インタビュー&コラム

Lead Article

堀田龍也先生

“校務の情報化”の「本質」とは
~情報の“共有”と“再利用”ができるトータルな情報化を~


玉川大学 学術研究所 准教授,博士(工学)
堀田 龍也

(2009/10掲載)

 

新学習指導要領と“教育の情報化に関する手引”

 平成20年告示の新学習指導要領を受け、平成21年3月に文部科学省より「教育の情報化に関する手引」が示されています。
 この「手引」は、学習指導要領の改訂内容に沿い、必要性が強く論じられている「教育の情報化」が円滑かつ確実に実施されるための指針となるものです。
 この「手引」を見る際、学習指導要領改訂の背景として、教育基本法の改正、学力・学習状況調査の実施、そして、情報化への対応の遅れという現実を受けて国が進めているIT新改革戦略があることを理解しておく必要があります。
 新しく示された「手引」では、学習指導要領の改訂を受け、「各教科でのICT活用」、「情報教育」、そして「校務の情報化」を取り上げ、幅広く具体的にその意義、取組みの方法を示しています。
教育委員会、学校、教員はここに書いてあることを理解して「教育の情報化」を進めていく必要があります。

 

“手引”により具体的に示された、“校務の情報化”

 このところ“教育の情報化”、特に“校務の情報化”に関する動きが加速化してきています。国が進めるIT新改革戦略により、その目標の1つである「教員1人1台のPC」が全国の学校に整備されつつあります。これはもちろん、「校務の情報化」に資するための整備です。
 今回の手引でも、第6章「校務の情報化の推進」において、校務の情報化の目的からゴールイメージ、そのプロセス、留意点が詳しく書かれています。
 ここであらためて押さえておくべき重要なポイントは、「校務の情報化」とは、それ自体が本来の目的ではないということです。つまり、情報化により、従来起きがちだった計算ミス・転記ミス等が減り、校務が円滑になることで生まれる時間を、子どもたちと接したり保護者へのサービスの充実のために使えたりするようになること、それが本来の目的です。“効率化”と“高度化”が大事であることを認識する必要があります。
 「手引」の、情報化を進めるプロセスの解説では、教育委員会主導、学校主導の2つのケースが示されています。プロセスは一様ではなく、どちらが主導で整備を進めるにしても、現状や予算に合わせて、効果を検証しながら進めていく必要があることを示しています。
 そして、セキュリティ面での留意を促しています。そもそも学校では、子どもの個人情報を扱わずに仕事をすることは不可能であること、万が一情報が漏洩した時に責任を取るのは教員だけでなく管理職や教育委員会であること、行政の仕事として、個人情報を守るセキュアなシステム環境整備を行う必要があること等が解説されています。
 「教育の情報化に関する手引」は、文部科学省Webサイトに掲載されているので、じっくり見ていただきたいと思います。

 

堀田龍也先生

“校務の情報化”の中核となる情報は
“学習指導情報”

 「校務の情報化」に資するための教員1人1台のPC配布ですが、単にPCを配布するだけではかえって多忙になってしまいます。このような事態を避けるためにも、ここで、校務の情報化の本質を踏まえ、為すべきことはまず何かを考えてみたいと思います。
 一口に情報化といっても、校務の何を、どのように情報化するのか、さまざまなアプローチがあります。まずは、「あった方がいい」くらいの話と、「なくては困る」話を区別し、情報化による効率化とその効果が最も期待できることから始めるといったビジョンを持って、システム整備の検討を進めていくことが大切です。
 その考え方のポイントとなるのは「校務の情報化」の本質である、情報の“共有”と“再利用”によって効率化と高度化を求めるということです。
 校務の情報化では、校務用グループウェアを導入して、電子メール、掲示版機能があればいいと勘違いされていることもありますが、情報化により教員の負荷の低減と効率化を図るという観点から捉えると、これらは「なくては困る」ほどのものではありません。「あった方がいい」程度のものです。
 では、まず校務の“何を”情報化することが学校で本当に必要とされているのでしょうか。
 それは、授業準備、テストの評価、個別指導といった日常における学習指導のバックグラウンドである “学習指導情報”を中核とした情報化であると考えています。つまり、実務的な出欠席情報管理、成績処理及び、それらの基盤となる名簿情報のシステム化がこれにあたります。
 「校務の情報化」の目的は、学校本来の機能を取り戻すことであることは「手引」に書かれている本質です。そして、学校で働いている人の多くは教員、営まれている時間のほとんどが授業です。学校本来の機能とは、そのような中で先生が学習内容をしっかりと教えること、子どもが学習内容を理解するということです。
 そのためにも、「なくては困る」学習指導情報を扱う実務的なシステムをまず整備し、校務を効率的に運用することにより、忙しい教員の負担を減らし、子どもと向き合う時間を増やす必要があると考えます。

 

 

情報の“共有”と“再利用”ができる
トータルな情報化を

 この学習指導情報を中核として、教員1人1台の環境に対応した形で(またはそれを見据えた形で)、校務システム面においては「トータルな情報化」へのシフトを図ることが大切です。それにより、学校全体で情報化による効果が大いに期待できます。

 

