インタビュー&コラム

Column

IT世界教育事情 ー西方見聞録ー(1)
フィンランドのIT教育

東京工業大学 教授
赤堀 侃司

(2007/06掲載)

東京工業大学にて教育工学・情報教育の研究、また多方面にてご活躍されている赤堀先生に、全3回にわたり、 世界のIT教育先進国の取組みについて語っていただきます。


写真1/個別学習のスタイル

個別学習の風景

 写真1をご覧いただきたい。フィンランドのヘルシンキの小学校における授業風景である。教科は算数であるが、面白いのは、ある子どもが取り組んでいる内容と、隣の席に座っている子どもが取り組んでいる内容が、異なっていることである。何故かと聞いたら、子ども達の能力や理解力は各々異なるので、それぞれの子どもの特性に合わせた指導や教材が必要だからという返事であった。子どもの能力に合わせて指導すること、それは我が国でも言われている。フィンランドは、その難しい実践を行っていた。我が国の学習指導の基本は、一斉授業であるが、昨年の本誌で紹介したアジア諸国の授業形態もやはり一斉授業であることを思えば、そこに文化や思想が反映されているようである。一斉授業が子どもの能力や特性を無視しているのではなく、その国や地域に合った指導法と考えるほうが自然である。フィンランドのような小さな国では、競争や選抜という考えは少ないようである。筆者の研究室に、ヘルシンキ大学から交換留学生が来て半年間滞在したが、他のアジアからの留学生や日本の学生に比べて、競争する考えはほとんどなく、自分で考える、自分でアイデアを出す、自分で計画するなどの、自分という特性が強いようであった。それは、この写真に見られるように、小さい時から個別学習という教育を受けていたからであろう。

 


写真2/読み聞かせ

読み聞かせ

 小学校と幼稚園が隣接されている、この学校では、毎朝、小学生が幼稚園の子どもに読み聞かせを行っている。フィンランドは、PISAと呼ばれる国際学力比較でトップになった国として有名で、特に読解力の成績はきわめて優れているので注目されているが、その理由の1つに、このような読書の習慣があった。我が国でも、読み聞かせや音読などが注目されているが、読書の習慣化は、アジアでも北欧でも重要視されている。読書の習慣は、フィンランドでは、家庭でも定着していると同時に、子どもから大人までの楽しみとなっている。我が国では、楽しみというよりも、教科の中で、つまり勉強の1つとして捉えられており、先に述べた選抜や競争の中で位置づける考えが強い。このことは、学習を学校教育の範囲で考えるか、社会との関わり、すなわち生涯学習の中で考えるかの違いと言えよう。PISAは、生きるための知識と言われるように、社会との関わりで捉える学力であり、フィンランドの教育は、そこを目指していると言える。

 

赤堀 侃司  先生 プロフィール

東京工業大学 教授

略歴

昭和19年7月21日,広島県呉市生まれ,
静岡県高等学校教諭、東京学芸大学講師,助教授,
東京工業大学助教授を経て,平成3年3月から現職,
平成6年,カリフォルニア大学アーバイン校コンピュータ科学部客員教授
東京工業大学・教育工学開発センターおよび大学院社会理工学研究科
人間行動システム専攻教育工学講座に在籍,
国連大学高等研究所客員教授・放送大学客員教授・文部省メディア教育開発センター客員教授の兼任
各種委員等は、文部省、青少年を取り巻く有害情報環境対策に関する調査研究協力者,
研究開発学校企画調査協力者会議の協力者,など

 

関連Web

赤堀研究室

基礎基本、課題解決能力とICTの関わり~諸外国の実践事例から~
/赤堀侃司

フィンランドのIT教育
/赤堀侃司

ニュージーランドのIT教育
/赤堀侃司

アメリカのIT教育
/赤堀侃司

韓国のIT教育
/赤堀侃司

シンガポールのIT教育
/赤堀侃司

中国のIT教育
/赤堀侃司

 

スズキ教育ソフト