インタビュー&コラム

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「キチンと文化」からの脱却を


放送大学 ICT活用・遠隔教育センター 教授
中川 一史

(2009/05掲載)

 

「習得型」の側面だけでは語れないICT活用

 現在、授業でICTを活用することによって、学力がどう上がるかという議論がよく聞かれるようになりました。それ自体はけっして悪いことではありません。現に、ICT環境を充実させるために、議会などの説得で「ICTで学力がたしかに上がったデータ」のほしい教育委員会担当者は、後をたたないようです。
 しかし、ここで取り上げられる学力といいうのが、どうも「学力=狭い意味での基礎・基本」ととられ、この部分ばかりが目立っています。つまり、キチンと「知識・理解」や「技能」を習得することを重視しているわけです。しかし、学力というものは、いわゆる「習得型」の側面ばかりの話ではないし、そこだけがICT活用効果を語れる箇所ではないはずです。 

 

「活用型」授業で表現力、思考力、判断力を育成

 2007年11月に出された中央教育審議会教育課程部会「教育課程部会におけるこれまでの審議のまとめ」によると、学習指導要領の理念である「生きる力」がこれからも必要であるとしています。その上で、課題の1つとして、「各教科における知識・技能を活用する学習活動が十分ではなかったことから、各教科での知識・技能の習得と総合的な学習の時間での課題解決的な学習や探究活動との間の段階的なつながりが乏しくなっていること」をあげています。
 つまり、「習得型」「探究型」の間に「活用型」の授業をおいて、表現力や思考力、判断力の育成の必要性を述べているわけです。しかし、実際の授業では、理想とはうらはらに、充分に子どもたちが育っていない場面を目にします。

 

日本の教育界に根強い「キチンと文化」

 この点においては、日本の教育界に根強い「キチンと文化」がすべての根源にあるように私は感じています。
 たとえばプレゼン発表の活動なら、「準備した」原稿を暗記し、「大きな声でキチンと」間違いなく読めたかを重視して評価しています。「今の時期では、まずは発表原稿をきちんと読めることがこのクラスの実態からは大事です」という主張はもっともですが、半年後にそのクラスにうかがってもまだ同じようなことから脱していないことが多いのです。
 結局、相手が誰であるかとか伝えたい内容がどう伝わったかの効果などの検討は二の次。その結果、友だちの発表を聞いた子どもの感想も「声が大きくて良かったと思います」に終始してしまう。このやり方では、プレゼンの仕方の基礎・基本の徹底はできても、それ以上の広がり・高まりがありません。
 国語の学習でパンフレット制作をしても、そのまま教室の後ろに「作品」として飾られる。壁新聞も、制作しておしまい。これら2つには、共通点があるのです。
 教師が「相手にどう読まれるのか」「実際に読んでどんなリアクションをするのか」というところまで、子どもたちに迫るような授業デザインになっていない、ということです。パンフレットは「手にとって読んでもらってナンボ」のものだし、壁新聞は「立ち止まって読んでもらってナンボ」のものであるはずです。このような実感をともなわないで、次へのステップアップもできないし、相手意識など持てるはずもありません。時には、「なぜ自分(達)が期待するように伝わらなかったのか」をふりかえる場面が必要なのです。

 

 

授業デザインの意識不足が、
子どもの学力低下の原因

 このように、授業を参観していて学習場面で「たりないなぁ」と感じるのは、伝えたいという切実感であり、相手にどうやってわかってもらえるのか、印象づけるのかということであり、この学習が自分とどうかかわり、何の役に立つかという学習の意味づけにあります。
 これらをしっかりと意識して授業デザインしていないことこそが、子どもの学力低下の大きな原因になっていると考えます。ここをおさえられると、図のような「習得型」「活用型」「探究型」を行き来させるような授業デザインが可能となります。そのような積み重ねが、子どもにとってはこれまでに学んだ基礎・基本が社会や生活でどう活用できるかを実感できるとともに、教師にとっては子ども一人一人にそのとき必要な基礎・基本に注視することができるようになるのです。

 

 

「しかけ」や「場の保証」を意識させる授業へ

 「キチンと文化」から脱却するのは、けっして平坦な道ではないし、ましてや授業がスマートに進むことはむしろ少ないと思います。時には課題に、時には共同制作をしている友達が壁となってその先を阻みます。
 しかし、そのことで今自分が何をしようとしているのか、これからどう考えなくてはならないのかを見つめ直す機会となります。よく「活動あって学びなし」と言われる学習の一番の原因は、「何のために今この活動をしているのか」ということが、子ども自身の中で、あるいは教師の中で、あやふやになっていることにあるのです。
 活動を進めながら、あらためてこれらを明らかにできるような「しかけ」や「場の保証」が十分なされることが重要だと考えます。

 

中川 一史 先生 プロフィール

放送大学 ICT活用・遠隔教育センター 教授

【略歴】

横浜市の小学校教諭、横浜市教育委員会情報教育課勤務、金沢大学教育学部 教育実践総合センター 助教授を経て、メディア教育開発センター教授(金沢大学教育学部・客員教授を併任)。
2009年4月より放送大学教授。
主な研究テーマは、「情報教育に関する学習環境」「情報教育における小中連携カリキュラム研究」「研究組織のマネージメント」「産学共同プロジェクトの実践的研究」「国語科におけるViewingの研究」など。数多くの実践コーディネートを行っている。

 

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