インタビュー&コラム

Column

シリーズ 解説:教材費予算

(2)知っておきたい“理振法補助予算”

社団法人 日本理科教育振興協会
常務理事
瀧澤 祥彦

(2009/05掲載)

 

科学技術教育振興”の立脚点と現状

 戦後、科学技術立国を標榜し、資源の乏しい日本にとって、唯一の資源である人材の育成に向かって、理科教育振興法を成立させ、小・中・高等学校等における理数科教育を整備するため、国からの補助金制度で、「ものつくり日本」の今日の繁栄の基礎づくりを果たしてきました。
 しかし、ここ数十年の我が国の小学校における理科授業時間数は昭和46年度628時間に対し20年度では(21年度から移行期間)350時間と278時間減少(▲44.3%)し、中学校では420時間から290時間へと130時間減少(▲31.0%)しています。

 

新学習指導要領における理数教育の変化

 平成20年3月には小・中学校の新学習指導要領が告示され、40年ぶりに理科授業時数の大幅増(小学校は55時間・16%増、中学校は95時間・33%増)が示され、更に21年度から前倒し(移行期間)とし、具体的内容においても観察・実験の重視が多く盛り込まれました。
 これまでも、先生方の多くの悩みは「観察実験の器具がないか、不足している」・「消耗品の購入予算がほとんどなく、実験ができない」などが多く寄せられていました。
 これに加え、新学習指導要領(理科)の内容変化により、新たに次の課題・要望も現場から挙がっています。

(小・中学校共通事項)

・20~30代の現職の先生方ご自身の子ども時代に学習していない内容が採用されていること。

・大学生時代に観察・実験を質・量とも十分に体験していないこと。

・1クラス30名以上の実験を一人の教員で実施するには、安全指導に自信が持てない。

(小学校)

・全ての授業を持っているため、観察・実験の準備と片付けの時間が取れない。

・理科支援員を全校に配置して欲しい。

(中学校)

・理科の時数が3割強増えるが、理科教員がそれに合わせて増員されるのか?心配である。

・新内容の実験は経験がないので、何が起こるか予測できず、実験が心配である。

・理科実験助手を全校に配置して欲しい。

 

 理数科教育の推進・強化の必要性・重要性は言うまでもないことですが、これから始まる理科授業の充実に向けた施策に対応するためにも、実験・観察に必要な理科設備を整備し、授業の充実を図る必要があります。
 整備のための予算の仕組みとしては、国に申請して国の補助を受けて整備する「理科教育等設備整備費」と、国から地方交付税交付金を受けて地方自治体が独自の事業として行う「理科少額設備費」の二本立てになっています。
 特に知っていただきたいものが、前者の「理科教育振興法(理振法)」に基づく「理科教育設備整備費等補助(以下理振法補助)予算」です。

 

理振法補助予算について

 この補助制度は、小・中・高等学校等の理科授業に必要な設備(実験器具等)を公・私立の学校の設置者が、設備基準に定められている設備を整備する場合、その整備に要する経費の2分の1(沖縄は4分の3)を当該学校の設置者に対し、国が予算の範囲内で補助するという制度です。残り2分の1(沖縄は4分の1)は地方が負担することとなっていますが、当該経費については自治体の財政状況に応じ、地方交付税交付金として国から地方自治体に予算が、別途、配分されています。
 平成21年度の理振法補助予算は20億円(全体で40億円)が措置されています。
 例えば、100万円の理科実験器具等を購入する場合、一般教材費で購入するには100万円の予算が必要ですが、理振法補助予算を活用して購入すれば、市町村の負担は半額の50万円で済むことになります。
 さらに、新学習指導要領への移行期間(平成21、22、23年度)中は、新単元で使用される設備品のみ、少額設備品も理振法予算を活用して購入することができます。
 整備できる具体的な品目については、理科教育振興費国庫補助交付金交付要綱によって、学校の種別ごとに理科設備、算数・数学設備の品目、数量が定められ、参考として例示品目が掲示されています。補助の対象となる数量は、学級数により異なります。
 理振法補助予算について、また補助金の交付申請等について等、当協会(日本理科教育振興協会)ホームページにも詳しく掲載していますので、是非ご覧いただき、この制度を活用して必要整備を要求し、是非授業の充実を図っていただきたいと思います。
 しかし、理振法補助予算の推移(下グラフ参照)は、10年前の平成9年度予算は34.9億円に対し、平成20年度予算は13.2億と甚だしい減少をきたしていました。このため、理振法補助予算の整備率は小・中学校で平均20%台(平成16年度実態調査)と極めて貧困な状況にあり、このことが子どもたちの理科離れ、国民の科学技術への関心の薄さとなって現れていたと考えられます。

 

科学技術教育振興法制定への提案

 現行 理振法補助制度(予算)において、グラフで示した「理振予算年度別推移」では、10~20億円台の規模であり、この規模では、全国の1校あたり平均整備率は20%台と低迷が続くと予測され、且つ 今後の新学習指導要領対応教材を含めた普及状況の困難さ(更に、1/2地方負担の困難さなど)を認識したとき、理科教育環境の改善・子どもたちの理科離れ解消などに向けては、現行の理科教育振興法の限界を強く感じます。協会は、平成18年から第3期科学技術基本計画5か年の総投資予定額25兆円の1%:2千5百億円を基盤的な科学技術教育の振興に投資して欲しいと科学技術政策担当大臣に提言し、また、同年5月の協会の定時総会の場では、新たな“理振法を超えた理振法、産振法を超えた産振法”のソフト・ハード両面の施策を盛り込んだ「科学技術教育振興法」の制定を提案してきました。現在もその方向で推進しております。

 

 

平成21年度補正予算に向けて

 政府は3月27日2009年度予算成立を受け、平成21年度補正予算を軸とする追加経済対策(=3ヵ年最大60兆円の「需要創造と200万人の雇用創出」日経3.28.)に向け活発な動きが始まりました。
 今日まで理科教育の振興を掲げてきた協会として、新学習指導要領に必要な理科設備費など視野に、「理科教育(予算)の充実」に向け、文科省及び、文教議員等へ陳情活動をスタートいたしました。報道では、本補正予算案の国会提出は4~5月とみており、継続した活動を展開する所存です。

 

理科教育を支援する
社団法人 日本理科教育振興協会

日本全国の小学校・中学校・高等学校の理科機器及び関連教材の健全な発達・普及をはかり、理科教育の振興に寄与することを目的に、各理科教育学会・理科機器メーカー・販売会社が結集した公益法人です。

【事業内容】
(1)教育用理科機器の研究、開発
(2)教育用理科機器の規格統一並びに品質向上
(3)教育用理科機器の普及、啓発
(4)教育用理科機器の供給体制並びにアフタケアーの整備充実
(5)理科教育に関する刊行物の発行
(6)理科実験セミナー等の実施及び支援
(7)理科教育団体等の活動に対する支援
(8)その他、本会の目的を達成するために必要な事業

詳しくは、(社)日本理科教育振興協会ホームページをご覧ください。

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