、誤った情報を切り捨てる術を身につけるというのも課題ではあります。
 しかし、先生方には、前向きにコンピューターやネットワークを活用し、広い視野からの学習を進めることによって、豊かな心をもった子どもたち、進んで積極的に物事を解決する力を持った子どもたち、世界に広い視野を持って、異文化の人たちと交流する子どもたちを育てるようにしていただきたいと思います。それを通して、自分たちの人間力、教育力を培って頂きたいと願っています。 

 


坂元 昻 先生 プロフィール

社団法人 日本教育工学振興会 会長

昭和48年東京工業大学教授。教育工学の創始者のひとりとしてその確立と普及につとめる。平成4年大学入試センター副所長。9年メディア教育開発センター所長。19年東京未来大学学長。兵庫県出身。東大卒。著作に「教育工学の原理と方法」「授業改造の技法」など。

 

社団法人 日本教育工学興会【JAPET】

JAPETは昭和57年に発足した文部科学省認可の公益法人です。主な目的は、コンピュータやネットワークをはじめ、広範なシステム、教育機器・教材等を教育現場で教育工学的に活用し、教育方法の改善のための研究開発やその成果の普及・啓発を行い、初等中等教育の改善に積極的に貢献することです。
事業内容は、以下のとおりです。

●国の施策への協力
●ICT教育利用のための促進活動
●教材・教具の普及促進
●研修事業
●教育の情報化に関する広報活動

詳しくは、JAPETホームページをご覧ください。

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