インタビュー&コラム

Column

シリーズ 解説:教材費予算

(3)学校ICT環境整備予算の現状

社団法人 日本教育工学振興会
常務理事・事務局長
森田 和夫

(2009/10掲載)

 

戦後、我が国における「教育の情報化」の推移

 2001年に国がIT戦略本部を設置し、日本の国際的なIT技術推進を図ってきましたが、その後「eーJapan 戦略」でネットワーク基盤の整備を中心に、「e-Japan 戦略II」以降はデジタル技術の利活用による社会経済構造の改革を中心に政策を進めてきました。そして、今年7月に「i-Japan戦略2015」が発表されました。
 それによると、(将来ビジョン及び目標)として、2015年までに、幼保中高等学校等における教育、大学等における人材育成に関し以下を実現することとしています。

●客観的な効果測定の下で、子どもの学習意欲や学力を向上させる。

●子どもの情報活用能力を向上させる。

●高度デジタル人材のミスマッチが生じない安定的・継続的な仕組みを確立する。

●大学等における情報教育、デジタル基礎、遠隔教育等を充実する。

そして、そのための方策として挙げられる中で、初等中等教育の部分を示すと以下のとおりです。

 ネットワーク化の進展を踏まえ、各教科の授業におけるデジタル技術の活用及び情報教育を推進し、子どもの学力が情報活用能力の向上を図るため、明確な効果評価の下で、以下の方策を実施する。

●教員のデジタル活用指導力の向上
●教員のデジタル活用をサポートする体制の整備
●双方向でわかりやすい授業の実現
●情報教育の内容の充実
●校務の情報化、家庭・地域との情報連携

 

 

海外の動向

 一方、海外では、英国、米国、シンガポール、韓国をはじめとして、多くの国々が「教育の情報化」に積極的に取り組んでおり、日本は大きく立ち後れているのが現状です。英国では、インフラ環境、コンテンツ環境の整備が急速に進み、「教育情報技術を使いこなす」という計画が推進されています。米国でも、最近のコンテンツ配信の充実はめざましい。韓国では、学校でのICT活用教育がひろく行きわたっています。


 

国内の状況

 翻って、日本では、整備率が国の目標からはほど遠い状況です。
 2009年3月時点の「コンピュータ1台当たりの児童生徒数」は、〈7.2人/台〉で、2011年3月時の達成目標である〈3.6人/台〉には届いていません。この他、「普通教室におけるLAN整備率」も〈64%〉にとどまっています。また、「(超)高速インターネット接続率」は〈60.5%〉、「教員の校務用コンピュータ整備率」も〈61.6%〉と、いずれも達成目標100%に対して遠く離れた割合となっています。

 

 

今年度補正予算について

 この状況において、今年4月に政府が実施した補正予算「スクール・ニューディール構想」の中で、「学校ICT環境整備事業」により、整備率の大幅な改善が期待されています。

 その内容は、
●全てのアナログテレビをデジタル化
●校務用コンピュータを教員1人1台
●教育コンピュータ児童生徒3.6人に1台
●全ての普通教室に校内LANを整備

となっており、総事業費は4,081億円で、原則1/2が国庫補助されています。残りの1/2は「地域活性化・経済危機対策臨時交付金」等で措置がなされています。
 この政策に対して、6月末の1次募集の結果、全国自治体からの申請額は、いわゆる裏補助となる交付金が自治体裁量に依存しているという性格から、自治体によってはその確保が難しいとの理由で、全体として6月末現在で総事業費の60%程度にとどまっているようです。

 

 

新学習指導要領や国の施策における
「教育の情報化」の変化

 「eーJapan 戦略」で示された国の方針は、教育に関してはその目標達成が困難であると思われていましたが、今年度の補正予算によりICT環境整備率を大きく向上させるものと思われます。そして、新学習指導要領では、ICT環境を活かすための学習活動における活用指針が示されています。

 

 

新学習指導要領における教育の情報化について

 小・中学校の新学習指導要領において、「基礎的・基本的な知識・技能を習得させるとともに、それらを活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等を育成し、主体的に学習に取り組む態度を養うためには、児童生徒がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を適切に活用できるようにすることが重要である。また、教師がこれらの情報手段や視聴覚教材、教育機器などの教材・教具を適切に活用することが重要である。」との考え方が示されています。
 そして、各学校種ごとに総則で基本的な指針を示し、各教科等毎の適切な活用方法について記述しています。

 

 

教員の悩みと学校現場の実情

 教育の情報化に関連して、学校でのICTの普及が国の目標に達成しない理由を考えたいと思います。まず、教員が日常的に行っている校務処理や授業でのICT活用が普及していない現実があります。
 従前から、授業でのICT活用が教員の授業形態を改善し、子どもたちの学習意欲向上に効果があると言われています。しかしながら、教員のICTに対する抵抗感や効果への疑問が主な理由で普及が思わしくありません。
 学校の外へ目を向けると、社会生活での情報化の進展はめざましく、既にICT無しでは成り立ちません。それは、単に情報機器活用が企業等の業務の効率化を推進しているばかりではなく、情報の取り扱いについて社会が成熟しつつあることに注目したいと思います。
 一方、情報の陰の部分も大きな影響を与えていますが、学校や家庭を含めた日常生活の中で解決するための学習が行われることが必要です。(道徳や教科等での情報モラル学習など)
 子どもは吸収力が高く、実社会と家庭での普及が大きいことから、避けて通れない課題です。情報モラル教育や著作権教育は、社会生活に欠かすことができない重要な事柄です。
 繰り返しになりますが、子どもたちの情報の取り扱いが日常生活に必須になっていること、その手段が大きな学習効果を生むことを勘案して、今後とも積極的な取り組みが必要です。

 

 

ハードウェア・ソフトウェア/学習用コンテンツ予算の確保について

 今年度の国の補正予算は特別なこととして、国からは、地方交付税交付金が自治体に交付されています。その積算根拠として、毎年1500億円が措置されています。しかしながら、この交付金は自治体においては一般財源とされていますので、その使い道は自治体の判断に任されます。
 従って、学校のICT環境整備のためにこの予算を使うためには、自治体毎に予算確保の努力が必要となります。
 そのためには、教育現場の声を反映させること、あるいは教員が、教育の情報化の必要性と効果についての認識を高めるために、教員研修が必要です。民間の研修会も多く開かれており、有効活用していただければと思います。
 メディアの普及が学習効果を高めることは国際的にも実証済みであり、ICT活用は使い方を覚えることが目的ではなく、校務処理を大幅に改善することや子どもたちの学習効果を高め、探求心を育てることに大きな効果があります。
 便利なものは便利であり、校務処理の効率化や授業手法の改善には欠かせない道具であることについて、教員の認識を高めていただくことが肝要です。このことが、学校現場の声を大きくするために必要な要素です。

 

社団法人 日本教育工学興会【JAPET】

JAPETは昭和57年に発足した文部科学省認可の公益法人です。主な目的は、コンピュータやネットワークをはじめ、広範なシステム、教育機器・教材等を教育現場で教育工学的に活用し、教育方法の改善のための研究開発やその成果の普及・啓発を行い、初等中等教育の改善に積極的に貢献することです。
事業内容は、以下のとおりです。

●国の施策への協力
●ICT教育利用のための促進活動
●教材・教具の普及促進
●研修事業
●教育の情報化に関する広報活動

詳しくは、JAPETホームページをご覧ください。

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