効果1) ミス、リスクの低減

 校務処理を、手書きまたは汎用の表計算ソフトで運用している「部分の情報化」では、転記ミスや計算ミスも起きがちです。また、汎用ソフトを使った部分の情報化では途中でペーパー化する必要があるといった問題や、情報の散逸の危険性等から、情報セキュリティ上も強い懸念があります。さらには汎用ソフトで部分の処理ができたとしても、作成した先生の異動等による修正・更新対応の不安もつきまといます。
 トータルな情報化においては、そうした精神的負荷や、単純な転記ミス、リスクの低減につながります。そのキーワードは、情報の“共有”と“再利用”です。

 

効果2) 情報の“共有”と“再利用”による効率的な運用

 ここで言う共有や再利用とは単にファイルの共有や提案文書を翌年も使うという程度の「ファイルの共有と再利用」ではなく、「情報の共有と再利用」です。
 学習指導情報の基幹となる名簿データが一元化してあれば、学年・学校全体で様々なケースで利用することができます。そして、名簿と関連づけられた成績処理ソフトの活用を考えると、入力処理は担任の先生で終わりますが、テストのデータが蓄積されて集計・分析され、平均が出てとなると、学年全体や教務、管理職等、複数の人が関係してくることになります。
 そのためには、「一元化した情報の共有と再利用」に対応した校務専用のシステムが必要になります。複数の教員が校務システムに学習指導情報に関わるデータを入力、編集しながら蓄積し、システム内で“共有”し、そして必要に応じた形で“再利用”、つまり活用シーンに応じた形で参照・出力ができる仕組みです。
 こうしたシステムであれば、まず転記の二度手間とミスが無くなります。そして、一元化されたデータは日々の出欠情報が出席簿になって印字できたり、その情報が通知表に反映されたりと、各種統計・印刷と効率的に幅広く活かすことができます。
 さらに、学校は管理職や養護教諭、栄養士等、そして教育委員会と、さまざまな職務が連携して運営されていますが、それぞれの職務、縦横の連携の中においても、情報の共有と再利用が効果を発揮します。

 

堀田龍也先生

校務支援システムに求められる要件

 校務支援システムに求められるのは、ネットワーク上のサーバーにデータが一元化され、複数人が専用のソフトを通して共有し、入力や集計、印刷出力など、各々の目的に沿って利用できることが前提となったシステムであることです。実務的な校務用グループウェアと言ってもよいと思います。
 そして、学校で運用するものなので、校務の活用場面や使う人に応じた適切なビューが用意されていることが大切です。入力する際は入力に適したフォームが用意され、印刷するときは公簿のビューになり、成績処理ソフトに入力し処理された情報は、同じシステム内で連携し通知表としても出力可能といった、校務の活用場面を知り尽くした校務専用の支援システムであることが望まれます。
 “校務の情報化”の成否は、学校運営や教員の仕事に関わる大きな課題です。まずは段階的に“名簿”の一元化と活用から始める等、試行錯誤を含めて是非、自分たちで計画・運用を推進してほしいと思います。
 そして、情報化への壁となっている要素として、従来からの校務の仕組みや公文書規定があります。これらはノンコンピュータを前提にしたものであって、それを守り通しながら情報化をするには無理があります。仕事を効率化・高度化するために、コンピュータ登場以前から続いている制度・規定の見直しや、決済権限の移行など、弾力的に進めていく必要があります。

 

堀田 龍也 先生 プロフィール

堀田龍也先生玉川大学 学術研究所 准教授,博士(工学)

【現職】

玉川大学学術研究所・准教授。文部科学省・参与(生涯学習政策局情報教育担当)。東京大学大学院情報学環ベネッセ先端教育技術学講座・フェロー。

【略歴】

1964 年熊本県天草生まれ。東京学芸大学教育学部卒業。電気通信大学大学院博士前期課程情報工学専攻修了。修士(工学)。東京都公立小学校・教諭,西東京科学大学理工学部・助手,富山大学教育学部・助教授,静岡大学情報学部・助教授,独立行政法人メディア教育開発センター・准教授等を経て現職。東京大学社会情報研究所・客員助教授(2001.4-2002.3),東京大学大学院情報学環ベネッセ先端教育技術学講座・客員助教授(2005.4-2006.9),国立大学法人総合研究大学院大学文化科学研究科メディア社会文化専攻(博士後期課程)・准教授(2008.6-2009.3)等を併任。慶應義塾大学文学部「情報メディア活用論」(2009.4-),聖心女子大学文学部「教育メディア論」(2006.4-)のほか,東京大学大学院情報学環,名古屋大学大学院人間発達学研究科,富山大学教育学部,金沢大学教育学部,奈良教育大学,上越教育大学等の講義を担当。

【主な研究分野】

教育工学,ICT活用,情報教育,校務の情報化。特に小学校における情報化に伴う教育内容・教育方法の開発,授業・カリキュラム開発,学習環境設計,教員研修等。教育の情報化関連企業との共同研究多数。

 

関連Web

文部科学省-「教育の情報化に関する手引」について

文部科学省-「教育の情報化に関する手引」-第6章 校務の情報化の推進(PDF)

メディアと教育を考える(堀田龍也先生ブログ)

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